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  作者: 口羽龍
第3章 薫
57/87

19

 望と俊作は滝宮駅から実家までの道を歩いていた。のどかな風景が広がる。子供の頃から歩きなれた道だが、高校生で歩くと、どこか新鮮に感じる。どうしてだろう。


「どうしたの?」


 望は何かを考えている。いったい、何を考えているんだろう。全く想像できない。


「何でもないよ」


 望は笑みを浮かべている。俊作にはわかった。何かを隠しているに違いない。


「そっか。もしかして、恋をしてんのかなと思って」

「いやいや、そんなわけじゃないよ」


 望は照れている。本当はしているのに。だが、誰にも明かしてはならない。プロポーズするまで、2人の恋は秘密なのだから。


「そっか。でも、恋をしてもいいじゃん」

「そ、そうだよね・・・」


 望は焦っている。何も言いたくないのに、恋かと思われると焦ってしまう。秘密にしたいのに。


「俺はまだ恋をしていないけど、いつかはしたいな。だって、高校での恋って、いいじゃないか」

「そうだよね」


 池辺うどんの前にやって来た。2人はここで別れる。池辺うどんの前は静かになっていた。池辺うどんはすでに閉店していて、行列はできていない。


「じゃあね、バイバーイ」

「バイバーイ」


 望は栄作の家に向かって歩き出した。中学校を卒業してから、望は池辺家に住むようになった。これは、卒業後に池辺うどんで働くための準備も兼ねているようだ。栄作と一緒に暮らす事で、何かを感じてほしいという栄作の思惑からだ。


 望は池辺家の前にやって来た。閉店しているので、すでに栄作は帰っているはずだ。


「大将ただいま!」

「おお、おかえり」


 望が中に入ると、栄作がやって来た。栄作はすっかり明るい表情になっていた。すでに薫の事を忘れているようだ。


 栄作は2階に向かう望の後ろ姿を見ている。その姿を見ていると、どこか死んだ妻を思い出してしょうがない。


「まったく、妻の部屋にいると、妻に見えてしょうがないんだよな」


 それを聞いて、望は立ち止まり、振り向いた。栄作の一言に反応したようだ。


「どうしたの?」

「いや、何でもないよ」


 望は苦笑いをした。また死んだ妻の事を考えているようだ。自分は男なのに。どうして妻を思い出してしまうんだろうか?


「ふーん。妻の事を考えてんじゃないのかなって」

「そうじゃないよ」


 本当は考えているのに。どうして明かさないんだろう。まぁいいか。望は再び前を向き、2階に向かった。


 望は部屋に入ると、鞄を置き、ベッドに横になった。


「今日も疲れたなー」


 望は少し休んでいた。今日も疲れた。高校になってからの事、通学時間が増えたし、授業の時間も量も、覚える事も増えた。だけど、仕事はもっと厳しい。もっと頑張らないと。


 数十分後、望は再び起きた。勉強を頑張らないと。


「さてと、勉強勉強」


 望は勉強を始めた。勉強はなかなか大変だけど、成績を上げるために頑張らないと。成績を上げて、先生やみんなに褒められたい。そして、みんなに頼りにされたい。栄作に褒められた。そのためには、勉強を頑張らないと。


 突然、電話がかかってきた。誰からだろう。栄作は外を散歩していて、留守だ。自分が出なければ。望は1階にやってきて、受話器を取った。


「もしもし」

「望くん?」


 郁代だ。どうしたんだろう。まさか、デートの事かな?


「うん。そうだけど」

「今度、高松でデートしないかなって」


 それを聞いて、望は嬉しくなった。高校になり、郁代と仲良くなってから、高松に行く事が多くなった。ここの雰囲気もいいけど、徐々に都会の雰囲気に慣れていかないと。


「いいけど」

「ありがとう」


 望は受話器を置いて、2階に向かおうとした。だが、その横には散歩から戻ってきた栄作がいる。まさか、電話の内容を聞いていたんだろうか? 望は少し焦った。


「何を話してたんだ」

「何でもないよ」


 望は苦笑いをした。本当に何でもない話なんだ。気にしないでくれ。


「ふーん、そうか」

「ところで最近、週末にどこかに出かけるのが多いけど、何かあるのか?」


 栄作は怪しく思っていた。ここ最近、週末にどこかに出かける事が多くなった。栄作は疑問に思っていた。ひょっとして、どこかで遊んでいるのでは? いけないというわけではないが、何をしているのか知りたかった。


「いや、何でもないよ。ちょっとこの辺りを歩いてるだけ」

「それならいいけど」


 栄作はほっとした。この辺りを歩いているだけなら、全く気にならない。高松に行くのなら、少し気になるけど。望は再び2階に向かった。


 望は2階の部屋に入った。


「はぁ・・・」


 望は少し深呼吸をした。デートの事を言いたくないのに。聞かれてしまい、少し焦った。


「郁代ちゃん・・・」


 望は再び勉強を始めた。だが、週末のデートの事を考えると、あまり進まない。それほど、郁代の事が気になっているのだ。


「週末に会うのが楽しみだなー」


 だが、望には気になっている事があった。自分は栄作の本当の息子ではない。養子だ。郁代は栄作の息子だと知って付き合っている。それを知ったら、郁代はどんな反応をするんだろう。とても心配だ。


「でも、僕が大将の息子じゃないって知ったら、どう反応するんだろう」


 あまり気にしていたら、勉強が進まない。もう考えないようにしよう。


「まぁ、考えないようにしよう。普通に付き合えば大丈夫だ」


 と、そこに栄作がやって来た。栄作はもう寝るようだ。起きるのは深夜の3時だ。その頃は寝ているだろう。


「俺はもう寝るからな。おやすみ」

「おやすみ」


 栄作は扉を閉め、自分の部屋に向かった。

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