ユーマ、スリに遭う
程なくギリシャとかにありそうな神殿様式の建物前に到着するとばあさんが、手を差し出してくる。
「ん!」
どうやら目的地に到着したので、別れの挨拶らしかった。
「ああ、短い間だったけど・・・・・・」
親切なばあさん、ありがとう、と握り返そうとすると、
「バカ言ってんじゃないよ! 案内賃だよ! 金貨3枚よこしな!」
「とんでもないぼったくりババアだ!」
ぼったくりであった。
タクシーでも3000円も行かない距離で3000円をせびろうというのである。
親切では無いばあさんである。
何だったら東南アジアで観光客にたかる現地エセ案内人みたいな存在であった。
「人生の先輩に向かってなんて口の利き方だい! まあ、そんな細かいことはどうでもイイんだけどね!! あたしゃ金欠なんだよ!」
「金貨1枚! これで手を打とう!」
すかさず値切るくらいにはユーマはケチであった。
「なんだいアンタ! 値切ろうってのかい!! 毎度あり!!」
「良いのかよ!」
もっとケチれば良かった、などと言葉には出さないが、心の中でしこりとなって残る。
「あ? なんだいもう一枚くれるのかい! いいだろう、とっておきの話をしてやるよ! 耳かっぽじって聞きな!」
ばあさんは止まらない。
求めてない情報の押し売りである。
「まてまて」
「待たないよ! 時は金っていうだろ! 見てみな。各通りには番地を書いた看板がある」
ともかく制止を掛けてみるが、ばあさんは止まらなかった。
促されるままに指差す方向に視線を移す。
木製の柱に木の板がついている。
「木の板に書いてある青文字の・・・・・・」
何か面白い仕掛けでもあるのだろうか。
少しだけ気になる。
「そうさ。ただね、夜になると見えなくなるってんで星を埋めたんだ。地面に」
「星?!」
木の看板は関係なかった。
しかし地面に謎の物体が埋め込まれているという話は、ユーマをワクワクさせた。
なんせ【星】が埋めてあるという。
子どもの頃、夜空に瞬く星を部屋に飾ったら、さぞきれいだろう、なんて夢見たこともあった。
実際の星は★型じゃないし、光って無いという残酷な真実を知るまでは。
「大通りの始端と終端の地面を見てみな」
すっと指差す先には、灰色の石畳が広がり、それぞれの端には、ガラスのような物が埋めてある。
「魔法石のことさ。昔はいっぱい採掘で採れたんだけどね。最近はめっきりとれなくなった」
赤、青、みどり、無色、薄い金色などなど一つとして同じ色が無いんじゃないかと思うくらいカラフルパレット状態だ。
見下ろしてみると金平糖のような、何となく星型に近いものも埋めてあった。
「そいつをむかしむかし、町がひらかれたときに目印で埋めたのさ。で、トワライトの魔法で暗くなったら光って、明るくなったら消えるって仕組みさ」
「へえー」
100円ショップで売っている暗くなったら光るライトみたいだな、などと思い想像を巡らせる。
「ま、あたしがヒマつぶしに作ったら大ウケしたんだけどね!」
ばあさんがカラカラと笑った。
「夜に見に行ってみな、きっとキレイさ!」
じゃあ、というとばあさんが手を出す。
金貨1枚の価値があるかは何とも言えない。
しかしケチるほどユーマは金の亡者では無かった。
「ちなみに婆さん、何歳なんだ?」
「んん? 96歳さ」
「むかしむかし?」
「300年くらい前かねえ」
金貨を渡しついでに湧いた疑問を投げかける。
「・・・・・・。-204年はどこに消えたんだ・・・・・・」
異世界は歳の取り方が、違うのかもしれない、などと思いかけたところでトンデモナイ答えが返ってくる。
「おやおや、あたしゃ、アルカディアの至宝って呼ばれたルディア・マーファスだよ! 時を弄るくらい朝飯前さ!」
「朝飯前で時を弄るとか怖いわ!」
「ふふん! 大規模な時を弄るのは手間がかかるけどね、誰かの運命を弄るのはチョロいのさ!」
ばあさん、ボケちまってカワイソウに、などと口が裂けても言わない。
ユーマは俗物だが、紳士であった。
「ま、楽しんでいきなよ! 一度きりの人生さ」
ババアはケラケラと笑うと踵を返す。
ひらひらと手のひらを振った。
「ああ、ありがとう。ばあさん」
「そうだ。もひとつだけオマケしといてやるよ」
金貨を投げ、掴んで懐にしまったババアが振り返る。
いたずらを思いついた子どものような目だ。
「あんた、平凡な連中と冒険したいんなら受付で「今から受けれるクエストはありませんか?」って聞きな」
「そうするとどうなるんだ?」
「受付の瘦せっぽちの男は言うだろうさ「複数人でなら受けれるものがあります。紹介しましょうか?」ってね」
ババアは目を細め、口元を形よく歪める。
まるで見てきたかのような口調だ。
「でも、あんたがデコボコ道を行きたいんなら依頼掲示板を見に行きな」
「きっとイイ出会いがあるさ」
今度こそ踵を返すとババアは町の喧騒に消えていく。
何気なくポケットに手を突っ込んだユーマも踵を返し、神殿風の依頼所へ・・・・・・。
「ん!?」
向かいかけ、ポケット内の金貨を数える。
1、2、3・・・・・・6枚とクシャクシャの紙が1枚。
ポケットから引っ張り出してみても金貨は6枚だった。
「おのれババア!!」
いつの間にかババアに金貨を2枚スられていたのだ。
勢いよく振り返ったが、人々が行き交う通りにばあさんの姿は無かった。