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デートを終えた郁代は、いつものように帰ってきた。望に会ううちに、だんだん好きになっていき、結婚したいという気持ちが強くなった。だが、いつになるだろう。指輪を渡すまで、誰と付き合っているのかは内緒にしようと思っている。望はとてもいい人だ。この人なら、両親も認めてくれるだろうな。
「ただいまー」
家の中に入ると、母がやって来た。母はエプロンをつけている。ダイニングからは、カレーの匂いがする。今日はカレーのようだ。楽しみだな。
「おかえりー」
「今日もデートしてたの?」
「うん」
母は知っている。郁代に恋人ができたという事を。名前も知っている。実は、密かに誰とデートをしているのかを知っていた。だが、郁代には伝えていない。その日まで内緒にしていようと思っている。
「そう・・・」
だが、母の表情は浮かれない。どうしてだろう。付き合っている人に問題があるんだろうか? 恋人の事を知っているんだろうか? 秘密だと思っていたのに。
「どうしたの?」
その表情を見て、郁代は思った。ひょっとして、誰と付き合っているのかを知っているのでは? 内緒にしておこうと思っているのに。
「いや、何でもないのよ」
母は戸惑っている。何かを隠しているようだ。望に何か秘密があるんだろうか? 望は普通の子だ。香川県で有名なうどん職人の息子で、将来うどん屋を継ごうと思っているらしい。どう見ても普通なのに、どうしてだろう。
「ふーん・・・。2階行くね」
「うん」
郁代は2階に向かった。その様子を、母はじっと見ている。望と付き合って、本当にいいのか疑問に思っているようだ。望は栄作の息子だと言われているが、本当は養子だ。血はつながっていない。
「はぁ・・・」
「どうしたの?」
郁代の母は横を向いた。そこには郁代の父がいる。
「あの子の付き合ってる子、池辺望くんの事なんだけど」
「そうだけど、その子がどうしたの?」
郁代の父は首をかしげた。郁代が付き合っている望に、何かがあるんだろうか? もしあるのなら、話してほしいな。
「あの子、あの人の子じゃないのね。拾った子を自分の子にしたらしいよ」
「そうなの?」
それを聞いて、郁代の父は驚いた。今まで栄作の息子だと思っていたのに。まさか、養子だったとは。
「うん。噂で聞いたんだけど、本当なのかなって思って」
「えっ!?」
郁代の父は信じられなかった。いい人みたいだけど。郁代の父も思った。本当に行くよは望と付き合っていいんだろうかと。
「それが本当だったら、ショック受けるかなと思って」
「あんまり言いたくないのよね」
2人は不安になった。郁代には言いたくないんだけど、それは本当の事だ。郁代には普通に付き合っていてほしい。だけど、これを知ったら、どんな反応をするんだろう。
「うーん・・・」
「悩んでるの?」
「うん」
と、郁代の父が肩を叩いた。突然の事に、郁代の母は驚いた。
「まぁ、あんまり言わないようにしよう」
「そうだね」
だが、その話を郁代はドア越しに聞いていた。それを聞いて、郁代はショックを受けた。栄作の息子だと思って付き合っていた望が、栄作の本当の子供ではないとは。郁代は拳を握り締めた。騙されたと思った。もう付き合いたくないと思った。
「そんな・・・。望くん、本当の子供じゃないって」
郁代はその場にかがみこんだ。そして、うずくまった。なかなかショックから立ち直れないようだ。
「そんなそんな! 信じたくない!」
郁代は部屋に戻った。郁代は下を向いている。郁代はそのままベッドに仰向けになった。そして、望の事を思い浮かべた。どうしてこんな人と付き合ってしまったんだろう。
「ダメだ! 今日は落ち着こう!」
「郁代ー、ごはんよー」
突然、母の声が聞こえた。晩ごはんができたようだ。
「はーい!」
郁代は1階のダイニングにやって来た。食卓にはカレーとサラダがある。郁代の表情は浮かれない。何があったんだろうか? 今さっきとはまるで別人のようだ。
「どうしたの? 元気ないよ・・・」
「何でもないよ・・・」
だが、郁代は何も言おうとしない。何かを隠しているようだ。何だろうか? 秘密にせず、話してほしいな。
「そう・・・」
「いただきまーす」
郁代はカレーを食べ始めた。両親はそんな郁代をじっと見ている。まさか、望の真実を知ってしまったんだろうか? 今さっきの話を陰で聞いていたんだろうか?
「望くんの事、どう思ってる?」
母の突然の問いかけに、郁代は戸惑った。望と付き合っている事を知っているとは。どこでそれを知ったのか?
「い・・・、いい子だと思ってるよ」
郁代はいい子だと言っている。だが、望は栄作の養子だ。本当の息子だと聞いていたのに。
「そっか・・・。って、どうしたの?」
「いや、何でもないよ」
郁代は焦っている。本当は別れたいのに。
「ふーん・・・。何か知ってるの?」
「いや、何でも知ってないよ」
だが、郁代は何も言おうとしない。結局、今日の晩ごはんの時、郁代はずっと下を向いていたという。カレーはおいしいのに、どうして下を向くんだろう。2人は疑問に思っていた。