7 招待状
ある日、お父様から執務室に呼ばれた。
「王宮から招待状が来ている。第2王子の婚約者を決めるものだ。行くか?」
「行かなくて良いなら、行きたくないです。でも、」
「そうか、分かった。断ろう!」
答えを最後まで聞かないうちに、お父様が話し始める。
「え?良いのですか?」
だって、王命は断れないのでは?
「良いぞ!早速、返事を出そう!」
「旦那様、駄目ですよ。王命です。」
「……はぁ、分かっているよ。」
返事を書こうと便箋を取り出したお父様を、控えていたロバートが止めた。
「ですよね。…びっくりしました。」
「でも、表向きはただのお茶会なのだから、断ってもいいと思わないか?」
「思いません。暗黙のルールというものがあります。それに、子どもたちの顔合わせの場でもあるのです。」
「分かってるよ。リア、そういう事だ。すぐに帰ってきていいから、行ってくれるか?」
「もちろんです。婚約者云々は嫌ですが、お茶会は楽しみます。」
その後、色々話を聞くに第1王子レオン殿下(17)にはすでに婚約者が居るため、今回は第2王子ライアン殿下(11)の婚約者候補が集められるそうだ。しかし、表向きは殿下たちとのお茶会。レオン殿下が来ないわけではなく、婚約者を連れて出席するとの事。その他にも殿下たちの側近もちらほら。なんと、お兄様もレオン殿下の側近として参加するそうだ。
お兄様は長期休暇にしか帰ってこない。そして、帰ってくる度、私の奇行(ドレスとハイヒールで走る·戦う)に驚いていた。
お兄様は、驚いて心配してくれるが、止めさせようとはしなかった。
本当に理解のある家族。他の家なら叩き出されていたかもしれないのに…。
実は、何度か命を狙われていて、裏で護衛騎士が未然に防いでくれているのだが、それをプルメリアは知らない。
それを知る家族は、護身術を習うプルメリアを止める事はない。
愛しい子を守れるなら、変わり者と言われようとなんだろうと良いのだ。
「変わり者と思われていては、結婚もできるか分からないが、うちに永く居てくれると思えばありだよな。」
「そうね。可愛いリアがそばにいてくれるのは嬉しいわ。」
「そうです。うちの宝は、どこにもやりません!」
家族3人でそう言い、頷きあっている。
◇
お茶会当日。
私は髪をハーフアップアレンジされ、青い上品なドレスを着せてもらい、普段よりも美少女になっていた。
「プルメリア様、可愛いです!」
「きれいです!」
「ありがとう、嬉しいわ。」
カルアもメイも褒めてくれる。特に、メイは真っ赤な顔で興奮しながら、ある一言を発した。
「これなら、ライアン殿下も落ちますね!」
「こら!メイ!」
「すみません…。口が過ぎました。」
ジューンに怒られ、メイはシュンとした。
「期待してくれて悪いけど、殿下の事は興味ないのよ。」
苦笑して話すと、理由を聞かれた。
「これからどうなるか分からないけど、今はどんな人か分からないライアン殿下より、久しぶりに会うお兄様の方が大切なのよ。きちんと令嬢としての勉強も頑張っているのを見てもらわないと!後は、お友達作りよ!……できるかしら?」
「できますよ!」
「こんなに可愛らしいプルメリア様と友達になりたい方は、きっとたくさんいらっしゃいますよ。」
「ありがとう。頑張るわ。」
とびきりの笑顔で言うと、侍女3人は「ほぉ…」と溜息をついた。
そして出発のとき。
「何かあったら、すぐにチスに言うんだよ。」
「すぐに帰ってきて良いのよ。」
「お父様、お母様。心配し過ぎです。それにお兄様はレオン殿下のそばにいるのですから、迷惑はかけられません。」
「ウェル様、やっぱり…」
「うん、行かせるのをやめよう!」
「そうよね!」
「旦那様、奥様。」
「…………分かっている。リア、本当に気を付けるんだよ。」
「はい、行ってきます。」
過保護なふたりに見送られ、ジューンと一緒に馬車で王城に向かった。
王城に着き馬車から降りて、お茶会会場に向かう。歩いている途中、色んな人からの視線を感じるため、小声でジューンに聞いてみる。
「ジューン。私、何か変かしら?あなた達が準備をしてくれたから、見た目は完璧だと思うの。動きとかおかしい?」
「いいえ、可愛らしいからです。」
「あら。それなら、あなた達のおかげね。」
自分ではなく、侍女のおかげだと感謝を持つ令嬢は少ない。ジューンは、こういうプルメリアだからこそ、この主を守りたい·そばにいたいと改めて思う。きっと今回来ていないカルアとメイもそうだろう。
お茶会会場に着くと、すでに着席している令嬢がたくさんいた。席に近づいて行くと、こちらに視線を向けられる。目を丸くしている子もいれば、睨んでくる子もいる。
「皆様、オパール家長女プルメリアでございます。よろしくお願い致します。」
「私はルビー家三女アンナでございます。よろしくお願いします。」
「私はアメシスト家長女クレマですわ。こちらこそ、よろしくお願いしますわ。」
ルビー家とアメシスト家、どちらも侯爵家ね。
アンナ様は黒髪をおろしており、おっとりしている印象。クレマ様は青に近いグレーの髪を結っていて、元気な印象を受ける。
その後も挨拶は続く。今来ている中で、この3人の家格が一番上なのだ。
そして、時間になった。
「ライアン殿下の入場です。」
入り口の騎士がドアを開け、会場内に赤い髪で薄い茶色の目をしたライアン殿下が入ってくると、会場は静かになり挨拶が始まった。
しかし、私の頭の中はお兄様はいつ来るのかと、横目にうつるお茶とお菓子の事だった。