表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

親切なババアと

 異世界の太陽は、至って普通の太陽だ。 別に青く輝いたり、2つあったりすることは無い。

 そんな太陽(?)が真上に昇るころ、ユーマは首に手を当てながら、表通りをフラフラと歩いていた。

「くっ・・・・・・寝違えた・・・・・・。トイレでの仮眠は限界がある・・・・・・!」

そもそもトイレで寝泊まりするのがムチャであった。

 眠りも浅いし、寝返りも打てないまま、首の筋がちがったようである。

 そんなこんなで朝から悶え、ようやく痛みがマシになったころには昼頃になってしまった。

「すみません。仕事の案内所とかあったりしますか?」

近くの通る人に声を掛けてみる。

 ユーマは割と図々しかった。

「え、っと臨時依頼クエストとかってことですか?」

「ええ、そんな感じの」

「それなら新市街の12番通りを西に6ブロック進んで―――」


 先日、発見できなかったいわゆるRPGのクエストあっせん所。

 とりあえず、それを探そうと思ったワケだ。

 無いなら仕方ないな、と思っていたが

「RPG的な物があるだろと思ったらあった。とても複雑な気持ちだ」

あるらしい、と聞き、何とも言えない気持ちになる。

「まあ、話のネタのためにはイイか。とりあえず」

ひとり呟き、新市街とやらの方に歩を進める。

 ハロワみたいなものだと割り切れれば、ゲームの世界のような施設が合っても気にはならない。


 少し歩くと町中に掲示板というか看板広告みたいなものが目に入った。

「『空き部屋あります』カワセミ亭・・・・・・ほう?」

「『空き部屋あります』グランポセット・・・・・・ふむ?」

いわゆる賃貸有りますよ、的なアレであった。

 しかも絶賛張り出し中である。

「お兄さん、空き家を探してます?」

黄金を溶かしたような金髪をポニーテールにまとめた、青い目の女の子が振り返る。

 いわゆる美少女。

 どこかの胡散臭い自称神より自然なプロポーションであった。

「え、いや。探しているというかなんて言うか」

「あ! 分かりました。当ててみましょうか。お兄さん、旅人さんでロッテンハイマーに来たばかり。ここを拠点にするか考えているってところでしょう?」

「ああ、まあ、そんな感じかな。これからクエストってヤツを見に―――」

わざわざ異世界からうんぬんの下りを言う必要性を感じない。

 ユーマは適当なところは適当だった。


「じゃあ、お部屋を検討されるときは、カワセミ亭を是非とも! クーチャの紹介ですって言って貰えれば安くなりますので!!」

「お、おう・・・・・・」

名乗り、軽く会釈をする姿には気品がある。

 リヴゥの実を破格値で売ろうとする商人のおっさんのような澱んだ雰囲気は無かった。

 一言で言うと真夏のヒマワリのような感じである。


「まあ、お金に余裕が出来たら借りるのも良いな。トイレで寝泊まりはマジでキツイ・・・・・・」

実際問題、トイレで寝泊まりは厳しいのだ。

 仮眠と睡眠は別物であった。


「迷子かい!? あんた、迷子だろ??」「うおお、ばあさん近い近い!」

町中で迷子になった。

 迷子になっても現代だったら「どうしたんですか?」などと親切に声をかける人はいない。

「どうなんだい? あんた、迷子の顔をしてるじゃないのさ」

ところがどっこい、異世界だからだろうか。

 どこからともなく健脚なお婆さんがすっ飛んできたのである。

 老眼だからだろうか。

 ユーマの顔から15㎝ほどの近距離まで顔を近づけられると脅威を感じる。

「ええと、迷子、かもしんないっす」

そっと後ずさり距離を取る。

 スタイル抜群で猫背でも何ともない超絶健康そうな顔だけシワクチャのばあさんがにんまりと笑う。

「そうかいそうかい!! どこ行きたいんだい!?」

まるで迷子=獲物を見つけたかのように楽しそうである。

「新市街12番ってところの―――」

「ああー、なるほどねぇ! クエスト求めて何とやらッてヤツだね! あたしゃ詳しいんだ!」

大体「詳しいんだ」という人はハズレのような気がする、などと口が裂けても言わないユーマにも節度くらいは持ち合わせている。

 餅は餅屋とかいう言葉があるくらいなので、現地の町人に案内してもらったほうが楽であろう。

 打算的な思考が巡る。

「あたしが連れていってあげるよ! しっかりついてきな! あんた、あたしが声かけなきゃ旧市街を延々とさ迷っていたよ!」

「お、ああ。ありがとう」

旧市街だったのか・・・・・・。

 どおりで建物が少しくすんでいたのか、と心の中で呟いた。

 色とりどりの壁面だが、どことなくくすみ、ほんの少しだけヒビも入っている。

「良いって事さね!」


 ばあさんは、やっぱり健脚であった。

 獲物を見つけた時だけ速いワケでは無く、常時速いようだ。

 そのスピードは成人男性で歩きなれている人並みに速い。

 まるで通勤ラッシュのサラリーマンである。

 行き交う人波をすり抜けるように進むその動きは、タダ者ではない。

「で、あんた戦者、には見えないし、導師でも無いっぽいねえ?」

少し先を行くばあさんが振り返らずに尋ねる。

「なんて?」

戦車と帽子と聞こえたユーマの耳は、まだ環境に慣れていないのだろう。

 そもそも言葉が通じるのがおかしい。

「ああ、悪いね! あたしゃ古い人間だからね。つい昔の呼び名を使っちまう」

「戦者ってのは、剣士、戦士とかの武具を振り回して戦う連中の総称さ。導師は魔法使いだとか賢者だとか頭のイってる連中のことさ!」

「お、おう・・・・・・」

なるほど。いわゆるRPGの戦士や魔法使いなどのジョブ的なアレのことだ。

「英雄時代はそう呼んだんだ。ちなみにあたしゃ頭がイってる方を生業にしてたのさ」

「インテリ系ってことか」

理系と文系、むしろ体育会系みたいなものか。

 と思ったものの「イってる」などと品の無い返答をするほどユーマは俗物では無い。

「イン、なんだって? あんたの地方の言葉かい。まあいいさ」

「で、あんたはどっちにも見えない。死にたがりかい?」

一般ピーポーでクエストを受けに行くと死にたがりになるのだろうか。

 ユーマは訝しんだ。

「え、クエストってそういうヤバいヤツばっかり???」

何か落とし物探しています、だとか〇〇の材料探してきてください、とかいう平和なクエストは無いのだろうか。

「んなワケないよ! 冗談に決まってるだろ! 今は些細な頼み事とか手伝い依頼のこともクエストっていうのさ」

あるらしい。

 ほっと胸を撫で下ろす。

 一目散に遁走できるくらいしかできることは無く、怪物の類を倒せる算段が無い。

 何故ならチート能力みたいな付与は無く、ただの一般ピーポーだからである。

「例えば、飼い猫が迷子です、とか?」

「まあ、あるんじゃないかい! いいかい、ババアと約束しな! 前衛張るヤツが防具の重要性を理解してない場合は、そいつと戦いに出ちゃいけないよ!」

「お、おう」

「あんた、素っ裸で砂漠横断しに行くようなもんさ! 死にたがりなら止めないよ! ババアからの餞別さ」

「分かった。気を付けるよ」

ばばあは親切であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ