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  作者: 口羽龍
第4章 養子と実子
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7

 望は岡山駅にやって来た。岡山駅には多くの人々が行きかっている。瀬戸大橋線はここで乗り換えだ。ホームにはすでに快速マリンライナーの他に、特急南風も入っている。南風はアンパンマン列車で、子供たちが記念撮影をしている。彼らの姿を見て、望は思った。薫も昔はこんなにかわいかったんだろうな。この頃は、あんな事をして逮捕されるとは思っていなかっただろうな。あの頃はとても仲睦まじかったんだろうな。どうして薫はこうなってしまったんだろう。ちょっと道を踏み外しただけで、栄作と縁を切られてしまった。望はそんな薫がかわいそうだと思った。何とかして実家に帰り、一緒に仕事をすることはできないんだろうか?


 望は快速マリンライナーに乗った。今日は少しおめかししてグリーン車にした。グリーン車は2階建てて、眺めがいい。これに乗れば高松まで一直線だ。そう思うと、これから頑張らなければという気持ちになる。


 望は思った。東京で薫と出会った事は栄作に言わないようにしよう。言ったら栄作がどんな顔をするか想像すると怖い。きっと、とても怒るだろうな。殴られたことはないけれど、殴られるかもしれないな。


 快速マリンライナーは岡山駅を後にした。向かうは瀬戸大橋、そして高松だ。グリーン席には何人かの乗客がいる。その中には、酒を飲んだのかぐったりとしている人もいる。望は彼らを見て、寝過ごさないか心配になった。そして、自分も飲む時があったら、こうなるんだろうかと思った。


 快速マリンライナーは夕方の瀬戸大橋を走っていく。夕日に照らされる瀬戸大橋は、とても絵になる。望は2階からその景色を見ていた。いつ見ても素晴らしい。とても見入ってしまう。薫は度々こんな景色を見てきたんだろうな。薫はどれぐらい、香川に帰っていないんだろう。とても気になるな。


 快速マリンライナーは終点の高松駅に着いた。乗客がどっと降りてくる。ここから高徳線に乗って鳴門、徳島方面に向かう人もいれば、改札を出て高松築港駅に向かう人もいる。望は高松築港駅に向かった。外は徐々に暗くなってきた。滝宮駅に着く頃には、すっかり暗くなっているだろうな。


 望は高松築港駅にやって来た。高松築港駅には何人かの人がいる。乗客の多くは会社帰りの人のようだ。これから家に帰ると思われる。望も家に帰るのだが、自分はそこまで遠くに通勤しない。自宅の隣にあるうどん屋に勤めるのだから。


 電車は高松築港駅を後にした。望は疲れた表情でロングシートに座っていた。もうすぐこの旅は終わろうとしている。そして、これから自分はうどん屋で頑張っていく事になる。以前から家業を手伝ってきたので問題はないと思うが、改めに頑張らないと。


 電車は瓦町駅にやって来た。瓦町駅で多くの乗客が乗った。ここから乗って来た人々も会社帰りのようだ。彼らはとても疲れている。自分もこれだけがんばるんだろうか? もっと気合を入れて頑張らないと。


 瓦町駅を出る頃には、すでに辺りは真っ暗になっている。しばらく走っていると、街の明かりが少なくなっていく。徐々に高松駅の中心から離れてきたようだ。そして、徐々に最寄り駅の滝宮駅が近づいてきたんだと思った。いずれにしろ、これからうどん屋で頑張らないと。


 電車は滝宮駅に着いた。望は降りた。きっとみんな、待っているだろうな。栄作に薫に会った事は話さないようにしよう。だけど、荒谷家には言おう。この人なら、言っても大丈夫だろうから。


 望は実家の前にやって来た。リビングの明かりがついている。誰かいるんだろうか? すでに栄作は寝ているはずだけど、どうしたんだろう。ひょっとして、望が帰って来るのを待っているんだろうか?


「ただいまー」


 望は玄関を開けた。すると、俊介がやって来た。まさか、俊介が来るとは。


「おかえりー。どうだった?」

「楽しかった」


 望は笑みを浮かべた。とても楽しかったようだ。いい旅行ができて、嬉しそうだな。


「そう。楽しめてよかったね。来月から頑張ってね」

「うん。あと・・・」


 それを聞いて、俊介は思った。何かあったんだろうか? まさか、明日香に恋人ができたっていうんだろうか?


「どうした?」

「大将の本当の息子に偶然出会ってしまった・・・」


 それを聞いて、俊介はハッと思った。大将の本当の息子とは、薫の事だ。婦女暴行事件で逮捕され、栄作と絶縁状態にある。まさか、出所していたとは。今、何をやっているんだろう。とても気になるな。


「えっ、出所してたの?」

「そうらしい。まさか出会うとは・・・」


 望も思っていた。まさか、栄作の息子に出会うとは。何という偶然だろうか?


「そうか・・・。薫くん、今、何してた?」

「高松製麺っていうセルフうどんチェーンの店長」


 高松製麺は聞いた事がある。香川県にはないものの、とても有名なセルフうどんの全国チェーンだ。うどんは店で手作りで、本場ほどではないけれど、とてもおいしい。まさか、薫が出所して店長になったとは。やはり大将の息子だな。とても腕がいい。


「前科があるのに、そこまで昇進するとは」


 俊介は信じられなかった。前科があるのにこんなに頑張っているとは。よほどの腕は持っているんだろうな。だけど、栄作とは絶縁している。だからここを継げないだろうな。


「信じられない」

「望も信じられないか・・・」


 望も信じられないようだ。だが、それは本当の事だ。そして思った。できる事なら、ここに帰ってきて、一緒にうどん屋を頑張ろう。だけど、それはかなうんだろうか? 栄作とは絶縁してるからな。


「どうしたの?」

「またここに帰ってきて、大将と一緒に働いてくれないかなと思って」


 ここで一緒に働くのか。前科があるとはいえ、ここまで頑張っているのだから、それはいいかもしれない。大将がどういうかわからないけれど。


「大将とは縁を切られているけど?」

「そうだな・・・」


 それを考えると、2人は下を向いてしまった。どうやっても前科は消えない。それで栄作と縁を切られている。


「どうにもならないよ。大将がああだから」

「うーん・・・。確かに・・・」


 やはり、ここを継がせるのは無理なんだろうか? 自分たちはどっちでもいいと思っているけれど、栄作と絶縁しているのだから、結局できないんだな。

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