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  作者: 口羽龍
第3章 薫
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24

 一方、東京では薫がいつものように高松製麺で働いていた。あれから、薫は全く帰ろうと考えていなかった。帰っても、追い出されるだけだろう。栄作の事を思い浮かべるだけで、帰りたくなくなる。もう自分の事を許してくれないだろう。自分はここでずっと働くのだろう。


 薫の働く高松製麺に、1人の女性がやって来た。それは、この近くで働いているOLで、よくここにやって来る。女性の名は美枝子みえこだ。美枝子は薫の前にやって来た。


「いらっしゃいませ」

「釜玉小1つ!」


 美枝子は週に1回ここにやって来る。注文するのはいろいろだが、今日は釜玉を注文した。


「釜玉小1丁!」


 薫は注文した後、美枝子をじっと見ている。どうしたんだろう。店員は気にしている。もしかして、恋じゃないだろうか?


「どうしたの?」


 店員の声で、薫は我に返った。勤務中はぼーっとしていてはいけない。どうしよう。


「何でもないよ」


 だが、薫は何にもないようなふりをしている。薫は少し戸惑っている。


「ふーん・・・」


 だが、て人は思っている。もしかして、恋じゃないだろうか? 恋とは無縁だと思われていた薫にも、恋が訪れたんだろうか?


「恋でもしてんのかなと思って」

「そんな事ないよ!」


 薫は否定している。本当は美枝子と恋をしているのに。その事を、誰にも言われたくなかった。


「前みたいに捕まるんじゃねーよ」

「こら! もうその事を言うな! マイナスイメージにつながるぞ!」


 薫は怒鳴った。恋については店内では言わないでくれ。普通に仕事がしたいんだ。


「ごめんごめん」


 美枝子は釜玉うどんを食べ終えると、すぐに店を出て行った。もうすぐ仕事が始まるようだ。


「ありがとうございました!」


 と、そろそろ帰る時間だ。薫は帰る準備を始めた。いろいろあったけれど、今日はこれまでだ。帰ってゆっくりしよう。


「今日も終わった!」


 薫は帰る支度を始めた。今日はいろいろあって疲れた。明日は休みだ。帰りに酒を飲んでゆっくりしよう。


「お先に失礼します!」

「お疲れ様ですー」


 薫は家に帰っていった。この後も仕事をする従業員は薫の後ろ姿を見つめている。この先輩は本当に頼りになるな。本当にこの人は前科があるんだろうか? そう思わせる人柄だ。


 薫は夜の道を歩いていた。だが今日は、いつもと違う道だ。この先にある居酒屋に向かう予定だ。今日は美枝子と一緒に飲む日だ。すでに予約を取ってある。約束の時間までにやってきて、そこで待つだけだ。


 薫は約束した居酒屋にやって来た。まだ美枝子はやって来ていない。本当に来るんだろうか? とても不安だ。


「あっ、待たせたね」


 と、そこに美枝子がやって来た。美枝子はすでに私服に着替えている。薫は笑みを浮かべた。約束の時間に来てくれて、嬉しいようだ。


「うん」


 2人は店に入った。すると、従業員がやって来た。


「いらっしゃいませ、2名で予約の池辺様ですね」

「はい」


 従業員は2人を席に案内した。今回、2人に用意したのはカウンター席だ。


「こちらにどうぞ」

「はい」


 2人はカウンター席に座った。周りにはサラリーマンが多くいる。彼らは、明日が休みの人が多い。明日は休みだから、のんびりできるので飲んでいるようだ。


「いらっしゃいませ、お飲み物はどうなさいますか?」

「生中で」

「私も」


 2人とも生中のようだ。


「かしこまりました、生中2丁!」


 従業員は厨房の中に入った。注文を伝えに行ったようだ。


 ふと、美枝子は聞きたい事があった。薫は一体、どんな人なんだろう。教えてほしいな。


「どこで生まれたの?」

「香川県」


 香川県出身なのか。香川県は讃岐うどんの本場で、『うどん県』と観光案内などで言われている。薫は高松製麺の中でも腕がいいと言われている。道理で腕がいいんだな。この人、なかなかよさそうだ。この人となら、結婚してもいいだろうな。


「ふーん・・・。うどん県?」

「そう! で、父さんはうどん職人!」


 それを聞いて、美枝子は驚いた。父がうどん職人だとは。その腕は、父から受け継いだものだろうか? 本当においしいうどんを作ってくれる。


「そうなんだ。道理でうどんがおいしいと思った」

「ありがとう」


 と、そこに店員が生中2本をもってやって来た。注文していた生中のようだ。


「お待たせしました、生中です!」

「ありがとうございます」


 2人はグラスを持った。乾杯をするようだ。


「カンパーイ!」

「カンパーイ!」


 2人は生中を飲み始めた。2人とも、明日は休みだ。いくら飲んでもいいじゃないか。


「うまい!」


 父がうどん職人と聞いて、美枝子は思った事がある。父は継ごうとしないんだろうか? 香川県に帰ろうと思っていないんだろうか? もし変えるのなら、私も行きたいな。


「店は継がなかったの?」


 薫は少し戸惑った。栄作とは絶縁状態だなんて、言いたくない。前科がばれる可能性があるから。


「継ぎたいんだけど、修行中なんだ」


 薫は嘘を言った。薫は少し焦っている。どういう反応をするんだろう。とても気になるな。


「そうなんだ」

「親父のうどんはもっとおいしいよ!」


 薫は誇らしげだ。絶縁状態でも、それだけは誇りに思っている。だって、香川県で一番おいしいと言われているから。


「そうなの?」


 美枝子は驚いた。そんなにおいしいのか。食べてみたいな。今度、香川県に行く機会があったら、食べさせてよ。


「うん。食べてみたい?」

「うん」


 それを聞いて、薫は興奮している。ぜひ、本場の讃岐うどんを食べてほしい。チェーン店の讃岐うどんよりもずっとおいしいに決まってるさ。


「食べてみてよ。チェーン店よりずっとうまいよ」

「本当? 食べてみたいな」


 それを聞いて、美枝子はますます食べてみたいと思うようになった。どんな名前の店だろう。


「ぜひ! 休日はすごい行列だけど」

「それでも食べたい」


 2人は酔っていい気分になっていた。そして思った。このままずっと恋愛が続けばいいのに。そして、結婚出来ればいいのに。

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