45 卒業
ライラがスッキリした顔で帰ってきた。
「まずは、名前呼びから始めることになりました。」
「えーと、お付き合いが始まったということでいいのかしら?」
「そちらの方向で、話は進みました。」
「そう。良かったわね。」
「ご心配おかけ致しました。」
「また、何かあったら思いつめず話してね。」
「はい。ありがとうございます。」
◇
その日の夕方
私はジェイクと、いつものガゼボで会っていた。
「なるほど。グレイの機嫌がすこぶる良い筈だ。」
「そうなんですか?」
「ああ。昼食から帰ってから、ずっとニヤけていた。…前に俺も気持ち悪いと言われたことがあるが、あんな様子だったのだろうな。」
「ふふふっ。」
「リア、もう少し近くに。」
ジェイクはそう言うが、すでに隣りに座っていて肩も触れている。
「もう近づけませんが?」
「そうか?」
ジェイクがニヤリとした。
私は、ジェイクの膝を見る。
ひょっとして…。
「いくら人目が少ないと言っても、外です!学園です!」
「そうか。残念だな。」
クスリと笑い、全然残念そうに見えない。
…からかったわね。
「ジェイク。失礼します。」
私の中の何かのスイッチが入った。
私は、ジェイクの膝を跨いで対面で座る。
「リア!?」
よし!焦ってる。
「ジェイク。近づけましたね。」
私は、ジェイクの首に手を回し、ニッコリと微笑んだ。
「リア、この体勢はちょっと…。すまん、俺が悪かった。」
「せっかく近づけたのに、もう良いのですか?」
「分かってやっているだろう?」
「ジェイクが先に、始めたのですよ?」
「申し訳ない。」
私はジェイクの膝から降りた。
「はぁ…。俺はリアに勝てないな。」
「そうでしょうか。今日は偶々だと思いますよ。」
「…卒業まで後3ヶ月程か。」
「そうですね。」
「結婚の準備も順調だ。侍女も何人か採用し始めているし、その他にも諸々…まだ言わないでおくが驚く事もあるぞ。」
「何でしょう。気になります。」
「そのうち分かる。…ん?この言葉侯爵にも言われたな。」
「そうでしたか?」
ジェイクにジッと見られる。
「…そのうち分かります。」
「ククっ。楽しみにしてる。」
「私も楽しみにしています。」
◇
3ヶ月は長くも短く、あっという間に卒業式の日になった。
「「「「ご卒業おめでとうございます。」」」」
ライラ、ノア、ネーロ、メランが並び祝の言葉を言ってくれる。
「4人ともありがとう。」
卒業式も滞りなく終わり、明日には学園を去る事になる。
「リカルド殿下も明日でしたね。」
「ああ。色々迷惑をかけた。隊長とオパール嬢の結婚式には出たかったが、立場上難しい。すまない。」
「気にしないで下さい。またこちらへいらしたら、声をかけてくださいね。何かありましたら、手紙も。」
「そうさせてもらうよ。」
「私の事も忘れないでくださいませね。」
「もちろんだ。アメシスト嬢の結婚式も出れないが、日にちは教えてくれ。祝いを送るから。」
「はい。楽しみにしておきますわ。」
「隣国へはいつ?」
「1度王城に行き、明後日隣国へ出発する。」
「随分忙しないのですね。」
「送別会も、お断りになられたとか。」
「これ以上、迷惑はかけられないからな。身内にも、話をつけないといけないし。」
「上手くいく様、祈っています。」
「ありがとう。」
クレマは、バートンくんとの約束があるらしく、家に帰るのは、明後日だそうだ。
私は、翌日に予定通り学園から出た。
◇
「リカルド殿下を、無事隣国までお連れした。」
ジェイクと隊の数人は、隣国の護衛と共に国境まで同行していた。
王城での報告後、我が家へ立ち寄ってくれたのだ。
「お疲れさまでした。」
「リアによろしくと。それから、これを預かった。」
ジェイクは、鞄から小箱を取り出した。
「箱?中身は何ですか?」
「早めの結婚祝いだそうだ。ふたりで開けてくれと言われた。」
「開けますか?」
「そうだな。せっかくだから。」
私達は小箱を開けてみた。
中には小瓶が2つと手紙が入っていた。
バタン!
手紙を読んだジェイクが、勢いよく小箱の蓋を締める。
「ジェイク!?どうしたのですか?」
「いや、何でもない。これは俺が預かっておく。」
「手紙にはなんと書かれていたのですか?」
ジェイクは目を泳がせる。
「あ~、うん、仲良く過ごせと書かれていた…。」
小瓶…仲良く過ごせ…、そしてジェイクのこの態度…。
媚薬系か!
リカルド殿下、貴方はこういう事をしない方だと思っていました。
えーと、…気付かなかったことにしよう。
「そうですか。何かわかりませんが、ジェイクが保管してくれるのですね?」
「ああ。」
「では、よろしくお願いします。」
「…気にならないのか?」
何故、蒸し返すの…。
「ジェイクが、話すのを躊躇う何かが、手紙に書かれていたのでしょう?ジェイクを信じますよ。」
「そ、そうか。」
ジェイクは小箱を鞄に仕舞った。
結婚式まで1ヶ月を切っている。衣装の最終調整も終わり、あとは当日を待つだけだ。
「リアの側仕えだが、長は決まっているか?」
「考えた事はありませんでした。…本人達に聞きますか?」
「そうできると、助かる。」
私はノア、ネーロ、メランを呼んだ。
「長ですか?私達の中では決まっておりません。」
「決めてくれるか?実は、新たな護衛体制を作ろうと思うのだが、その長を任せたい。」
ネーロとメランが顔を見合い、ジェイクに向き直ると声を揃える。
「「それなら、ノアが適任かと。」」
「!」
ノアは、違う人物を思い浮かべたのか、驚いている。
「私は、年上である姉上が妥当かと思います。」
「そうか。…リア、彼らと話す時間をくれないか?」
「今ですか?」
「いや。我が家に来て、新たな護衛体制の説明含め話したい。」
「3人がいいなら。」
「どうだろう?」
「「「プルメリア様に許可を頂けるなら。」」」
「それなら、行ってらっしゃい。その間は部屋で大人しくしているわ。」
「では、仕事の調整がついたら、我が家へ来てくれ。」
「「「畏まりました。」」」
---影side---
「よく来てくれた。」
「長の話ですが、」
俺は、やはり姉上を…と言おうとしたが、遮られた。
「俺もノアが適任だと思うぞ。」
「何故…」
「絶対にリアの為に動き、守り抜くと信じられるからだ。」
「どういう事でしょうか?」
「気付いていないとでも?」
「何の事か、分かりかねます。」
そのやり取りを、メランとネーロが固唾を飲んで見ている。
「ノアの目は、他の使用人達がリアを見る目とは違う。」
「そうでしょうか。気の所為では?」
俺は、この気持ちを口に出す気はない。
プルメリア様とどうこうなろうとは思っていないし、それよりも近くで守る事を選んだ。
生涯をかけて守るのは変わらないのだ。
よりプルメリア様の役に立つ方を…。
「はぁ…。咎める気はないんだ。何かする気があると言うなら話は別だが、その様な感じではないのでな。俺と同じ位の思いを持つ者に長を任せられれば…そう思った。誤解しないでほしいが、けして他のふたりがリアを思っていないということでは無い。」
「「はい。分かっております。」」
「ノア。長になってくれるか?」
「…畏まりました。」
「そうか、良かった。では、護衛体制の説明を始める。」
そこで、思わぬ事を聞いた。




