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  作者: 口羽龍
第3章 薫
53/87

15

 翌日、望はいつものように家に帰ってきた。望はいつも以上に緊張している。というのは、今日の夜に専願の高校の入試の結果がわかるからだ。この日に自分の未来が決まるんだと思うと、とても緊張する。自分はこの先、どうなるんだろう。それは、誰もわからない。どんな未来が待っていても、自分はこの道を貫くんだ。栄作の跡を継いで、池辺うどんの大将になるんだ。


「ただいまー」

「おかえりー」


 望は荒谷家に戻ってきた。俊介と安奈はすでに帰っている。2人とも、今日が結果発表だと知っている。2人も緊張している。自分たちの子供でなくても、一緒に暮らしている望の合否がわかると聞くと、緊張するものだ。


「今日はいよいよ結果がわかるね」

「うん」


 そう聞くと、望は少し緊張した。本当は聞きたくなかったのに。それを聞くと、どうしても緊張してしまう。今日で未来が決まるのだから。


「緊張してる?」

「うん」


 と、俊介が肩を叩いた。俊介は明るい表情をしている。その顔を見ると、望は少し表情がほころぶ。


「もし合格したら、みんなで祝おう!」

「ああ」


 と、そこに栄作がやって来た。まさか、栄作も来ているとは。今日は望の未来が決まる日だ。だから荒谷家に来て、その結果をいち早く聞こうと思っているようだ。栄作もどこか緊張しているようだ。実の息子ではないが、将来自分の跡を継ぐんだと思うと、いい高校に行ってほしいという思いがある。


「おう」

「大将・・・」


 望は下を向いた。栄作がいる。それだけで下を向いてしまう。それぐらい怖い人だとわかっているのに。何度見ても、栄作の怖い表情には慣れない。将来、池辺うどんで働こうと思っているのに、これに慣れなければやっていけないだろう。


「どうして来たの?」

「今日、合格発表だと聞いてな」


 やっぱり、今日は合格発表だと聞いて、荒谷家に来たようだ。栄作も望を気にしているんだな。栄作のためにも、いい所に進学して、池辺うどんを継がなければ。


「そうなんだ」

「望の将来が今日決まるんだからな」

「そうだね」


 望は照れている。こんなに多くの人が注目しているとは。


「緊張してるか?」

「うん」


 と、栄作は望の肩を叩いた。望を元気づけているようだ。


「受験って、そんなもんだよ。大将も合格発表の時は緊張したよ。お互い様じゃないか?」


 栄作も高校受験の時は緊張したものだ。だが、専願の高校に合格できたからこそ、今の自分があるんだと思うと、高校での3年間を頑張らなければと思ってくる。


「そうなんだ」

「誰だって、この瞬間は緊張するもんだよ」


 みんな緊張するんだ。自分だけじゃないんだ。栄作も結果発表の時はこんなに緊張したんだろうか? 緊張しているのは自分じゃけじゃないんだな。


「へぇ」

「どうなるのかな?」


 望は入試の結果が気になってしょうがない。栄作もそうだったんだろうか? 今頃、どんな結果が出ているんだろう。とても気になる。昨日の夜は全くと言っていいほど眠れなかった。


「どうなるにしろ、頑張ったんでしょ?」

「うん」


 安奈は明るい表情だ。今日が入試の結果発表だと知っている。だが、平常心で、いつもの日々を過ごそう。


「ならば悔いはないでしょ?」

「ああ」


 突然、電話の音が聞こえた。おそらく、専願の高校からだろう。安奈はすぐに電話のあるリビングに向かった。


「あっ、電話だ!」


 安奈は受話器を取った。俊介も栄作も安奈を見ている。結果がとても気になるのだ。


「もしもし! はい! はい! ありがとうございます!」


 それを聞いて、望は合格したんだと確信した。それとともに、安奈の表情がほころぶ。安奈は受話器を置き、玄関に戻ってきた。


「どうだった?」

「合格!」


 安奈は両手で丸のサインを出した。それを聞いて、栄作と俊介は喜んだ。受かっていて本当によかった。


「よっしゃー!」


 望はガッツポーズをした。これまでガッツポーズをしたことがなかった。それほど嬉しいのだろう。栄作は望を温かい表情で見つめている。


「おめでとう、望」

「ありがとう」


 栄作は握手をした。血はつながっていないものの、よくぞここまで育ってくれた。高校ではもっと難しい事を学ぶけれど、望なら必ず頑張れる、もっと賢くなれると思っていた。


「今日はうどんでお祝いだね!」

「うん」


 突然、俊介は望に抱き着いた。望は戸惑っている。まさか、合格しただけで抱き着かれるとは。それほど俊作も喜んでいるんだな。


 と、そこに俊作と明日香がやって来た。合格の知らせを聞いて、ここにやって来たようだ。


「望、おめでとう!」

「ありがとう!」


 俊作は望の頭を撫でた。自分同様、再来月から高校生だ。高校は違うけれど、お互い頑張ろう。そして、いい高校生活を送ろう。


「高校でも、頑張ってな」

「うん」


 と、安奈は思いついた。今日は大将の作った讃岐うどんでお祝いだ。天ぷらもたくさんつけよう。望が3年間の高校生活を頑張れるように。


「さて、今日はうどんでお祝いだ!」

「イェーイ!」


 それを聞いて、みんなは喜んだ。望が専願の高校に合格したのはもちろんだが、大将のおいしいうどんや天ぷらでお祝いできるのが嬉しいようだ。

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