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  作者: 口羽龍
第4章 養子と実子
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 のぞみは新大阪駅に着いた。新大阪駅からは東海道新幹線に入る。新大阪駅からもっと多くの乗客が入ってきた。その中には家族連れもたまにいる。彼らは春休みでどこかに旅行に行くのだろう。彼らは楽しそうだ。それを見て、栄作は思った。ひょっとして、自分がもっと愛情を注いでいなかったから、こんな事になったのでは? 深夜から仕込みで作業をして、夕方に帰ってきて寝る。全くかまう時間がない。だけど、それは自分が選んだ道だ。望に後を継ぐのが自分の次の使命だ。


 のぞみは新大阪を出た。いつの間にか栄作は寝てしまった。新大阪から東京までは2時間半ぐらいある。まだまだ時間がある。それまでゆっくりと寝ていよう。東京に行ったら、薫に会うのはもちろん、明日香にも会う予定だ。明日香は東京でOLをしているそうだが、元気にやっているんだろうか? 恋はしているんだろうか? とても気になるな。


 眠っている間、栄作は薫と過ごした日々を思い出していた。薫はいい子だった。両親の愛情をいっぱいに受けた。栄作と接する事はあまりなかったけれど、よく育ってくれた。小学校、中学校、高校の遠足、社会見学、修学旅行をとても楽しみ、勉強を頑張った。そして、東京の大学に進学して、卒業したらここに帰ってくるつもりだった。だが、薫はあの日を境に信頼を失ってしまった。それ以来、栄作とは縁を切られたままだ。もう修復する事のない縁、もう香川に帰らないでほしい。ずっと東京にいてほしい。それが栄作の願いだ。香川に帰ってきたら、嫌なうわさが飛び交うだけだろう。


 目を覚ますと、のぞみは長いトンネルの中を走っていた。新丹那トンネルだ。徐々に東京が近づいてきた事を予感させる。栄作は車窓から並行する東海道線を見ていた。東海道線の電車は変わったな。もう何年も行っていない。その間にこんなに変わったんだな。だけど、自分は変わらない味を守り続けている。それはそれでいい事だ。


 のぞみは新横浜駅を出て、ゆっくりと走っていた。次の停車駅は品川駅だ。以前行った頃はなかった駅だ。こんな駅ができたんだな。どんな益何だろう。栄作は興味を持った。


 のぞみは終点の東京駅に着いた。栄作はゆっくりと支度を始めた。終点だから、そんなに急がなくてもいい。薫が働いている店には、いつまでに行けばいいかという制限はない。ただ、薫に会えればいいんだ。


「着いたか・・・」


 栄作は東京駅の駅舎を見た。修学旅行にできた時と変わっていない。赤レンガの駅舎こそ、東京駅だ。これを見て、東京に来たと実感できる。だが、栄作は浮かれない表情だ。薫に会うからだ。本当は会いたくなかったのに、薫が高松製麺で働いていて、しかも店長だと聞いたので、行ってみようと思ったのだ。もし、継ごうと思っているのなら、継がせないと言わなければ。


 栄作は山手線に乗り換えて、高松製麺の最寄り駅に向かった。山手線の電車もかなり近代的になった。ただ、ウグイスと言われる黄緑のラインカラーは変わっていない。変わるものもあれば、変わらないものもあるとは、こういう事だろうか?


 山手線の車内はとても混雑している。もし、電車通勤をしているのなら、薫はこれ以上の混雑の中をいつも乗っているんだな。朝ラッシュなんて、学生時代ぐらいしか体験した事がない。自分には耐えられないだろうな。


 栄作は最寄り駅にやって来た。その近くには、高松製麺の看板がある。そこで働いていると思われる。どんな姿なんだろう。とても気になるな。


 栄作は改札を抜けて、高松製麺に向かっていた。お昼時とあって、行列ができている。だが、池辺うどんほどではない。だが、讃岐うどんが人気なのに変わりはない。果たして彼らは、ここの店長の前科を知って、ここに並んでいるんだろうか? それを知ったら、もう並ばないと思うんじゃないかな?


「ここだって聞いたな」


 栄作は店内に入った。そこには何人かの従業員がいる。従業員は白い服を着ている。そして、その中には自分に似た男がいる。あれが薫だろうか?


「いらっしゃいませ」

「かけうどん小」


 栄作はかけうどんの小を注文した。メニューはいろいろあるけれど、やっぱりシンプルなかけうどんがいいな。シンプルだからこそ、うどんの味がわかるから。


「どうぞ」


 かけうどんを持ってきたのは、薫だ。薫は顔を上げた瞬間、驚いた。そこにいるのは、栄作だ。まさか、栄作が来るとは。どうしてここに来たんだろうか? もう縁は切られたはずなのに。


「えっ!?」


 薫の声を聞いて、店員が反応した。その客に、薫はどうして驚いているんだろうか? まさか、この人が薫の父、栄作だろうか?


「どうしてここに・・・」

「薫・・・」


 栄作は硬い表情だ。その顔を見て、薫は固まった。相変わらず怖い。何を言われるかわからない。


「と、父さん・・・」

「来い・・・」

「はい・・・」


 20年以上も会っていない栄作との再会に、薫は緊張していた。どうしてここに来たんだろうか? 何か話したい事があるんだろうか?

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