表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 口羽龍
第5章 一緒に
102/102

14

 それから1週間がたった。あっという間に直子はこの仕事に慣れてきた。やはり実家がうどん屋という事もあって、作業がとても慣れているな。栄作も喜んでいた。これはいい店員になりそうだな。


 望は今日の仕事を終えて、帰ろうとしていた。明日は日曜日、休みだ。いろいろあって大変だったけど、ゆっくり休もう。帰ろうとすると、直子がいる事が多い。今日はいるんだろうか?


「さて、今日も終わりか」


 望は帰ろうとした。と、入口の前には、直子がいる。今日もいる。それだけで嬉しい。どうしてだろうか?


「あれっ!?」

「あっ、どうも」


 直子はお辞儀をした。どうしてここにいるんだろうか? 望に会うためにここにやって来たんだろうか?


「まだ帰ってなかったのか」

「明日、休みだよね」


 直子は知っていた。望は明日は休みだ。まだ予定がないのなら、今夜、一緒に飲みたいなと思っている。


「うん」


 直子は少し緊張している。なかなか言うのが怖いようだ。どうしたんだろうか? なかなか言いにくい事だろうか?


「今夜、近くの居酒屋で一緒に飲もうかなって」


 望は驚いた。まさか、直子から誘われるとは。とても嬉しいな。でも、養子だという事を知ったら、どんな反応をするんだろうか? 小学校の頃はいじめられ、高校時代はこれが原因でフラれた。


「いいけど、どうして?」

「いや、何でもないの」


 望は焦っている。養子だなんて、誰にも言えない。自分は誰とも結婚できないと思っている。


「そう。どこに行こうか決めてなかったから、行こうか?」

「いいよ」


 望は直子の誘いを断れなかった。今日は歩いて近くの居酒屋に向かおう。明日は休みなのだから、しっかり飲んで来週に向けてしっかり休もう。




 2人は直子の住んでいるアパートの近くの居酒屋にやって来た。その居酒屋は焼き鳥屋で、チェーン店ではない、庶民的な店だ。望はその店を知らなかった。この辺りで飲む事がないからだ。どんな料理があるんだろう。どんな味なんだろう。望は楽しみだ。


 店の前には、店員がいる。席の案内をする人と思われる。


「いらっしゃいませ、2名様ですか?」


 直子はピースのサインで2名だという事を伝えた。


「はい」


 2人は案内されたカウンター席に座った。店には何組かの客がいて、その多くは仕事帰りの人だ。その中にはスーツ姿の人もいる。


「お飲み物はどうなさいますか?」

「生中で」

「私は麦焼酎のロックで」

「かしこまりました」


 望は生中を、直子は麦焼酎のロックを注文した。店員は厨房の中に入り、注文を伝えに行った。


「望さん、だよね」


 直子は緊張している。この人は本当に望なんだろうかと思っているようだ。本当に望みなのに。あまり知らないようだな。


「うん」


 望は正直に答えた。まぁ、本当は大将の養子なんだけどな。


「大将の養子の」


 それを聞いて、望は驚いた。まさか、栄作の息子ではなく、養子だと知っているとは。知らないと思って、誘ったんだと思った。それを誰から聞いたんだろうか? うどん屋をしている家族からだろうか? うどん屋『うちむら』は栄作と仲が良く、琴平に行った時にはよく行っているぐらいだ。ひょっとして、行った時に話したんだろうか?


「えっ、知ってるの?」

「うん」


 驚いた表情の望と違って、直子は普通の表情だ。養子と知って、フラれるんじゃないか、いじめられるんじゃないかと思ったが、まさか普通に受け入れているとは。


「知った時、どうだった?」

「びっくりしたけど、大丈夫」


 やはりびっくりしたのか。やはりそうだったか。でも、僕は養子だけど、栄作が育てたから、栄作の子供みたいなもんだ。栄作に出会わなければ、こうしてうどん屋をしていて、栄作の後継だと言われている自分はいないから。望は、自分の今を作ってくれた大将に感謝している。


「そうなんだ」


 と、そこに店員がやって来た。生中と麦焼酎のロックを持っている。


「お待たせしました、生中と、麦焼酎のロックです」


 店員はカウンターのテーブルに生中と麦焼酎のロックを置いた。


「あっ、枝豆と、ねぎま、レバーのたれお願いします」

「私はねぎまとつくねの塩で」


 店員は注文を聞くと、厨房に戻っていった。


「まぁ、飲もう。カンパーイ!」

「カンパーイ!」


 2人は乾杯をして、酒を飲み始めた。今週1週間頑張った。来週も頑張っていこう。


「うーん・・・」


 望は考えていた。高校生の頃、養子であることが原因でフラれてしまった。だけど、直子は受け入れてくれた。本当に嬉しいな。


「どうしたの?」

「大将の養子って事が原因で、フラれちゃった事があるんで」

「そんな過去があったんだ」


 そんな事があったんだな。直子は驚いた。だけど、自分は栄作の養子であることを知っていて、ここに誘った。養子だという事には、全く驚いていない。だから、普通に付き合ってもいいよ。


「そんな僕でも大丈夫なのかなと思って」

「いいよ」


 直子は琴平から来たと言っている。でも、もっと詳しい事を教えてほしいな。


「直子さん、琴平から来たの?」


「うん。実家はうどん屋で、お兄ちゃんが後継者なの。で、私は独立して頑張ろうと思って、ここに就職したの」


 そうだったのか。直子には兄がいて、兄がうどん屋の後継者なのか。だから、そこで働かずに、池辺うどんを働き始めたのか。


「そうだったんだ」

「僕は未来の大将だからね」


 望は少し笑みを浮かべた。自慢する事はあまりないけれど、栄作の後継者だという事ははっきりと自信を持って言える事だ。


「そうなんだ。期待だね」

「うん」


 直子は思っていた。望は将来、どんな大将になるんだろうか? そして、どんな味を救ってくれるんだろうか? わからないけれど、おいしいうどんを作ってくれそうだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ