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  作者: 口羽龍
第3章 薫
51/87

13

 望はその後も受験勉強を頑張った。時々実力テストがあり、望はそれも頑張った。その結果、かなり成績を上げ、担任の先生も驚くほどになった。


 時は流れ、専願の高校の入試が明日に迫った。望は緊張している。これに家の未来がかかっているのだ。どうなるかわからない。


「いよいよ明日だね」


 望は振り向いた。そこには俊作がいる。俊作はすでに高校生だ。4月からは俊作と同じく高校生になるだろう。そう思うと、気持ちが高ぶってくる。


「うん」

「頑張ってね」

「ああ」


 望が緊張しているのに、俊作は気づいている。俊作は思った。自分の受験の時もそうだった。いろいろ悩み、そして勉強を頑張った。だからこそ、こうして今、高校に通っている自分がいるのだと。


「誰しも、前日ってのは緊張するもんだよ」

「そうかな?」


 望は夜空を見た。望は信じられなかった。入試の前で緊張するのは誰でも普通なのかな? こんなに悩むものかな?


「そうだよ」

「どうしたの?」


 望は再び振り向いた。そこには栄作がいる。望を心配して、栄作もやって来たようだ。まさか、栄作もやってくるとは。明日が入試だから、心配になってやって来たんだろうか?


「父さん、どう思ってるんだろう」

「そうだね」


 突然、栄作は望の肩を叩いた。いつもに比べて、ぬくもりを感じる。どうしてだろう。


「わからないけど、頑張ろうよ」

「うん」


 ふと、俊作は思った。栄作の本当の息子、薫はどんな高校受験だったんだろう。あんな事になった伏線がここにあるのでは?


「思ったんだけど、本当の子供の薫さんは、どうだったんだろう」

「わからないけど、東京の大学に行くぐらいだから、相当勉強したんだろうね」


 望は思った。薫は東京の大学に進んだ。こんな進路だから、相当勉強したんだろうな。でも、どうして犯罪を犯してしまったんだろう。とても気になるな。それに、東京に行った時に食べたうどんは、どうして親しみを感じたんだろう。まさか、薫が作ったものだからかな?


「それでもああいう風になってしまったんだよ」


 その話を、栄作は目を細めて見ている。もう薫の事を聞きたくないようだ。その表情を見て、望はビクッとなった。もう話さないようにしよう。これ以上怒らせると、何をされるかわからない。


「気にすんなよ。望くんはあんな事しなければいいんでしょ?」

「うん、そうだね」


 望はほっとした。自分は薫みたいに悪い事をしなければいいんだ。いい子に育って、栄作に認められればいいんだ。そしていつの日か、自分が大将になるんだ。


「薫さん、どうしてるんだろう」


 だが、望は薫の事が忘れられない。どうしてだろう。東京に行って以来、考えてしまう。東京に薫がいるからだろうか?


「なんで気にしてるの?」

「なんとなく」


 俊作は思った。どうしてそんなに薫の事を考えているんだろうか? まさか、望は薫に会いたいと思っているんだろうか? 前科があるのにどうしてだろう。


 2人の話を、栄作は拳を握り締めながら聞いている。かなり頭にきているようだ。だが、栄作はすぐに部屋を出て行った。


「大将が怒るから、言わないほうがいいよ」

「でも気になるよ」


 だが、望は気になるようだ。そんなにも気になるのか? 前科があるのに?


「どうして?」

「早く和解してほしいから」


 望は思っていた。栄作と薫が一緒にうどん屋で頑張ってほしい。そうすれば、栄作がもっと優しくなれるんじゃないかと思っている。


「もう無理だと思うよ」

「そうかな?」


 俊作は思っている。もう途切れた絆を修復するのは無理だろう。だって、犯罪は一生ついて回るんだから。


「あんな事やっちゃったんだから」

「うーん・・・」


 そう言われると、望は納得した。もう栄作は許してくれないだろうな。栄作はそれ以上に自分に愛情を注いでいる。望がいい子に育ってほしいと思いながら。


「あきらめようよ・・・」

「そうだね・・・」


 ふと、望は思った。薫が逮捕された時、栄作はどう思ったんだろう。かなりショックだったんだろうか? しばらく仕事ができなかったんだろうか? 面会した時、どんな事を言ったんだろうか?


「逮捕された時、相当言われたのかな?」

「そうかもしれない」


 だが、もう栄作は思い出したくない、会いたくないと言っている。もう言わないようにしよう。そのほうが栄作のためにもいい。


「もうそれも言わないようにしようよ」

「そうだね」


 俊作は時計を見た。そろそろ寝る時間だ。もう寝室に戻ろう。


「僕はもう寝るよ。明日、頑張ってね」

「うん」

「おやすみ」

「おやすみ」


 俊作は部屋を出て行った。また望は1人になった。明日の入試に向けて、まだまだ勉強を頑張らないと。望は再び椅子に座り、勉強を始めた。


「さて、また頑張らないと」


 これほど勉強をしていると、どんな問題もスラスラに解いていく。この調子だ。この調子のままでテストを受ければ、絶対に合格できるだろう。だが、試験はやってみなければわからない。油断は禁物だ。


「うーん・・・」


 だが、望は考えてしまった。勉強でではない。薫の事だ。

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