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  作者: 口羽龍
第2章 出会い
34/87

25

 ある夜の事だ。池辺うどんとは別の場所にあるうどん店では、店主がある事を気にしていた。それは、望の事だ。薫しか子供がいないと思われていた栄作にもう1人子供がいたとは。薫とはあまりにも年齢が離れている。本当に栄作の子供なんだろうか? 本当に子供なんだろうか? 明らかに怪しいなと思った。


「うーん・・・」

「どうしたの?」


 店主は振り向いた。そこには妻がいる。夫は何を気にしているんだろう。妻は夫の様子を気にしていた。もし、気にしている事があれば、話してほしいな。


「池辺さんに子供がいたとは驚きだわ」

「私もそう思う。あの薫くんぐらいだと思ってたけど」


 妻も驚いていた。そしておかしいと思っていた。香川一のうどん職人と言われる栄作にもう1人子供がいたとは、驚きだ。うどん作りに興味を持っている様子と言い、この子が店を継ぐんだろうかと思えてくる。小学校1年生であるにもかかわらず、先日の遠足でかなりの腕前を見せていた。この子は将来、池辺うどんを継ぐんじゃないかと思える。


「そうだな」

「でもいいじゃないの。これで後継ぎができるんだから」


 だが、2人は別の事を気にしていた。あの子は本当に栄作の息子なんだろうか? ひょっとして、血がつながっていないのでは?


「そうだけど・・・」

「どうしたの?」


 妻は首を傾げた。何で悩んでいるんだろう。


「本当にあの子、池辺さんの子供なのかなと思って」

「どうして?」


 店主は栄作の妻の事を知っていた。そして、その生涯を紐解くと、望が本当に栄作の子供なのかと疑問に思う点があるという。


「あの子のお母さん、10年前に薫くんの事が原因で自殺したんだよ」


 実は、栄作の妻は10年前に亡くなっている。つまり、栄作が妻を亡くした後に生まれている事になる。それを考えると、望は養子、もしくは栄作の再婚相手との間の子供という事になってくる。


「えっ、じゃあ、望くんは異母兄弟?」

「いや、再婚したって話はないよ」


 だが、店主は知っていた。栄作が再婚したという話、全く聞かなかった。10年前に亡くなった妻しか愛していないと言っていた。再婚するはずがないし、再婚したという噂すらない。それを考えると、望は養子と考えられるしかない。


「うーん、そうだな・・・。じゃあ・・・」


 そして、男は考えた。望が栄作の婚外子ではないか? もしそうなら、とんでもない事だ。望がバッシングを受けるかもしれない。


「どうしたの?」

「隠し子ってわけないよな」

「どうだろう」


 妻も想像がつかなかった。あの子は薫が捕まって以来、子供が嫌いになった。それなのに、子供を育てているなんて、ありえない事だ。


「だったら、大変だよ」

「そんなの、言っちゃだめだよ。そんなの言ったら、望くんが傷つくって」


 だが、店主は忠告した。これは絶対に行ってはならない。そして、誰も広めてはいけない。もし知ったら、望がひどいバッシングを受けるだろう。


「ごめんごめん」

「でも、本当に子供なのかね」


 妻も疑問に思えてきた。望は本当に栄作の子供なんだろうか?


「もう言わないようにしよう」

「そうだね」


 2人はその話をするのをやめようと誓った。だが、2人は知らなかった。それを1人の子供が聞いているのを。




 翌日、望はいつものように登校した。望は昨日の夜の事を全く知らない。昨日と変わりない表情だ。そして、栄作の本当の子供ではない事を全く知らない。


「おはよう」


 望はいつものように挨拶をした。だが、誰も話しかけない。どうしたんだろう。昨日と全く空気が違う。誰も挨拶しない。無視されているのかな? みんな、昨日と全く雰囲気が違う。それに、みんな僕をにらみつけている。明らかに怪しい。何があったんだろう。


「どうしたの?」


 望は松本に話しかけた。だが、松本はむっつりとして、何も言おうとしない。


「いや、何でもないよ・・・」

「えっ・・・」


 望は呆然となった。どうして話しかけないだろう。僕の事が嫌いなんだろうか? 昨日は普通に話しかけたのに。何があったんだろう。


 その時、誰かが望に向かってチョークを投げつけた。望は頭を押さえた。


「いてっ・・・」

「やったれ!」


 その掛け声とともに、生徒全員が望に殴りかかる。望は抵抗したが、これだけの人数ではどうにもならない。それに、誰も助けてくれない。どうしよう。早く逃げたい。


「やめて!」


 と、そこに先生がやって来た。先生は、望が殴られている所を見た。どうしてそんな事をしたのか? 先生は頭にきた。


「こら、何をしてる!」


 その声を聞いて、生徒は呆然となった。望をいじめている所を見られてしまった。両親に怒られるだろう。そう考えると、頭を抱えてしまった。


「すいません・・・」

「ちょっと後で来なさい!」


 先生は怒っている。生徒はびくびくしている。この後、何を言われるんだろう。想像すると、開いた口がふさがらなくなる。


「はい・・・」

「起立、礼!」

「おはようございます」


 そして、いつものように朝礼が始まった。望を殴った生徒は下を向いていた。先生はその子供を見ると、にらみつけた。

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