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それから1週間がたった。あっという間に直子はこの仕事に慣れてきた。やはり実家がうどん屋という事もあって、作業がとても慣れているな。栄作も喜んでいた。これはいい店員になりそうだな。
望は今日の仕事を終えて、帰ろうとしていた。明日は日曜日、休みだ。いろいろあって大変だったけど、ゆっくり休もう。帰ろうとすると、直子がいる事が多い。今日はいるんだろうか?
「さて、今日も終わりか」
望は帰ろうとした。と、入口の前には、直子がいる。今日もいる。それだけで嬉しい。どうしてだろうか?
「あれっ!?」
「あっ、どうも」
直子はお辞儀をした。どうしてここにいるんだろうか? 望に会うためにここにやって来たんだろうか?
「まだ帰ってなかったのか」
「明日、休みだよね」
直子は知っていた。望は明日は休みだ。まだ予定がないのなら、今夜、一緒に飲みたいなと思っている。
「うん」
直子は少し緊張している。なかなか言うのが怖いようだ。どうしたんだろうか? なかなか言いにくい事だろうか?
「今夜、近くの居酒屋で一緒に飲もうかなって」
望は驚いた。まさか、直子から誘われるとは。とても嬉しいな。でも、養子だという事を知ったら、どんな反応をするんだろうか? 小学校の頃はいじめられ、高校時代はこれが原因でフラれた。
「いいけど、どうして?」
「いや、何でもないの」
望は焦っている。養子だなんて、誰にも言えない。自分は誰とも結婚できないと思っている。
「そう。どこに行こうか決めてなかったから、行こうか?」
「いいよ」
望は直子の誘いを断れなかった。今日は歩いて近くの居酒屋に向かおう。明日は休みなのだから、しっかり飲んで来週に向けてしっかり休もう。
2人は直子の住んでいるアパートの近くの居酒屋にやって来た。その居酒屋は焼き鳥屋で、チェーン店ではない、庶民的な店だ。望はその店を知らなかった。この辺りで飲む事がないからだ。どんな料理があるんだろう。どんな味なんだろう。望は楽しみだ。
店の前には、店員がいる。席の案内をする人と思われる。
「いらっしゃいませ、2名様ですか?」
直子はピースのサインで2名だという事を伝えた。
「はい」
2人は案内されたカウンター席に座った。店には何組かの客がいて、その多くは仕事帰りの人だ。その中にはスーツ姿の人もいる。
「お飲み物はどうなさいますか?」
「生中で」
「私は麦焼酎のロックで」
「かしこまりました」
望は生中を、直子は麦焼酎のロックを注文した。店員は厨房の中に入り、注文を伝えに行った。
「望さん、だよね」
直子は緊張している。この人は本当に望なんだろうかと思っているようだ。本当に望みなのに。あまり知らないようだな。
「うん」
望は正直に答えた。まぁ、本当は大将の養子なんだけどな。
「大将の養子の」
それを聞いて、望は驚いた。まさか、栄作の息子ではなく、養子だと知っているとは。知らないと思って、誘ったんだと思った。それを誰から聞いたんだろうか? うどん屋をしている家族からだろうか? うどん屋『うちむら』は栄作と仲が良く、琴平に行った時にはよく行っているぐらいだ。ひょっとして、行った時に話したんだろうか?
「えっ、知ってるの?」
「うん」
驚いた表情の望と違って、直子は普通の表情だ。養子と知って、フラれるんじゃないか、いじめられるんじゃないかと思ったが、まさか普通に受け入れているとは。
「知った時、どうだった?」
「びっくりしたけど、大丈夫」
やはりびっくりしたのか。やはりそうだったか。でも、僕は養子だけど、栄作が育てたから、栄作の子供みたいなもんだ。栄作に出会わなければ、こうしてうどん屋をしていて、栄作の後継だと言われている自分はいないから。望は、自分の今を作ってくれた大将に感謝している。
「そうなんだ」
と、そこに店員がやって来た。生中と麦焼酎のロックを持っている。
「お待たせしました、生中と、麦焼酎のロックです」
店員はカウンターのテーブルに生中と麦焼酎のロックを置いた。
「あっ、枝豆と、ねぎま、レバーのたれお願いします」
「私はねぎまとつくねの塩で」
店員は注文を聞くと、厨房に戻っていった。
「まぁ、飲もう。カンパーイ!」
「カンパーイ!」
2人は乾杯をして、酒を飲み始めた。今週1週間頑張った。来週も頑張っていこう。
「うーん・・・」
望は考えていた。高校生の頃、養子であることが原因でフラれてしまった。だけど、直子は受け入れてくれた。本当に嬉しいな。
「どうしたの?」
「大将の養子って事が原因で、フラれちゃった事があるんで」
「そんな過去があったんだ」
そんな事があったんだな。直子は驚いた。だけど、自分は栄作の養子であることを知っていて、ここに誘った。養子だという事には、全く驚いていない。だから、普通に付き合ってもいいよ。
「そんな僕でも大丈夫なのかなと思って」
「いいよ」
直子は琴平から来たと言っている。でも、もっと詳しい事を教えてほしいな。
「直子さん、琴平から来たの?」
「うん。実家はうどん屋で、お兄ちゃんが後継者なの。で、私は独立して頑張ろうと思って、ここに就職したの」
そうだったのか。直子には兄がいて、兄がうどん屋の後継者なのか。だから、そこで働かずに、池辺うどんを働き始めたのか。
「そうだったんだ」
「僕は未来の大将だからね」
望は少し笑みを浮かべた。自慢する事はあまりないけれど、栄作の後継者だという事ははっきりと自信を持って言える事だ。
「そうなんだ。期待だね」
「うん」
直子は思っていた。望は将来、どんな大将になるんだろうか? そして、どんな味を救ってくれるんだろうか? わからないけれど、おいしいうどんを作ってくれそうだな。




