表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

HENTAIシスター

「ま」

「ヴぁ」

ユーマとマウスが張り紙を音読する。

 どっちも発音が違った。

「もの」

シスターらしき格好の少女が正しい発音で返した。

「え、ものって読むの?」

「そうですよ。本当に外国から来たんですね」

さらさらの金髪が揺れる。

 シスターのウリウリさんが驚いたような顔をしていた。

 フルネームで”マ・クワ・ウリウリ”というそうだ。

 本名なのか偽名なのか分かりかねる。

 とりあえず外国の女優さんかな、と思えるほどの美少女だ。

 神職にあるまじきハレンチな衣装であること以外は、美しいの一言に尽きる。

 足を組み直すとローブのスリットの隙間から太もも・・・・・・もとい付け根の辺りがチラ見えする。

 どうやらパンツを履いていない。

「ちょっと、いや結構遠いところから。ね」

異世界から来ましたなどと口走るのは危険である。

 特に宗教関係者相手には。

「我もかなり高いところからの」

こちらはマウスだ。

 海辺から来たわけでは無いらしい。

「高い?」

「山の上じゃ」

「なるほど?」

山の上に巨大な湖でもあるのだろう。

「はいはい。じゃあ次はこれですね」

ぱんぱんと手を叩き、シスターが指差す文字「っさからん」と読めた部分だ。

「ズゥわ」

「なんて?」

さっきからユーマ、マウス共々こんな誤読ばかりしていた。


―――


「違うのじゃ! そうは読まんじゃろ!! ヴぇ! じゃ」

「どこをどう”ヴぇ”と読むんだ!」

スク水幼女ことマウスと依頼書?の文字を読んでみたら2人とも正確に読めなかった。

 2人して奇怪な呪文のようなものを唱えていたら、通りかかったのが自称シスターのマ・クワ・ウリウリさんだ。

 思わずスイカの親戚かよ! などとツッこみを入れかけたが、必死に我慢した。

 我ながら賢明であったとユーマは自画自賛。

「アウスティリア正統中央教会のシスター マ・クワ・ウリウリです。ご存じありませんか? 世界最大の宗教団体なんですけど」

などと自己紹介されれば、構えるのは当然だ。

 世界の紛争のだいたいの原因は、宗教観の違いだ。たぶん。

 例外もあるだろうけど。


 そんな教会関係者のシスターはお布施をむしり取っていくわけでも変な壺を売りつけてくることは無かった。

「お2人が困っているようでしたので」

とか言って、依頼書の読み方講座が始まったのである。

 金貨2枚をパクっていったババアの前例がある。

 悟られないように警戒するに越したことは無い。

 ユーマは疑り深い性格であった。


「つまりは、”探し物をしています。南の小麦畑のどこかで指輪を落としました”ってことか」

「そうですね。きっと持ち主はとても困ってらっしゃるんでしょうね」

解読完了した依頼書の報酬額をシスターが指差す。

「金貨5枚・・・・・・?」

「おお! 鳥の丸焼きが50は食べれるぞ!!」

落とし物を探すだけで5000円ほどである。

 すぐ見つかるなら悪くない話だが、砂丘に落としたダイヤを探せレベルなら労力に見合わない。

「ぬしよ! さあ、我とぱーちーを組むのじゃ! そこの露出魔も!」

「え! 私、露出なんてしてませんよ!?」

お得なのか?

 ユーマは腕組みをしたまま思案する。

「いや。パーティーを組む必要ってあるのか?」

ババアが示した運命の人々かもしれないが、ドラゴン幼女(スク水)にパンツはいてないHENTAIシスターである。

 ユーマに特殊な趣味は無い。

「ぬしよ。そのお目目は飾りかや?」

「ん? ”1人あたり金貨5枚”?」

「さすがですね! ええと、・・・・・・ロリドラちゃん?」

「我はマウス・トゥ・ヴェサ・エレクトロニカ!! れっきとした大人のレディなのじゃ!! ロリでは無いのじゃ!!」

一人歩き出せば、釣られて歩き出す。

 依頼書を持ったマウスが自己紹介しながら受付に進む。

 ウリウリが「じゃあ、マウスちゃんですね!」などと手を叩きながら続いた。

「ほれ、ぬしも名乗るのじゃ。・・・・・・あ、いや。ここに名前を書くのじゃ」

「ん? ああ。ユーマ・トワイライトっと・・・・・・」

そう言えば名乗って無かったなぁ、などと思いながら差し出された紙に名前を書き込んだ。

 さすがに黄昏有馬とは書かない。

 なんせ宗教関係の人がいるのだ。

 漢字で名前を書いて、この世界にそういう人種がいなければ詰みである。


「え、異世界・・・・・・人? 取り調べが必要ですね。とりあえず体に聞きましょう」などと狂ったことを言い出してもらっては困る。

 命の危機である。

 ユーマは疑り深かった。

「ユーマ様ですね! 改めてよろしくお願いします! 私はアウスティリア正統中央教会ロッテンハイマー支部所属のシスター マ・クワ・ウリウリです!」

杞憂であったかもしれない。

 美少女はヒマワリが咲いたような純粋な笑顔で握手を求める。

 白磁の陶器のようなキレイなお肌。

「ああ、よろしく・・・・・・んん?!」

握手を交わし、そして見て、気付いてしまった。

 三日月形に形よく口元を歪めたマウスが、ユーマの名前の下に自分の名前を書いているところを。

「我はさっき名乗ったからのー。よろしくなのじゃ! リーダー」

「謀ったなマウスゥ!!」

そもそも名乗るのに紙に書く必要など無かったのだ。

 ユーマの注意不足であったが、マウスにハメられたのである。

 記名した紙は、パーティーのリーダー名を書く欄があった。

 リーダー。いわゆる責任者であり、クエストの顛末を報告したり、メンバーや保護対象(いた場合)の安全なども配慮しなければならないのだ。

 メンドくさいからやりたくない系のポジションである。

「ふくく、ユーマよ。己の不注意さを嘆くのじゃな!」

「ガッデム」

こうしてユーマは、三人パーティーのリーダーに就任したのであった。

 これから暑くなるであろう初夏のことだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ