49 新しい生活②
「ふぅ。ヤミありがとう。」
「相変わらず、良い動きですね。」
ヤミは、あの事件での動きのことを言っているのだろう。
「でも、身体が重いわ。やっぱり、毎日少しでも動かないと駄目ね。また、よろしくね。」
「はい。」
隣を見ると、ジェイクとノアが手合わせしている。
「これは、なかなか終わりそうはないわね。…サム、皆、準備はできた?」
…「「「…」」」…
返事がない。
「おおーい!」
私はサムの前で、手を振る。
「はっ!…プルメリア様、何処までも付いていきます。」
サムが片膝を付き、頭を下げる。
サムに続いて、他の侍従や侍女も同じ姿勢をとった。
ええー!何これ?…こわっ。
私、教祖的なものになった覚えないけど…。
「あ、うん。…ありがとう?」
「…クッ。」
私が少し引いていると、ジェイクの笑いを堪える声が聞こえる。
「ジェイク。堪えきれていませんよ?」
「ははは。すまん。…まさか、ここまでになるとは、予想外だった。」
「プルメリア様。少し休憩なさいますか?」
ライラが休憩の準備をしてくれていたようだ。
「ジェイク。どうなさいますか?」
「お茶をひとくち貰おうか。」
「はい。ライラ。」
「はい。」
お茶を飲んだら、また手合わせを続ける。
「ライラは侍女達に、ノアは侍従達に稽古を頼めるか。」
「「畏まりました。」」
「サムも揉まれてこい。リアは、俺の相手をしてくれるか?」
「喜んで。」
皆でそれぞれ動き始めた時、
「おお!やってるな。」
「親父。」
ジェイソンお父様がやってきた。
「お前達が運動場に来ていると聞いて、俺も出てきてしまった。」
「母上は?」
「まだ寝ているよ。プルメリア、後で相手をしに行ってあげてくれ。」
「リカーナお母様の予定が良ければ、お茶の時間に、お茶請けを持って行きます。」
「伝えておく。」
「よろしくお願いします。」
その後は、私達の手合わせを見てアドバイスをして、戻っていった。
「そろそろ戻ろうか。」
ジェイクに言われ、皆で家へ戻る。
朝食を食べた後、私はロック料理長の所にいた。私の後ろにはライラと、サムがいる。
サムは、私がここに来ると聞いて不思議そうにしていた所を、ジェイクに言われて連れてきた。
「お茶請けを作りたいのだけれど、材料は使っても大丈夫かしら?」
「ここにあるものでしたら、余裕をもって準備してございますので、大丈夫です。」
「分かったわ。えーと…、ドライフルーツのパウンドケーキが作れるか。後は、しょっぱいものも欲しいな。…ポテトチップスにしましょう。」
「ぽてとちっぷす、ですか?」
サムはやはり不思議そうだ。
慣れているロック料理長は必要な道具等を持ってきてくれた。
「じゃがいもはどれくらい使いますか?」
「そうね…。30人分くらい出来そう?」
「はい。大丈夫です。」
「お茶請けに、じゃがいもを使うのですか?」
サムが驚いている。
しかし、その問いには誰も答えず作業をすすめる。
私がパウンドケーキを作っている間に、ロック料理長がじゃがいもを薄切りにしておいてくれる。
「ありがとう。とても助かるわ。」
「有難きお言葉。」
「また、そんな堅苦しい言い方。」
パウンドケーキが焼けて、粗熱が取れた頃には、ポテトチップスも殆んどが揚がっていた。
「後は任せてもいい?出来上がったら、皆で食べてね。」
私は、パウンドケーキと11人前のポテトチップスを持ってジェイクの所へ行った。
「ジェイク。出来たからリカーナお母様の所へ行きましょう。」
「美味しそうだな。」
「まだ駄目ですよ。リカーナお母様と食べるのですから。」
「分かっている。」
「この半分は、ここに居るサム、ライラ、メラン、ヤミ、ネーロ、クロの分よ。」
私は、小分けにした6人分をサムに渡した。
ネーロも姿を表す。
「やった!プルメリア様、ありがとうございます。監視が終わってからだと、無くなっているだろうから、食べられないかもと思っていました。」
ネーロが喜びの声を上げる。
「今、監視当番はヤミとクロ、ネーロよね?ヤミとクロにも持って行ってね。」
「はい。」
返事をして、すぐに消えた。
「そういう理由で、あなた達3人へもよ。」
「いつもお気遣いありがとうございます。」
ライラとメランが頭を下げる。
サムはまだ動かない。
「執事長がいらないなら、私が頂きますが?」
メランが全てを受け取ろうとすると、サムはポテトチップスを抱え込んだ。
「頂きます。」
私とジェイクは、顔を見合わせて笑う。
「では行こうか。お前達はそれを食べていろ。」
「…お見送りします。」
サム、ライラとメランは、ポテトチップスが入った紙袋を持って見送ってくれた。
ジェイクが荷物を持ってくれて、散歩がてら本宅まで歩く。
「手合わせもしたし、朝からずっと動いているが、…身体は大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。」
「それなら良いんだ。」
「心配してくれて、ありがとうございます。」
「いや。…今日は気持ちが良い日だな。」
「そうですね。」
本宅では、リカーナお母様が玄関で出迎えてくれた。
「プルメリア。いらっしゃい。」
「お邪魔いたします。」
「母上。リアがお茶請けを作ってくれた。一緒に食べよう。」
「まぁ。ありがとう。早速、お茶にしましょうね。」
談話室に移動し、お茶を用意してもらう。
テーブルの上には、持ってきたポテチとパウンドケーキが並ぶ。
「これは?」
「ポテトチップス、じゃがいもです。」
リカーナお母様は、ポテチを口に入れる。
「パリパリで美味しい!止まらなくなるわ。」
続けて口に運んでいる。
そして、次はパウンドケーキ。
「こちらはケーキね。」
「はい。」
「うーん!これも美味しいわ。甘いのと、しょっぱいものが一緒だといくらでも食べられそうね。」
「パウンドケーキは、2、3日置くともっと美味しくなりますよ。」
「そうなのね。それでは、残りは後で食べるわ。」
「ぜひ!」
「ジェイク。こんなに美味しいものを、食べられて幸せね。」
「ああ。本当にそうだと思う。」
「そう言って頂けると、作ったかいがあります。また作ってきますね。」
「ありがとう。楽しみにしてるわ。」
お茶会はにこやかに終わった。
帰り道…
「休みも折り返し地点だな。」
「早いですね。」
「明日、天気が良かったら、また遠乗りでも行くか?」
「良いのですか?」
「身体が大丈夫なら、だけどな。」
「…」
手加減してくれているだろう状況で、もっと手加減してくださいとは言えない…。
そうだ!主導権をにぎれば!
「リア?」
「大丈夫です!」
私は、ジェイクに向かって微笑んだ。
◇
今は真夜中、作戦は失敗に終わった。
頑張った、頑張ったのよ…。
私が攻める形にして、始めは言う通りにしてくれていた。
でも焦らしすぎて、結局『我慢できない』と、主導権はジェイクへ。
明日(と言うか、もう今日?)は遠乗りの筈だったのに、きっと無理…。
私は布団を、頭までスッポリ被った。
「リア。怒っているのか?」
「怒っていません…。」
「それなら、顔を見せてくれ。」
チラッと顔を覗かせる。
「遠乗りは行けそうにありません…。」
「…すまん。」
「…こちらこそ。すみません。」
「何故、リアが謝る。」
「だって、……私が焦らしすぎたから。」
ジェイクが自分の口元を抑え、目を閉じる。
「確かに、あれは燃えた。」
「ジェイク!?」
「妖艶なリアに、我慢がきかなかった。」
!!
「と、とりあえず、もう休みましょう。」
上半身をおこしていたジェイクの腕を引いて、横にならせる。
「おやすみなさい。」
「おやすみ。」
私はジェイクの腕を抱き枕のようにして眠りについた。
朝、私は腰が痛いものの、思ったよりも回復していた。
「リア、起きたか?」
「はい。おはようございます。」
「おはよう。今日も天気が良さそうだ。外で朝食を食べよう。」
カーテンの隙間から、暖かそうな陽の光がキラキラしている。
「気持ち良さそうですね。」
「運動は止めておくか?」
「そうですね。ストレッチだけにします。」
「分かった。俺は、朝食の事を伝えながら、ついでに少し動いてくる。」
「はい。いってらっしゃい。」
ジェイクは目を見開いたあとに、満面の笑みになる。
「行ってくる。」
…素敵。
私はベッドから起き上がり、ストレッチを始める。少しすると、ドアがノックされる。
コンコンコン
「どうぞぉ。」
ストレッチは止めずに、返事をする。
「失礼致します。プルメリア様、おはようございます。」
「メラン、おはよう。そっか。今日はライラが休みの日ね。」
「はい。それなのに、もう起きて活動しています。」
「ふふふっ。メランは、休みの日ゆっくり起きる派?」
「はい。昼まで寝ています。」
「1度起きてからの、2度寝は最高よね。」
「そうなんです!…っと、失礼致しました。」
「良いのよ。メランらしくて安心するわ。」
「プルメリア様…。ストレッチのお手伝いはいりますか?」
「それなら、背中を後ろから押して。」
「はい。いきます。」
「ゔー、きくぅ。」
ストレッチを終えて、着替えなども終わる頃には、ジェイクも戻ってきた。
「外の準備も出来ていたようだし、汗を流してくるから朝食にしよう。」
「はい。」
『汗を流すお手伝いを。』と、言いたい所だけど、そんな事を言ったら、今日は外にも出れなくなるのは分かっている。
だから、また今度にしよう。そうしよう!
私は大人しく、ジェイクの準備が終わるのを待ち、一緒に外に出た。
外に用意されたテーブルには、サンドイッチやフルーツが並べられていた。
「美味しそうですね。」
「ああ、そうだな。」
「何から食べようか迷います。ジェイクは、決まりましたか?」
「俺はこれだな。」
ジェイクはローストビーフのサンドイッチを手に取った。
「こういう肉系のサンドイッチを見ると、スジ煮を思い出す。」
「ロック料理長に言って、材料がある時にまた作りましょうか。」
「頼む。その日が楽しみだ。さてと、遠乗りは明日にして、この後は何をするかな。…そうだ。街に行くか?」
「良いですね。そうしましょう。」
私達は朝食を食べ終えてから、街へ向かった。




