13
望はその後も受験勉強を頑張った。時々実力テストがあり、望はそれも頑張った。その結果、かなり成績を上げ、担任の先生も驚くほどになった。
時は流れ、専願の高校の入試が明日に迫った。望は緊張している。これに家の未来がかかっているのだ。どうなるかわからない。
「いよいよ明日だね」
望は振り向いた。そこには俊作がいる。俊作はすでに高校生だ。4月からは俊作と同じく高校生になるだろう。そう思うと、気持ちが高ぶってくる。
「うん」
「頑張ってね」
「ああ」
望が緊張しているのに、俊作は気づいている。俊作は思った。自分の受験の時もそうだった。いろいろ悩み、そして勉強を頑張った。だからこそ、こうして今、高校に通っている自分がいるのだと。
「誰しも、前日ってのは緊張するもんだよ」
「そうかな?」
望は夜空を見た。望は信じられなかった。入試の前で緊張するのは誰でも普通なのかな? こんなに悩むものかな?
「そうだよ」
「どうしたの?」
望は再び振り向いた。そこには栄作がいる。望を心配して、栄作もやって来たようだ。まさか、栄作もやってくるとは。明日が入試だから、心配になってやって来たんだろうか?
「父さん、どう思ってるんだろう」
「そうだね」
突然、栄作は望の肩を叩いた。いつもに比べて、ぬくもりを感じる。どうしてだろう。
「わからないけど、頑張ろうよ」
「うん」
ふと、俊作は思った。栄作の本当の息子、薫はどんな高校受験だったんだろう。あんな事になった伏線がここにあるのでは?
「思ったんだけど、本当の子供の薫さんは、どうだったんだろう」
「わからないけど、東京の大学に行くぐらいだから、相当勉強したんだろうね」
望は思った。薫は東京の大学に進んだ。こんな進路だから、相当勉強したんだろうな。でも、どうして犯罪を犯してしまったんだろう。とても気になるな。それに、東京に行った時に食べたうどんは、どうして親しみを感じたんだろう。まさか、薫が作ったものだからかな?
「それでもああいう風になってしまったんだよ」
その話を、栄作は目を細めて見ている。もう薫の事を聞きたくないようだ。その表情を見て、望はビクッとなった。もう話さないようにしよう。これ以上怒らせると、何をされるかわからない。
「気にすんなよ。望くんはあんな事しなければいいんでしょ?」
「うん、そうだね」
望はほっとした。自分は薫みたいに悪い事をしなければいいんだ。いい子に育って、栄作に認められればいいんだ。そしていつの日か、自分が大将になるんだ。
「薫さん、どうしてるんだろう」
だが、望は薫の事が忘れられない。どうしてだろう。東京に行って以来、考えてしまう。東京に薫がいるからだろうか?
「なんで気にしてるの?」
「なんとなく」
俊作は思った。どうしてそんなに薫の事を考えているんだろうか? まさか、望は薫に会いたいと思っているんだろうか? 前科があるのにどうしてだろう。
2人の話を、栄作は拳を握り締めながら聞いている。かなり頭にきているようだ。だが、栄作はすぐに部屋を出て行った。
「大将が怒るから、言わないほうがいいよ」
「でも気になるよ」
だが、望は気になるようだ。そんなにも気になるのか? 前科があるのに?
「どうして?」
「早く和解してほしいから」
望は思っていた。栄作と薫が一緒にうどん屋で頑張ってほしい。そうすれば、栄作がもっと優しくなれるんじゃないかと思っている。
「もう無理だと思うよ」
「そうかな?」
俊作は思っている。もう途切れた絆を修復するのは無理だろう。だって、犯罪は一生ついて回るんだから。
「あんな事やっちゃったんだから」
「うーん・・・」
そう言われると、望は納得した。もう栄作は許してくれないだろうな。栄作はそれ以上に自分に愛情を注いでいる。望がいい子に育ってほしいと思いながら。
「あきらめようよ・・・」
「そうだね・・・」
ふと、望は思った。薫が逮捕された時、栄作はどう思ったんだろう。かなりショックだったんだろうか? しばらく仕事ができなかったんだろうか? 面会した時、どんな事を言ったんだろうか?
「逮捕された時、相当言われたのかな?」
「そうかもしれない」
だが、もう栄作は思い出したくない、会いたくないと言っている。もう言わないようにしよう。そのほうが栄作のためにもいい。
「もうそれも言わないようにしようよ」
「そうだね」
俊作は時計を見た。そろそろ寝る時間だ。もう寝室に戻ろう。
「僕はもう寝るよ。明日、頑張ってね」
「うん」
「おやすみ」
「おやすみ」
俊作は部屋を出て行った。また望は1人になった。明日の入試に向けて、まだまだ勉強を頑張らないと。望は再び椅子に座り、勉強を始めた。
「さて、また頑張らないと」
これほど勉強をしていると、どんな問題もスラスラに解いていく。この調子だ。この調子のままでテストを受ければ、絶対に合格できるだろう。だが、試験はやってみなければわからない。油断は禁物だ。
「うーん・・・」
だが、望は考えてしまった。勉強でではない。薫の事だ。