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  作者: 口羽龍
第2章 出会い
37/87

28

 翌日、いつものように望は小学校から帰ってきた。だが、望は落ち込んだままだ。小学校ではいじめられてはいないものの、栄作が本当の父じゃないという事がいまだに信じられない。これからどうやって栄作と付き合えばいいんだろう。この先、どうすればいいんだろう。全く答えが見つからない。


「ただいま・・・」

「おかえり、大丈夫?」


 玄関から家の中に入ってきた望に、安奈が話しかけた。だが、望の表情は変わらない。安奈は心配している。どうしたら元の望に戻るんだろう。このままでは、継いでくれないかもしれない。そして、池辺うどんは栄作の代で終わってしまうかもしれない。もう池辺うどんは終わりだろうか?


「まぁまぁ」


 望は元気がなさそうだ。誰が見ても、そう思えるような表情だ。


「そっか・・・。早く元気になってね」


 安奈は望の肩を叩いた。望は少し顔を上げた。だが、望の表情は変わらない。


 そこに、2階から俊作がやって来た。俊作も望を心配しているようだ。このままでは一緒に遊べない。望と一緒に遊べるのがとても嬉しいのに。


「大丈夫かなぁ」


 望は下を向いたまま、2階に向かった。3人はその様子を、不安そうに見ている。なかなか元に戻らない。どうすればいいんだろう。全くわからない。安奈は気になった。栄作はどう思っているんだろう。早く望が立ち直ってくれないだろうか? 将来が不安でしょうがない。


 と、インターホンが鳴った。今度は誰だろう。すでに5人とも帰って来たのに。まさか、栄作だろうか?


「はーい」


 俊介は扉を開けた。そこには栄作がいる。自宅にいると思われたが、まさかここに来るとは。望に話したい事があるんだろうか?


「大将・・・」

「望の事が気になって」


 栄作は硬い表情だ。栄作も悩んでいた。早く立ち直ってほしい。また元気になってほしいと思っているようだ。


「相変わらずだわ」

「毎朝、見に来てたんだけど、あれ以来全く来なくなって」


 栄作は心配していた。毎朝、作業場に見に来てくれるのに、ここ最近全く来てくれない。やはり、あの事がショックだったと思われる。


「心配なの?」

「ああ。継いでくれると信じてるんだが、不安だな」


 栄作は不安になっていた。この子なら店を継いでくれると思っていたのに、先日の事で落ち込んでしまった。継いでくれないんじゃないかと不安になった。


「本当だね」

「ちょっと話そうかな?」

「うん。いいけど」


 栄作は2階に向かった。2階には望がいるはずだ。話したい事があるので、知らせに行ったようだ。


 その頃、望は勉強をしていた。望は暗い表情だ。テレビゲームをする気分じゃない。まだ立ち直っていなかった。


 突然、ドアをノックする音が聞こえた。誰だろう。望はドアを開けた。そこには栄作がいる。いつもの硬い表情だ。


「望、話したい事がある」

「はい・・・」


 2人は1階の座敷に向かった。話したい事って、何だろう。望は興味津々だ。


 望は座敷に入った。そこには栄作がいる。栄作は緊張した表情だ。2人は向かい合わせに座った。望も緊張している。


「大丈夫か?」

「うーん・・・」


 望は落ち込んでいる。栄作はとても気にしている。


「元気出せよ。望は俺が育てたんだから、俺の子だ。わかってるな」

「でも、本当の子供じゃないんでしょ?」


 望はいまだに言っている。自分が育てたから、うちの子だと言っているのに、どうしていまだにそう思っているんだろう。


「そうだけど、俺の子だ。わかってほしいんだ」

「でも・・・」


 突然、栄作は望の肩を叩いた。望は驚いた。何か重要な事を言いたいんだろうか?


「いいか。父であることは偽りだが、うどんの味に偽りはないんだ」

「えっ・・・」


 望は呆然となった。これまで栄作が与えてきた愛情にも偽りはない。なのにどうしてそんな事で悩んでいたんだろう。本当の両親がいなくて、違う男に育てられたのに、どうしてそれだけで悩んでいるんだろう。今まで悩んでいた自分が恥ずかしく思えてきた。


「それだけ言いたかったんだ。じゃあな」


 栄作は帰ろうとしていた。それを見て、望は立ち上がった。


「あの・・・」


 栄作は振り向いた。何か話したい事があるんだろうか?


「どうした?」

「お父さんじゃないんだったら、大将って呼んでいい?」


 栄作は驚いた。従業員から大将と言われているけど、まさか望からもそう言われるとは。栄作は少し戸惑ったが、すぐに元の表情になった。


「どうでもいいよ」

「ありがとう」


 栄作は家を出ていった。それと入れ替わりに、俊介がやって来た。2人の話を聞いていたようだ。


「大将って・・・」

「いいじゃない。おじさんもおばさんもそう言ってるんでしょ?」


 2人は苦笑いしている。まさか、こんな子供にもそう言われるとは。


「そうだけど・・・」


 望は元気に2階に戻っていった。先ほどと表情がまるで違う。すっかり立ち直ったようだ。これにて一件落着といったところか?


「少し元気が出たみたいだな。また明日、見に来てくれるのかな?」

「わからないけど、きっとまた見に来てくれるだろうな」


 2人はそんな望を温かく見守っている。これでまた明日、作業場を見に来てくれるだろう。

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