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「おかしい」

「どうしたのじゃ」

ユーマが呟くと隣でビケットを丸呑みしているマウスが応じる。

「記憶にない記録が存在する・・・・・・」

「夢物語って奴じゃないんですか?」

散らかった図書館の本を本棚に戻すウリウリが相槌を打った。

「俺ってそんなにロマンチスト?」

いやいや、確かに異世界でタイムスリップとかワクワクしなかったとか言ったら、ウソになるけど夢小説をつづるほどドップリではない。

ましてや今いない人物が出てくるのだ。

というかチヒロという自称女神が、銀髪ロリ座敷童だという設定はどこから来たのか。


手元のゴッデスポイントと銘打たれたノートには、ところどころ記憶にない文章がつづられていた。

最新のものは、お茶会中にマウスとロリ座敷童化したチヒロが、プロレスに興じるというものだ。

他にもエマルミョン先生が、神のなりそこないとやらに刺し殺されたり、ウリウリが誰かをかばって死んだりするなどだ。

「生きてるよな? シスター」

きょとんとしたウリウリに視線を向け、首をかしげる。

「生きてますよ。はい」


ぎゅっ。


ユーマの手を握るウリウリの手は、ほのかに温かく、やわらかい。

「ふむ」

としたら未来予測的なヤツであろうか。

チートスキル的なものが与えられていないのだから、あとで何かに開花する可能性だってあるわけだ。

「あるいは」

「?」

あるいは、物語を綴れと言われたものの脚色するなとは言われていない。

面白くするためにある事ない事、書き殴ってみたという可能性も否定できない。

覚えてないけど。

ファンタジーと言えば、どうとでもなる気がする。


「いや、ちょっと謎解きというか」

きょとんとしているウリウリの手を放し、言葉を探す。

「うーん? ユーマ様、疲れているんじゃないですか?」

「そんな気もする。毎日毎日、誰かの言葉足らずのせいで『聖女様とはどこまでやったんですか?』とか『将来は教団に入るの? それとも』などと」

原因のひとつのウリウリの視線が虚空をさまよう。

「そ、そ、ソウデスヨネー」

「その件は、戒めとしまして、記録に残して後々、教訓として見直していますからお許しを」

そっと法衣の下から出てくるメモ書き。

そこには、“伝えたいことは端折らずしっかり”と書かれている。

「のちのち見直し・・・・・・」

ユーマは、はたと手を打つ。

頭に光り輝く輪っかが乗った全裸の天使が舞い降りた。

天啓というか何かに目覚めた気がする。

「それだ!!」


第三者に何かその人物しか知りえないことや起こったことをノートに記してもらうのだ。

ユーマ自身が書いたことだと、本人が覚えていない時点で面白くしようと捏造したメモにも取れる。

記憶に無いだけで、例えば眠気たっぷりの時とかに書いていても覚えていない。


しかし、その点、別の誰かが記したことなら信憑性が増す。

そんなことがあるとは思えないけれど、過去に飛ばされたことで、ユーマの中で一つの可能性が芽生えていた。


記憶に無いけれど、ノートに記された事柄。

もしかしたら時間が巻き戻っているのでは無いだろうか、と。


そういうゲームは知っている。

まあ、ゲーム内の話だけど、全滅してしまったりするとセーブしたところから再開できる奴だ。


「確信は無い。無いんだけど、なんかおかしい」

「?」

マウスが不思議そうな顔をしている。

うん。その不思議そうな顔、どこかで見たんだよ。

過去に、ではなく夢みたいなフワフワとして、おぼろげな記憶の中で。

デジャヴというヤツが近いんだろうか。


おぼろげな記憶のような何かの中で「何も起こらんぞ?」と言って、不思議な顔をするのだ。

そして、直後に落雷し―――どうなったのかは思い出せない。


どこか開けた草原だったような気もする。

「ということで、検証しようと思う」

すっとウリウリに向き直ると彼女の両目を真剣に見つめた。

「へっ?」

シスターが少し慌てたように身を引く。

別に何か危険を感じたわけではなく、ガン見するユーマの視線に恥ずかしさがこみ上げただけである。

年頃の男の子に見つめられるというのは、こんなに・・・・・・などと思っているのかは知らないが、顔が少し赤らんでいた。

普段、スリットの見えそうで見えないスケベラインを見せつけているというのに・・・・・・。

「ウリウリ」

「は、はいぃ? な、なんでしょう?」

声が上ずっている。


ガシッ


ユーマの手がウリウリの華奢な手のひらを掴む。

「ほわっ・・・・・・」

間抜けな声が漏れ聞こえる。

「ここに何か君だけしか知らない秘密、というか真実を一つ書いて」

「え」

「お熱いのじゃ」

「ほほう。これが男女の営み」

成り行きを見守っていた二人が、横槍を刺す。

間違っても何も営んでいない。

「今は見ない。いつか、近いうちに必要になるんだ」

「わ、私の秘密なんて知ってどうす・・・・・・はっ!? ユーマ様、さてはエッチなことを」

「しない」

「え」

変な期待に心躍らせかけたシスターの意識を呼び戻す。

何が悲しくて、シスターの秘密をネタに彼女を強請らねばならんのか。

そして、強請ったら何故エッチな展開になるのか。

俗物なユーマには理解できなかった。


「これは一つの実験なんだ」

彼女しか知りえない秘密を聞き記す。

そして、もしも時間が巻き戻っているのなら、このやり取りも無かったことになる可能性があるのだ。

ノートに書かれた内容だけは消えていないことから“ゴッデスポイント用のノートだけ異なる次元に存在する”・・・・・・とかなんとか考えてもユーマには、理解できない。

とりあえず試してみれば分かる事だった。


ノートを受け取ったウリウリが、白紙のページに視線を落としたあと、にっこりと笑った。

「ユーマ様、そういう感じのプロポーズは失敗しますよ?」

何を勘違いしたのかシスターがニコニコ笑う。

うん、君の思考がどうなっているか分からないや。


「ウリウリさん」

「なんですか?」

「とりあえずよく分からないけど。露出魔には興味が無いんだ・・・・・・ごめんね」

「がーーーーん!!!!!」

ガックリと肩を落とし、口から擬音を発するシスター。

オモシロ芸人の素質があるのではなかろうか。

一体何の妄想が走っていたのか理解に苦しむ。


「いいですよ!! ふん!! 書いてあげます!!」

変わり身の早さに定評があるかどうかは知らないが、ユーマからペンをひったくると猛烈な勢いで何かを書き始める。

「はいどうぞ!」

口をへの字に曲げているむっすりシスターは、なんとなくかわいかった。

というか素体がかわいいのに奇妙な行動と思考のため、残念美少女になっていることに気付かないのだろうか。


「ありがとう。では、これを」

糊付けしたいが、糊が無いので端を折り、簡易的な袋とじにする。

袋とじにする理由は二つ。

次、記憶に無い時間に突入した時に目に付きやすくするため。

そして、もう一つは袋とじにすることで開封したかしていないかの確認になるのだ。


「で、じっと見つめている二人は何に期待してるんだ?」

ビケットを食べる手が止まり半開きの口のマウス、めくっていたページが途中で止まったままの七味。

「のう。七味よ」

「なんであろう? マウス殿」

視線はユーマに固定されたまま言葉を交わす。

「男女の営みというヤツは、もっと激しいと聞いたが」

「然り。さりとて状況によるのでありましょうぞ」

何を言っているのだ、こいつらは。

ユーマの口が半開きになる。

「面白いものが見れると思うたのに何も無かったぞ?」

「ふむ。あの麗人。なんと言ったか。アイネ何某殿から聞いた話とは違いますな」

アイネ何某。


ユーマは脳内の記憶を漁る。

幸い、記憶の片隅に存在する女の名前であった。


聖女様お付きのものAこと“アイネ・フェアブライト”である。

ウリウリとユーマがアレな関係と吹聴して回ったクセモノの名だった。

「何を聞いたのかなぁ?」

ゆらりと幽鬼のごとく立ち上がったユーマが七味に迫る。

「お、おお・・・・・・、いや、アイネという麗人よりユーマ殿たちを観察していれば、いずれ男女の営みという不可思議な儀式が見れると―――」

「なるほどぉ? マウスはぁ?」

ガシリと幼女の肩を掴む。

「はわわわ・・・・・・どうしたのじゃ、ぬしよ・・・・・・目がイっておるぞ・・・・・・」

「ふふふ・・・・・・とりあえず、どういう話を聞かされたか教えてもらおうかぁ」

ユーマは他人の評価など、あまり気にしない男である。

しかし、あらぬ噂を流されることには、人一倍敏感であった。

これ以上、ややこしい噂を吹聴されたくない。

場合によっては、アイネを〆ねばならぬ。

ユーマの心は憎悪に燃えていた。

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