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  作者: 口羽龍
第4章 養子と実子
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2

 望は滝宮駅にやって来た。滝宮駅は静かだ。平日の朝は多くの人が電車を待っているのに、今朝はあまりいない。今日が土日祝日だからだろう。


 しばらく待っていると、高松築港行きの電車がやって来た。元京急の電車だ。ホームに着くと、電車のドアが開いた。望は電車に乗り込んだ。乗客はまばらだ。その中には観光客もいる。彼らは琴平から高松に向かうと思われる。


 電車は滝宮駅を発車した。望は車窓から池辺うどんを見ている。それを見て、望は思った。薫もこんな景色を見て、東京に向かったんだろうな。だけど、もう戻れなくなった。栄作とは縁を切られてしまった。もう戻る事はないだろう。そう思った時、とても残念がっただろうな。だけど、それは自分が犯した事。しっかりと反省してここに戻ってきてほしいな。そして、僕と一緒にうどんを作ってほしいな。


 電車は心地よく揺れている。そんな中で望は、いつの間にか寝てしまった。昨日はあんまり眠れなかった。出発前はそんなもんだ。


 望が目を覚ますと、そこは片原町だ。滝宮駅を発車した時と比べたら、多くの乗客がいる。次は終点の高松築港駅だ。高松築港駅から少し歩くと、高松駅だ。そこから東京までずっとJRだ。その線路は東京までつながっている。そう思うと、気持ちが高ぶってきた。


 望は高松築港駅にやって来た。琴電はここで終点だ。望はここから高松駅に向かって歩いていた。瀬戸大橋が開業すると、高松駅周辺は様変わりした。これまで宇高連絡船で運んでいた貨物が、瀬戸大橋で運ばれることになったからだ。それに伴い、駅の構内が縮小された。縮小によって線路がなくなった場所には、新しい建物が数多く建ち、一気に真新しい風景になった。


 望は高松駅にやって来た。ここには四国各地へ行く普通電車や特急電車、瀬戸大橋を渡るマリンライナーやサンライズ瀬戸が発着している。今も昔も、高松駅は四国の玄関口だ。ここから人々は四国各地へ向かっていく。高松駅は多くの人々が行きかい、とても賑やかだ。瀬戸大橋が開業する前はどれぐらい賑やかだったんだろうか? それとも、今と同じぐらいだろうか?


 望は快速マリンライナーに乗った。快速マリンライナーの後ろ1両は2階建ての指定席とグリーン車になっていて、その他の車両は転換クロスの自由席だ。望は2階にあるグリーン車の指定席を購入した。そして、東京までの新幹線の乗車券も購入した。乗車券を見て、望は気持ちが高ぶった。これがあれば東京まで行けるんだ。とても楽しみだな。中学校の修学旅行で東京に行った時と比べて、東京はどれぐらい変わったんだろう。その目で確かめたいな。


 快速マリンライナーは高松駅を出発した。2階のグリーン車には何人かの人が乗っている。彼らは岡山に向かうと思われる。その人も新幹線に乗ってどこかに行くんだろうか? 彼らは楽しそうな表情だ。彼らを見て、望は思った。彼らは讃岐うどんを食べたんだろうか? 池辺うどんに行ったんだろうか? もし行っていないのなら、ぜひ行ってほしいな。香川県で一番おいしいと言われる店だから。そしてもう1つ思った。自分を生んだ両親もこんなに幸せいっぱいだったんだろうか? 2人とも殺された時は無念だっただろうな。もっと我が子と一緒に暮らしたかっただろうな。そして、成長した自分を見て、どう思っているんだろうか?


 坂出駅を過ぎて、快速マリンライナーは瀬戸大橋に差し掛かった。望はその風景に見とれた。中学校の修学旅行の頃は、あんまりよく見えなかった。こんなにきれいだったんだな。もっと見ていたいけど、先に進まなければ。その先には本州がある。そしてその先には東京がある。


 望は岡山駅にやって来た。ここで新幹線に乗り換えだ。あとはここから新幹線に乗れば東京に行ける。望の気持ちはますます高ぶった。東京旅行はどうなるんだろう。期待と不安が入り混じっている。


 岡山駅の新幹線ホームにやって来ると、そこには白いボディに青帯の電車がある。これが東京へ向かう新幹線、のぞみだ。これに乗れば東京に行けるのだ。望は東京行きののぞみに乗った。のぞみの指定席はそんなに人が多くない。だが、新大阪に入ったら、もっと多くの人が入ってくるだろう。


 のぞみは岡山駅を発車した。ここから東京までは長い道のりだ。ゆったりと過ごそう。望はこれまでの日々を振り返った。小学校1年生で様々な事を知った。栄作がうどん職人だった事、そしてうどん作りに興味を持った事。だけど、その年に栄作の本当に息子じゃないとわかっていじめられた。だけど、近所の人々に注意されていじめは解決した。中学校の修学旅行で知った東京。とても憧れたけど、栄作のうどん屋を継がなければならない。だからそこに住むのはごめんだ。高校では恋もした。だけど、恋はかなわなかった。本当の息子じゃないからだ。そう思うと、自分は本当に結婚できるんだろうかと思えてくる。栄作の養子になってよかったんだろうか? でも、栄作に出会わなければ、自分はうどん職人になれなかった。みんなと知り合えなかった。そう思うと、この家族に育ってよかったと思っている。

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