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  作者: 口羽龍
第4章 養子と実子
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4

 望は渋谷にやって来た。渋谷駅のハチ公口には多くの若者がいる。さすが渋谷は若者の街だ。ここに来て、住む事にあこがれた。だが、自分は香川でうどん職人になるんだ。自分でそう決めた。栄作の跡を継ぎ、店を経営するんだ。彼らとは違う夢を持っている。だけど、それが自分の道なんだ。前を向いて進まなければ。


「これが渋谷か。人が多いな」


 望は渋谷のスクランブル交差点を渡った。青信号になると、多くの人々が渡る。そういえば2002年のワールドカップの時はここも大盛り上がりだったな。あの時はとても興奮した。まさか自分がここに来るとは。


 ふと、望は思った。ここの人々は、香川県に行った事があるんだろうか? 香川県へはサンライズ瀬戸で一直線だ。そこに行って、本場の讃岐うどんを食べた事があるんだろうか? 高松製麺という全国チェーンのセルフうどんの店がある。だけど、それに比べたら本場で食べるさぬきうどんがうまいに決まっている。もし行く機会があったら、ここの人々にも本物の讃岐うどんを食べてほしいな。そして、その感想を聞きたいな。


「ここの人々、香川県に行った事があるのかな? 四国に行った事があるのかな?」


 望は周辺を少し歩いていた。どこもかしこも高いビルばかりで、実家の周りとは全然違う。それに、とても賑やかだ。これが東京なんだ。ここが日本の首都なんだな。


 少し周辺を歩いて、正午前、望はハチ公像の前にやって来た。ハチ公像には多くの人が集まっている。ハチ公像は待ち合わせスポットとして知られている。望はここで明日香と待ち合わせる予定だ。明日香は東京でOLをしていると聞いている。東京に来たのなら、今日は仕事が休みらしいから、明日香に会って、一緒に東京を巡ろうかな?


「そろそろだな」

「望くん!」


 望は振り向いた。そこには明日香がいる。家を出て上京した時とあまり変わっていない。明日香は喜んでいる。久しぶりに望に会えたからだ。


「望くん! 今日来るって聞いてここに来たんだ」

「うん。本当に来たんだ」


 望も笑みを浮かべた。今日は約束の時間に来てくれて、嬉しいようだ。


「いいじゃない。一緒に巡ろうよ」

「うん」


 2人は一緒に歩き始めた。2人はとても仲睦まじい。まるでカップルのようだ。だが、本当はカップルではなく、幼馴染だ。自分たちはこれから、恋をして、結婚して、子供を設けるだろう。だけど、これからもいい関係を築いていこう。


「あれからどうしてるの?」

「OLとして頑張ってるわ」


 明日香は上京して、OLとして頑張っている。最初は慣れない事ばかりだったが、徐々に仕事に慣れてきて、上司の信頼も得た。そして、後輩から慕われる良き先輩になった。だが、これで終わりではない。もっともっと頑張って、さらに高いくらいを目指そうと持っている。明日香は前向きだ。


「そっか。僕は4月から大将の弟子だ」


 やっぱりうどん職人になるんだ。子供の頃からの目標だったもんね。だとすると、深夜3時から仕込みをする事になるんだろうか? やがて栄作の後を継いで、店のオーナーになるんだろうか? また帰って来た時には、望の作るうどんが食べたいな。そして、これまでの人生を語り合いたいな。


「そうなんだ。大変?」

「ううん。高校から手伝ってるから」


 望は4月から社員になるが、それ以前から休日を中心に店を手伝っていた。その中で、うどん作りをもっと詳しく覚えて、今では栄作と同じように作れるようになった。栄作もとても信頼している。栄作は思っている。この子なら、池辺うどんを継ぐにふさわしい。


「ふーん。これからも頑張ってね」

「ああ」


 明日香は思っていた。自分はまだ彼氏ができていない。だけど、いつか彼氏を作って、結婚したいな。そして、孫を家族に見せたいな。栄作にも見せたいな。


「私はまだまだ結婚を考えてないけど、いい人を早く見つけないとね。そして、幸せな家庭を築かないと」

「そうなんだ」


 ふと、明日香は思った。望には彼女がいるんだろうか? もしいたら、結婚を考えているんだろうか?


「望くんもいい人が見つかるといいね」

「うん。できるのかな?」


 だが、望は下を向いた。何か理由があるんだろうか?


「どうしたの?」

「高校時代にフラれたから」


 望は高校時代にフラれた事で落ち込んでいた。自分は本当に結婚できるんだろうか? どんなに恋をしても、自分の出生の事を知ると、フラれてしまうんだろうかと思ってしまう。


 と、明日香が望の肩を叩いた。望は驚いた。


「大丈夫大丈夫。見つかるって」

「本当かな?」


 だが、望は信じられない。自分は結婚できないんだと思っている。だが、明日香は励まそうとしている。


「信じて! きっとできるって」

「わかった。頑張ってみるよ」

「ありがとう」


 明日香は時計を見た。そろそろ帰る時間だ。短い時間だったけど、楽しかったな。また一緒に東京を巡りたいな。


「じゃあね。これからも頑張ってね」

「うん」


 2人は京王の渋谷駅の前で別れた。望は去っていく明日香の後ろ姿を見ている。いつか、こんな女性と巡り合い、結婚できるんだろうか? 自分には無理かもしれないけれど、きっと結婚できると信じよう。

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