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5 夢

外に出ると、とりあえず敷地を一周走る事にした。一周と言っても、森っぽい所はやめて家が建っている周りだけ。それでも早々にバテたが、ゆっくりでも前に進むことはやめない。


「はぁ、はぁ、…この8年、運動らしい運動してなかったの忘れてた…。ドレス重いし、ハイヒールで足挫きそう。」

「プルメリア様、もう止めましょう。」


後ろからは、メイが付いてきてくれている。

敷地内には護衛騎士や他の侍女もたくさんおり、私とすれ違うたびに何事かと見ている。そして、メイに質問する。


「プルメリア様はどうしたの?」

「走ってます!」

「それは見れば分かるけど。」

「失礼します!」


あまりに同じ事を聞かれるので、面倒くさくなったようだ。


まあ、そうよね。みんな気になるわよね。私もみんなの立場なら何事かと思うわよ…


どれくらいの時間がたっただろうか。一周が終わった所で師匠がやって来た。


「どうだった?」

「体が重いです。」

「そうだろうな。初めてにしてはよく頑張った。体術だが、軽く走れるようになるまでは教えない。今、お前に一番必要なのは脚力だ。」

「???」

「危険が迫ったとき、まず逃げる事を考えろ。子どものお前は戦っても力負けする。逃げるのも身を守る方法だ。」

「!!!…ドレスとハイヒールで走ったのもそのためですね。」

「おっ!察しがいいな。これから、毎日とは言わんが俺の来ない日にも、とりあえず走れ。」

「分かりました。これからよろしくお願い致します。」


私は深く頭を下げた。

そして、師匠は「また来る。」と言って帰っていった。


「プルメリア様、すみません。聞いてもよろしいですか?」

「ええ、何?」


重い身体を支えてもらいながら、玄関を目指している時にメイが質問してきた。


「何故ドレスとハイヒールだったのですか?プルメリア様は納得されたようですけど、私には分からなくて。」

「私はいつもこのような格好をしているわ。」

「もちろんです。いつも可愛いです。」

「くすくす、ありがとう。ねぇメイ、危険はいつ訪れるか分からないのよ。だから、普段着で逃げられるようにしなければならない。師匠はそれを教えてくれたの。」

「そうだったんですね。」


玄関につくと、お父様、お母様、ロバート、ビオラ、ジューン、カルアが待っていた。


「あら、みんなお揃いで。」

「リア!怪我はない?疲れたでしょう。休みましょうね」

「よく頑張ったな。」


お母様は駆けてきて、抱きしめてくれ、お父様は頭を撫でてくれた。


本当にいい家族だわ…


私はそれから汚れを落とし、ベッドで休む事にした。


ストレッチをしておかないと、あとが怖いわ。絶対に筋肉痛よ!


しかし、ストレッチのために横になると、疲れからそのまま眠ってしまった。

……………そして、夢を見た。



寂しく悲しい夢…………。


   ◇


金髪の縦ロール、目が青い10歳の女の子がいた。名前はプルメリア。


「これも、嫌よ!もっと可愛いの持って来て!」

「しかし…(もう着た事のないドレスは全てお出ししたのだけれど……)」

「私の言う事が聞けないの?使えない子ね!」

「あらあら、どうしたの?」

「お母様!私、可愛い服がほしいわ!」

「あら、良いわね!どんな服にしようかしら。」

「ええっとねー!」


父親はほとんど顔を合わせる事はなく、顔を合わせても会話はない。

兄もいるが、部屋にこもっている事が多く、出てきたとしても、好き放題しているプルメリアと、それを諌めない母親の事を軽蔑の目で見ていた。

母親はプルメリアにとても甘く、否とした事がないのではないかというくらい、言われるがまま全てを与えていた。

プルメリアは、自分を愛してくれるのは母親だけだと感じていた。だからこそ、愛を確かめるために我儘を言った。聞いてもらえると愛されていると実感できたから。


そんな生活の中で、第2王子ライアンの婚約者の話が来た。婚約者候補が集まる場に出席すると、令嬢が何人か来ており、お茶会をした。その後、父親にどう思うか聞かれたとき、プルメリアは「結婚したいです」と即答した。婚約者候補としてライアン王子に会ったとき、一目惚れをしていたからだ。そして、婚約者候補筆頭だったプルメリアは、ライアン王子の婚約者になった。


プルメリアの我儘は変わらなかったが、ライアン王子のため、淑女教育は真面目に受けた。

すると、徐々にわがままを言う事も少なくなっていった。


13歳。学園に入学する歳になると、令嬢として恥ずかしくない行動をする様になり、美人に成長し、縦ロールにも磨きがかかった。


入学した報告のため婚約者であるライアン王子に会いにいくと、横にはオレンジ色のふわふわした髪の女生徒がいた。ライアン王子の周りには側近もいるのだが、何故かふたりが気になり目が離せない。そして、ふたりを見ていると、王子はその女生徒の事を好いているのだとすぐに分かった。


プルメリアの心は乱れた。それを押し殺し、ライアン王子に近づくと、周りの側近達は退いたが、女生徒はそのままだった。

ライアン王子がプルメリアに気づき声をかけた。


「プルメリアか。」

「ライアン様、お久しぶりでございます。入学の挨拶に参りました。」

「そうか。入学おめでとう。」

「ありがとうございます。…あの…その方は?」

「クリスティーナ·アンバー嬢だ。」

「よろしくお願いします。」


何故、ライアン様の横にいるの?そこは私の場所よ。婚約者の私がいるのに何故退かないの?


クリスティーナはその後もいつも変わらず、ライアン王子のそばにいた。プルメリアはライアン王子にも、クリスティーナにも苦言や警告をするが、それでも変わらない。

そのうち、周りの令嬢たちがクリスティーナに強く当たるようになった。その様子がプルメリアの目にはいる事もあったが、プルメリアは助けも加担もせず、傍観する姿勢をとった。

また、仲のいい二人を見るたびに、心の中にどんなに嵐が吹き荒れても、婚約者としてのプライドがあり、手を出すことはしなかった。学業の合間を縫い、妃教育も受けていたから忙しくもあったのだ。

第1王子に何かあったときは、第2王子であるライアン王子が王太子となるため、その伴侶も妃教育は必要なのだ。


今だけよ。今だけ我慢すれば……。


そんな日々が過ぎ、ライアン王子が卒業する年になった。プルメリアは17歳。あと1年で卒業し、ライアン王子と結婚する事になっていた。

しかし、卒業式の日に事件は起こった。


ライアン王子とクリスティーナが腕を組んでプルメリアの前に立つ。ふたりの後ろには騎士もいた。


「プルメリア、お前との婚約を破棄する!」

「!!何故ですか?」

「お前はクリスティーナを虐めていたそうだな。私の伴侶にそんな奴はいらない。」

「何を仰っているのか分かりかねます。」

「しらをきるのか?皆が教えてくれたぞ。」

「皆ですか?…私が何をしたと?」

「他の令嬢に指示をだし、暴言暴力をさせたのだろう。指示されたとの言質も取っているぞ。」

「私を信じてはくれないのですね。ライアン様のために、血反吐を吐くような教育を受けてきたのですよ。貴方様の妃になるために。」

「だから、偉いと?暴言や暴力もありだと、そういうのか?」

「そんな事は言っていません。いじめる暇など無かったのです。」

「皆から言質を取ったと言っただろう。諦めろ。今なら国外追放で許してやる。」

「……………国外追放?……婚約者である私は蔑ろにされているのに、なぜそこまでその女を守ろうとするのですか?そもそも、婚約者がいる男性を誑かした女性が悪いのですよ?」

「やっと認めたか!」

「答えてください!」

「愛する女を守って何が悪い!プルメリアを連れていけ!」


後ろにいた騎士に命令し、そのままプルメリアに背を向け行ってしまった。

プルメリアは呆然とその背中を見ていた。

その後は、騎士に連れられ学園の外へ行き、馬車に乗せられた。


……私は愛されないの?…頑張ってきたのに…。わがままもやめたのに……。国外追放って…。


目から涙があふれた。拭いても拭いても出てくる。


ガタン


馬車が止まると、御者に外に引きずり出された。


「痛い。何するの?」


その瞬間、


パチン


プルメリアの中で何かが弾けた。


この光景見たことがある…確かこの後…


プルメリアは御者によって、ナイフを胸に付き立てられた。


   ◇


目を覚ますと、プルメリアの顔が涙で濡れていた。


私、泣いてた?

悲しい夢だったような気がするけど、思い出せない…。



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