プロローグ
SIENNA
プロローグ
「誰に雇われたか、言ってみろ。答えなきゃ殺すかもよ?」
彼女は、俺の喉下にミネベア9mm自動拳銃を押し当てた。それ、俺のなんだけどな。
俺の方が、用意周到に、徹底的にリサーチしてるのに、何でこうも簡単に立場逆転かなー…。
女に羽交い絞めにされるなんて、情けなさ過ぎて涙も出ない。
「言わなくても、殺すくせに」
ちょっと粋がってみる。彼女は、面白そうに笑った。
「よく分かってるじゃん。あんた、しぶといし、裏世界でも生き抜いていける位、頭も良さそうだけどさぁ、やっぱ、相手は選ばなきゃ。そん位、学校の先生に教えてもらわなくたって、分かるじゃん? 駆け出しの体力だけが頼りの殺し屋と、訓練を積んだ一人前のエージェントとじゃ、格が違うと思わないかなぁ?」
外国人は、皆、こんな風にナルシストなんだろうか。
しかし、もうすぐ殺されると言うのに、不思議と恐怖は沸かない。
反撃する気さえ失せていく。
彼女の言葉が耳に心地よくて、眠りたくなってきた。
これも、この女の武器なのだろう。相手を睡眠状態にするのが得意な奴は、稀だが同業者にもいた。
俺の体から殺気が消え始めてきたのを見て取ると、彼女は俺の口に耳を寄せて呟いた。
「good night,poor man...no,you are a fool boy!」
走馬灯なんて、無かった。
耳に残るのは、彼女の心地よい笑い声。鈴の音の様な。
あとは、俺を地上から断ち切る乾いた銃声だけ。
音は漏れてないと思う。
ラブホって、防音はシッカリしてるから。
私は、鞄からリストを取り出した。
‘神崎穂’―その文字の上に、赤ペンでキューっと線を引く。
「せっかく、イイ男だと思ったのにな。やっぱり、国の回し者かぁ」