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  作者: 口羽龍
第3章 薫
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27

 翌朝、何も知らない薫は高松製麺に向かっていた。今日も頑張っておいしいうどんを提供しないと。みんなが待っているんだから。日に日に美枝子への思いは強くなっていった。そろそろ結婚も視野に入れよう。そうすれば、栄作とも仲直りできるかな?


 と、道端で薫は美枝子を見つけた。美枝子も出勤しているようだ。


「おはよう」


 だが、美枝子は何も話しかけない。どうしたんだろう。薫は首をかしげた。


「どうしたんだよ!」


 また話しかけたが、それでも反応しない。聞こえないんだろうか? いや、これぐらいの声なら聞こえるだろう。人はそんなにいないし。


「あれ?」


 そんな日もあるさと思い、薫は再び高松製麺に向かった。自分は店長だ。遅刻してはならない。だが、薫は気にしていた。美枝子がどうして反応しないんだろう。まさか、自分の前科がばれたからだろうか?


「おかしいな。どうしたんだろう」


 薫は駅にやって来た。今日もまた1日が始まる。頑張らなければ。だが、薫の表情は明らかに違っていた。美枝子が話しかけなかったからだ。


 薫は電車の中でも考えていた。どうして美枝子は反応しなかったのか。忙しいからだろうか? それとも、自分の前科を知ったからだろうか?


 薫は高松製麺の中でも考えていた。店員もそれに感じていた。いつもの薫の表情じゃない。何かあったんだろうか?


「うーん・・・」

「どうしたんですか?」


 薫は横を向いた。そこには店員の柳がいる。


「あの子、全然話しかけなくなって」


 あの子と聞いて、柳は美枝子の事だとわかった。美枝子がどうして話しかけなかったんだろうか?


「えっ!?」

「どうしてかわからないの?」


 柳も疑問に思った。薫ととても仲が良かったのに。どうしたんだろう。


「うん」

「何だろう・・・」


 と、柳は薫の過去を思い出した。薫はかつて、逮捕されたことがある。まさか、前科がばれて、それが原因で無視し始めたんだろうか?


「まさか、俺の前科が・・・」


 薫もそれを感じていた。それで過去に何回か女にフラれた事がある。フラれるたびに、やってなければよかったと思い、悩んでしまう。今回もそうだろうか?


 と、柳は薫の肩を叩いた。薫は驚いた。


「そんな事ないよ!」


 柳は薫を励ましたかった。だが、薫の表情は変わらない。




 と、そこに美枝子がやって来た。その横には川野がいる。2人は楽しそうに話している。それを見て、薫は近づいた。朝はどうして話しかけなかったのか、その理由を知りたかった。


「ねぇ!」


 だが、美枝子も川野も反応しない。明らかに無視している。


「ねぇったら!」

「話しかけないでよ、犯罪者!」


 突然、美枝子が叫んだ。薫と川野は驚いた。やっぱり、自分の前科が原因で無視していたのか。どんなに頑張っても、どんなに恋をしても、やっぱりその過去は消せないんだな。


「えっ!? どうしてそれを知ったの?」

「あなたの秘密、聞いたわよ。それを知って、私あきれたわ。あなたと付き合って、後悔してるわ」


 美枝子は薫を睨みつけた。昨日までの表情が嘘のようだ。何か悪い夢でも見てるんじゃないかと思った。だが、これは現実だ。


「もう罪を償ったし、俺は店長にまでなったんだよ」


 薫は必死だ。こんな過去はあったけれど、自分は店長として頑張っている。しっかりと罪は償っている。だから、仲直りしよう。そして、また付き合おう。そして、結婚しよう。


「それでもあなたは犯罪者なんでしょ?」


 だが、美枝子の気持ちは変わらない。美枝子は見向きもせずにうどんをすすっている。


「もう償ってるよ! だから仲直りしよう!」


 だが、美枝子はうどんを食べ終わると同時に、薫を引き離し、高松製麺を後にしようとした。


「ダメ! さよなら!」


 美枝子は高松製麺を出て行った。美枝子は腹が立っているような表情だ。


「そんな・・・」


 薫はその様子をじっと見ている。店員もじっと見ている。


「大丈夫?」


 落ち込んでいる薫のもとに、柳がやって来た。何とか立ち直ってほしい。そして、また仕事を頑張ってほしい。


「失恋したの?」

「俺には恋なんて、もう無理なんだ・・・」


 薫は絶望した。どんなに頑張っても、自分に結婚なんて無理なんだ。そう思うと、自然に涙が出てきた。店員は薫を慰めている。だが、薫の表情は変わらない。


「大丈夫大丈夫。店長にも理想の人が現れるって」

「本当かな?」


 薫は疑問に思えてきた。自分は前科がある。だから、フラれてしまう。このままどんなに彼女ができても、フラれてしまうんだろうな。


「本当だって」

「こんな俺でも・・・」


 薫は泣き崩れた。柳は薫の頭を撫でた。だが、それでも薫の表情は変わらない。


「拾う神は現れるって」

「うーん・・・」


 と、柳が薫の肩を叩いた。こんな事があったけど、また仕事を頑張って。そして、おいしいうどんを作ってよ。


「ほら、仕事頑張って」

「わかったよ」


 薫は涙を拭いて、またうどんを作り始めた。店員たちはそんな薫を温かく見守っている。過去の事はいいから、頑張ってうどんを作ってほしい。みんなが待っているんだから。


「しばらく何も言わないようにしよう」

「そうだね」


 失恋については何も言わないようにしよう。前科の事も。薫にとっては、それがいいだろう。だが、薫は考えていた。もう恋なんて無理だろうな。ずっとずっと孤独なままでこの人生を終えるんだろうな。

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