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  作者: 口羽龍
第3章 薫
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26

 美枝子は薫と付き合って以降、とても機嫌が良くなった。やっとりそうな人と巡り合えたと思っていた。このまま結婚して、幸せな家庭を築けたらいいな。そのために、もっと自分の気持ちを出して、薫に好かれるように頑張らないと。


「あんた、どうしたの?」


 美枝子は横を向いた。そこには同僚の川野がいる。川野は美枝子と同じ日に入社した。今ではとても仲のいい友達だ。


「この人と付き合ってるんだねどね」


 美枝子は1枚の写真を出した。そこには、高松製麺で働く薫が写っている。それを見て、川野はうらやましく思った。やっと美枝子にも好きな人ができたんだな。恋が成就てほしいなと思っていた。


「この人? いい人そうじゃない。なんて言うの?」

「薫さん」


 それを聞いて、川野は何かを思い出した。何年か前、婦女暴行事件で捕まった池辺薫の事だ。すでに懲役は過ぎているので、すでに出所していると思われるが。


「ふーん・・・。どんな人なの?」

「高松製麺っていうセルフうどんチェーンの店長。香川県の讃岐うどんの名店の息子らしいよ」


 川野は驚いた。こんなにすごい人と付き合っているとは。きっと父もすごい人なんだろうな。ぜひ、薫に会ってみたいな。そして、薫の父にも会ってみたいな。


「そうなんだ・・・」


 だが、それと同時に川野は何かを思い出した。ひょっとしてこの人、池辺薫じゃないかな? まさかだと思うけど。いや、店長をやっているぐらいだから、そんな事していないだろう。


「どうしたの?」


 川野の表情を見て、美枝子は首をかしげた。薫と聞いて、何かを考えたようだ。薫に何か秘密があるのでは?


「いや、何でもないよ」

「そう・・・」


 川野はじっと見ている。美枝子はその表情が気になった。




 その頃、薫は高松製麺でいつものように働いていた。今日は店に美枝子と川野が来ている。美枝子と付き合って以降、薫の期限が良くなった。店員もそれに気づいていた。いつの日か、結婚してほしいな。そして、子供にも薫の作ったうどんを食べてほしいな。


「うーん・・・」


 美枝子は薫を見ていた。何度見てもかっこいい。ほれぼれする。


「どうしたんだい?」


 美枝子は川野の表情が気になった。川野は薫を見ている。まさか、川野も薫の事が好きなんだろうか?


「薫と聞いて、表情が変わったよね。何かあるの?」


 美枝子は気になっていた。薫と聞いた瞬間、川野の表情が変わった。薫には何か、話したくない秘密があるんだろうか? もし会ったら、話してほしいな。


「何にもないよ」


 だが、川野は言おうとしない。いったい何だろう。全く見当がつかない。


「うーん・・・」


 また川野は考えてしまった。美枝子は首をかしげた。


「えっ、何か感じた?」

「いや、友達が薫さんと聞いて、表情を変えたから」


 美枝子は川野を気にしていた。早くうどんを食べないと、うどんが伸びちゃうよ。それに、後の客が待っているんだから、早く食べないと。


 その頃、薫も川野の表情を気にしていた。まさか、川野は自分の前科を知っているんだろうか? もしばれたら、恋に影響が出るだろう。話さないようにしているのに。


「えっ!?」

「ど、どうしたの?」


 店員は薫の様子を気にしている。何か気になる事でもあるんだろうか?


「何でもないよ」

「よかったよかった」

「はぁ・・・」


 だが、薫は気にしていた。まさか、前科がある事を気にしているのでは? 美枝子には言ってほしくない。ひょっとしたら、別れる事になるかもしれないから。


「前科あるって知られてるのかな?」

「どうやっても前科は消えないからな」


 店員は思った。薫の前科は消える事がない。それが原因で何度も女にフラれてきた。今回もそれが原因でフラれてしまうんだろうか? いや、そうなってほしくない。恋が成就してほしい。




 翌日、いつものように美枝子は会社にやって来た。入口の前には川野ら何人かの女性社員がいて、立ち話をしている。いつもはそうじゃないのに。何があったんだろうか? 美枝子は立ち止まり、その話を聞き始めた。


「あの子が付き合ってる薫さん、知ってる?」

「えっ!?」


 薫の事だ。やはり薫に何か秘密があるんだろうか? 私にはわからないけど。


「池辺薫さんって言うの」


 池辺薫と聞いて、美枝子は思い出した。あの婦女暴行事件の犯人だ。まさか、あの高松製麺の店長がその人だとは。美枝子は驚きを隠せなかった。今では丸くなって、こんなに優しい人になっているのに。こんな過去があったなんて。もし、この人と結婚したらとんでもない事になりそうだ。今すぐ別れたいな。


「えっ!? あの婦女暴行事件の?」

「らしいよ」


 立ち話をしている女性たちは、びくびくしていた。薫の事を思い出して、あの事件の事を思い出したようだ。それぐらい、あの事件は女性たちのトラウマだった。


「もう丸くなってるらしいんだけどねぇ」


 だが、川野は知っている。最近見た薫は、すっかり丸くなっている。それに、高松製麺の店長になっている。全く別人だ。付き合っても、何にも問題ないだろう。


「もう言わないようにしようよ。もう丸くなってるから」

「そうだね」


 だが、美枝子は怖いと思っていた。薫がこんな人だったとは。もう丸くなっているとはいえ、付き合っていたら家族にも、自分にも悪影響が出るだろう。早くこの人と別れないと。

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