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  作者: 口羽龍
第5章 一緒に
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12

 翌年の4月、池辺うどんは騒然となっていた。今日から新人が入るというのだ。噂では、今日から入る新人は、琴平のうどん屋の大将の娘だという。琴平は金毘羅山のある町で、琴電の終点、琴電琴平駅がある。そしてここには、中野うどん学校という讃岐うどんを作る体験施設がある。そんな場所からやって来たのだ。どんな人だろうか?


「新しい子がやって来るんだって?」


 俊介はワクワクしていた。どんな人だろうか? 高校を卒業したばかりで、独立してうどん職人になろうと思ってやってきたそうだ。


「うん。琴平からやって来たんだって」


 それを聞いて、安奈は 金毘羅山に行った時の事を思い出した。とても疲れたけれど、その後で食べた讃岐うどんはとてもおいしかったな。


「ふーん。名前は?」

内村直子うちむらなおこ


 直子は琴平にあるセルフの讃岐うどんの店「うちむら」の店主、昭三しょうぞうの長女で、店を継ぐ決意をした弟と違い、自分の道を切り開きたかったそうだ。


「へぇ。どんな子?」

「実家がうどん屋なんだって」


 俊介は期待した。この子となら、望と仲良くなれるかな? そして、結婚に至れるかな?


「そうなんだ。楽しみだな」

「うん」


 と、そこに栄作がやって来た。その後ろには若い女性がいる。その女性が直子だろうか?


「来た来た!」

「えー、今日から新しく入った、内村直子さんだ」


 栄作はみんなに直子を紹介した。なかなかかわいい女性だな。望は一目ぼれした。望の顔を見て、直子は何かを感じた。


「内村直子です。よろしくお願いします!」


 直子はお辞儀をした。直子は中学校から休日の空いた時間に店の手伝いをしながら、仕事のいろはを学んだという。望と一緒だな。


「じゃあ、今日は天ぷら作りに入って」

「わかりました」


 直子は天ぷらづくりに入った。直子の表情から、全く問題なさそうだ。直子はとても慣れているようだ。さすがは中学校から手伝いをしていたという表情だな。


 と、望の表情が気になった。直子がとても気になるようだ。まさか、一目惚れしたんだろうか? 今日、初めて会ったばかりなのに、どうしたんだろうか?


「どうしたんだい?」


 俊介の声で、望は我に返った。


「かわいいなと思って」


 望は笑みを浮かべている。俊介は嬉しそうだ。気に入ってくれたようだ。これは恋人になれそうだな。


「そう?」

「恋したい?」


 だが、望はまだ考えていないようだ。自分の出征の秘密があるからだ。こんな過去があるのに、本当に結婚できるんだろうか? でも、この子と結婚できたたらいいな。


「うん」

「そっか・・・」


 と、望は時計を見た。もう作業を始める時間だ。さっさと頑張らないと、さぼっているように思われて、栄作に怒られるだろう。


「さて、頑張らないと」

「そうだね」


 と、そこに安奈がやって来た。何か言いたい事があるようだ。だが、望は安奈が近づいてきた事に気が付いていない。


「ねぇ」

「どうしたの?」


 望は横を向いた。そこには安奈がいる。何か言いたい事があるんだろうか?


「どうして見てんのかなと思って」

「いや、何でもないよ」


 望は何とも思っていないようだ。今さっきは気になっていたような表情だったのに。どうしたんだろうか? 何かを隠しているんだろうか? この子に一目ぼれしたんだろうか?


「そう・・・」

「頑張れよ」

「はい!」


 と、直子は何かに気付いた。望に見られているのだ。この子は栄作の養子だという。そして、この町では知られた若き天才うどん職人だと聞く。次の大将候補だと言われている。何も言っていないが、直子は望の過去を知っている。それを、昭三から聞いた。そんな人でも、全く問題ないと思っていた。なぜならば、うどんを作るのがうまくて、栄作が一番弟子だと認めるぐらいだと聞いている。


「どうしたの?」


 俊介の一言で、直子は我に返った。集中しないと。天ぷらを焦がしてしまったら、天ぷらが全部だめになってしまう。


「見てる事を言われて」

「そっか」


 直子は笑みを浮かべている。何を考えているんだろう。全くわからないな。


「さて、頑張らなくっちゃ」

「ああ」


 と、そこに客がやって来た。若いカップルだ。大きなリュックを持っているので、ここにやって来た観光客のようだ。


「いらっしゃいませ、ご注文は?」


 注文を聞いたのは、俊介だ。


「ひやあつのかけ並」

「かしこまりました」


 俊介はうどんを湯がき、冷やして、温かいだしをかけた。


「どうぞ」

「ありがちょうございます」


 2人はその先の天ぷらやおかず、ごはんもののあるカウンターに向かった。2人は天ぷらを2本ずつ取っていった。安奈はその様子をじっと見ている。


 次にやって来たのは中年の男性だ。この近くに住んでいて、店員はこの人の事を知っていた。


「いらっしゃいませ、ご注文は?」

「ひやひやのぶっかけ並」

「かしこまりました」


 俊介はうどんを湯がき、冷やして、冷たいぶっかけつゆをかけた。直子はその様子をじっと見ている。直子はこの工程をやった事がなかった。自分もできるようにならないと。

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