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  作者: 口羽龍
第4章 養子と実子
73/88

8

 それから数日後の事だった。望は入社に向けて心の準備をしていた。これから自分は本格的に後を継ぐための修行に入る。いろいろ大変だろうけど、頑張らなければ。そして、栄作に認められるようにならなければ。そうしなければ、池辺うどんは人気ではなくなってくる。


「おやすみ」


 望は驚いた。今日はどうしたんだろう。俊介が寝るのが早い。まだ夕方だ。何があったんだろう。まさか、栄作が休むんだろうか? 体調が悪いんだろうか? それとも、何か理由があるんだろうか?


「あれっ、どうして早いの?」

「大将がちょっと出かけるって聞いたから」

「えっ!? どうしたの?」


 出かける? 何かあったんだろうか? まさか、東京に行きたいんだろうか? 東京には絶縁状態にある薫がいるのに。明日香に会いたいと思ったんだろうか? それとも、何か別の理由があるんだろうか?


「まさか、僕が大将の本当の息子に会ったのを知って、会いに行くのかなと思って」


 俊介にしか言っていなかったが、栄作は聞いていたのかな? それで、東京の薫に会おうと思ったんだろうか? 絶縁状態なのに、どうして行こうと思ったんだろうか? まさか、高松製麺の店長だと知って、会おうと思って東京に向かったんだろうか?


「まさか・・・」


 話してばかりいたらだめだ。早く寝ないと。


「まぁ、もう寝るからね。おやすみ」

「おやすみ」


 俊介は家に戻っていった。望は後姿を見ている。まさか、栄作が陰で聞いていたんだろうか?


「どうしたの?」


 望は振り向いた。そこには栄作がいる。今さっきの話を聞いていたんだろうか? いけない事を言ってしまったような気がして、望はびくびくした。


「大将の本当の息子って、知ってる?」

「薫?」


 それを聞いた時、栄作の表情が変わった。今でもその名前を聞くのが嫌いなのだろう。それを聞くだけで、頭にくると思われる。それほど嫌いな息子なのだろう。


「ああ」

「東京に行った時、会ってしまったんだ」


 望は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。栄作がもう会いたくないと思っている薫に、東京で会ってしまった。本当にいいんだろうか?


「そうか。今、何してた?」

「セルフうどんチェーンの高松製麺の店長」


 やっぱりそうなのか。出所して、ここで頑張っているとは。やはり私の息子。刑務所にいたとはいえ、自分の息子だ。実力はあるな。


「そうなんだ・・・」


 だが、栄作は決めている。こいつに継がせたくない。もうあの時で縁を切っている。あいつに継がせたら、イメージが悪くなるだけだ。もう香川県に帰って来るな。一生東京にいろ。


「中学校の修学旅行で東京に行った時、偶然会ったらしいんだけど、僕は全く気付かなかった。で、先日、あの店にまた行ったら、会って実際に話をしたんだよ」


 中学校の修学旅行でも会っていたのか。たまたま入った高松製麺に薫が勤めていたとは。何という偶然だろうか?


 栄作は寝室に向かった。やはりあの事を聞いていたようだ。どうしよう。また栄作の機嫌を悪くしてしまった。望は下を向いてしまった。




 望は考えていた。薫が逮捕された時、栄作はどんな気持ちだったんだろう。信じられないような表情だっただろう。ここまで愛情をもって育ててきた薫が、こんな事をやってしまうなんて。あまりにもショッキングだっただろうな。もう会いたくないと思っただろうな。


「大将は、薫さんが高松製麺で働いてるっての、知ったのかな?」


 望は振り向いた。俊作がいる。俊介がいつもより早く寝たので、何があったんだろうと思い、望のもとにやって来た。まさか、栄作が東京に行くとは。俊介にその理由を聞いたところ、望が東京に行った時に薫に会い、高松製麺で働いていると聞いたので、会いに行こうと思ったらしい。


「そうなんだ。でも、もう大将は許してくれないだろうな」


 だが、俊作は思っている。栄作は頑固な性格だ。もう会いたくないと言っている。絶縁状態だ。どんなに頑張っても、継げないだろう。そして、一生東京にいるだろうな。自分的には、また香川県に戻って、池辺うどんで働いてほしいと思っているけれど。


「だろうな。でも薫さん、継ぎたいと思ってるみたいだよ」


 望もそう思っている。栄作は許してくれないだろうな。でも、望も俊作の想いに同感だ。ここに戻って、一緒に働いてほしい。


「本当に?」

「うん。大将と仲直りして、一緒にやってくれないかな?」


 2人とも願っていた。栄作と薫が仲直りして、一緒に頑張る姿が見たいと。だが、そうはいかないだろうな。


「僕もそう思ってるよ。でも、大将は頑固だからね」

「ああ。本当にできるのかなと思ってしまうよ」


 俊作はあくびをした。もう寝る時間だ。考えてばかりいたら、寝るのが遅くなる。明日も仕事なのに、遅くまで起きていたら体に毒だ。早く寝よう。


「うーん・・・。もう寝よう。考えないようにしよう」

「うん。おやすみ」

「おやすみ」


 俊作は部屋を出ていった。望は夜空を見ている。今頃、薫はどんな想いで同じ空を見ているんだろうか? また継ぎたいと思って空を見ているんだろうか?

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