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  作者: 口羽龍
第3章 薫
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25

 翌日の昼下がり、薫は喫茶店に来ていた。今日は休みだ。普通なら東京を散策しているが、今日はいつもと違う。誰かを待っているようで、薫は辺りを見渡している。


 今日、薫は美枝子と喫茶店でデートをする予定だ。あとは美枝子を待つだけだ。薫はドキドキしていた。彼女ができるのは初めてだ。前科のある自分に、恋なんてあるはずがないと思っていた。まさか恋に恵まれるとは。少し戸惑っていたが、デートを重ねるうちに全く不安ではなくなってきた。


「今日はここだったな」


 薫は時計を見た。まだ美枝子は来ないようだ。


「まだかな」

「お待たせ!」


 薫は横を向いた。そこには美枝子がいる。美枝子は嬉しそうだ。今日、ここでデートができるのを楽しみにしているようだ。


「あっ、どうも」


 2人は喫茶店に入った。喫茶店の中は木目調で、初めて入ったのにどこか懐かしい雰囲気だ。2人が入ると、店員がやって来た。


「いらっしゃいませ、2名様ですか?」

「はい」


 すると、店員は席に案内した。どこに座るんだろう。楽しみだな。


「こちらへどうぞ」


 店員が案内したのは、テーブル席だ。


「ご注文はどうなさいますか?」

「ショートケーキとコーヒーで」

「こっちはチョコレートケーキとレモンティーで」

「かしこまりました」


 店員は厨房に向かった。2人は店員の後ろ姿を見ている。


 ふと、美枝子は何かを思い浮かべた。何を思い浮かべているんだろう。気になるな。


「高松行ってみたいな」


 美枝子は思っていた。いつか香川県にって見たいな。そして、薫の父の店に行ってみたいな。きっと薫の作ってくれるうどんよりおいしいだろうな。


「そっか。僕の父さんのうどん屋にも行ってみてよ」


 薫は笑みを浮かべている。自分は縁を切られているけれど、そういってくれると嬉しいな。単独でいいから行ってみてよ。


「そうだね」


 突然、美枝子は考えた。薫は家に帰りたいと思っているんだろうか? 父の店を継ぎたいと思っているんだろうか?


「家に帰りたいと思ってるの?」

「うん。だけど、まだまだだと思ってる」


 薫は少し戸惑った。縁を切られたんだから、もう継ぐなんてできないだろう。だが、継がないと言ったら、美枝子に変な目で見られるかもしれない。だから、継ぐつもりだと嘘をついた。


「父さんって、厳しいんだね」

「そうなんだよ。もっと修業しなさいと言うんだ」


 美枝子は驚いた。薫の父はそんなに厳しいのかな? だから、薫の腕でいまいちというのだから、薫の父の作るうどんはもっとおいしいだろうな。


「帰省する事って、あるの?」

「ない。認められるまで帰らないと決意してるから」


 あんまり帰った事がないのか。たまには帰りたいと思っているんだろうか? ずっと東京にいて寂しくないんだろうか?


「そうなんだ」


 と、そこに店員がやって来た。2人の頼んだメニューを持ってきたようだ。


「お待たせしました、ショートケーキとコーヒーです。こちらはチョコレートケーキとレモンティーです」

「ありがとうございます」


 目の前には頼んだメニューがある。とてもおいしそうだ。


「いただきまーす」

「いただきまーす」


 2人はケーキを食べ始めた。うわさでは聞いていたが、本当においしいな。


「おいしい!」

「本当だね!」


 とてもノスタルジーな雰囲気で、ケーキがおいしい。前評判通りだ。またここでデートをしたいな。


「ここに来てよかったね」

「うん」


 美枝子は思った。薫は美枝子の両親に会いたいと思っているんだろうか? もしそうなら、来週にでも会わせたいな。


「薫さん」

「どうしたの?」


 薫は顔を上げた。美枝子がこっちから言う事はあんまりない。薫は少し戸惑った。何だろう。


「私の両親に会いたいと思ってる?」

「うん!」


 薫は会いたいと思っている。結婚をするなら、両親に会っておかないと。


「そう。会いに来てね。いい人だよ。きっと気に入ると思うよ」

「本当?」

「うん」


 薫はほっとした。きっと気に入るか。こんな自分でも大丈夫なのかな? 薫は少し戸惑ったが、きっと認めてくれると信じよう。今はこうして真面目に頑張っているのだから。


 食べ終えた2人は、店の前にいた。デートはあっという間だったけど、とても楽しかったな。また行きたいな。


「今日はありがとう。じゃあね」

「じゃあね」


 美枝子は喫茶店を後にした。薫はその後姿をじっと見ている。その女が、いつか妻になったらいいのにな。そうすれば、自分はもっと成長できると思っているのに。


 薫は地下鉄までの道を歩いていた。歩く人々の中にはカップルがいて、とてもラブラブだ。自分もああいう風に誰かと付き合いたいな。きっと栄作もあの時の事を許してくれるかもしれない。


「このまま頑張って、プロポーズしてやる!」


 ふと、薫は思った。もし結婚したら、栄作は許してくれるんだろうか? 認めてくれたら、また香川県に戻って、栄作の後を継げるかもしれないと思った。


「結婚すれば、復縁できるかな?」


 栄作はこれからの人生を妄想した。父とも仲直りして、また香川県に帰ってきて、栄作のうどん屋で働く未来を。

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