43 騎士団見学
あと数日で学園に戻るという日に、騎士団見学が決まった。
「さて、今回はお稲荷さんとおにぎり!それから、唐揚げと玉子焼き、ほうれん草のバター炒めとポテトサラダ、後はデザートにチーズケーキ!」
今回は、行くことが決まってから、材料を用意する時間も、料理長の協力もあったので全て私が作る事にした。
料理長には、他の隊員への差し入れのおにぎりをお願いしている。
前日には、お稲荷さんの油揚げと、からあげの下味、おにぎりの具のそぼろを作っておいた。
「ふんふんふんふふふん♪」
鼻歌を歌いながら、作っていく。
お稲荷さんは、ロック料理長が知らなかったので油揚げを多めに煮ておいた。
そして、作り方を覚えてもらい、ジェイクと私以外の分を作ってもらうようにした。
私は、完成し、粗熱が取れたものからお重に詰めていく。
「よし!で〜きた!」
今日はジェイクが仕事の為、騎士団へはライラとノアと一緒に行く事になっており、ふたりのお弁当もロック料理長が作り、詰めてくれている。
「ロック料理長。差し入れと、お弁当をありがとう。助かるわ。」
「何をおっしゃいますか。これが私の仕事です。それに、また美味しいものが知れました。こちらこそ、感謝しています。」
「では後は、頼みます。」
「はい。行ってらっしゃいませ。」
私は沢山の荷物と共に、ライラと馬車へ乗り込み、ノアは御者席に座る。
「楽しみだわ。」
「エメラルド様の仕事姿はいつも見ているではないですか?」
「学園ではね。王城では初めてよ。訓練も見られるかもしれないし。」
「…訓練ですか。」
「そうよ。」
王城の門で身分証明と要件を言い、通してもらう。馬車から降りると、ひとりの騎士が立っていた。
「エメラルド隊長の元へご案内いたします!」
「よろしくお願いします。」
私は騎士の後ろを付いていき、さらにその後ろにライラとノアが付いてくる。
王城の中を通り再度外に出ると、運動場のようになっていた。
「ここへは初めてきたわ。」
騎士達が剣で打ち合っているのが見える。
「騎士団の訓練場です。本日はエメラルド隊長の班の騎士が、訓練を行っております。ここで少々お待ち下さい。」
そう言うと、騎士は私達から離れ打ち合っている騎士たちの元へ行く。すると、騎士たちの動きが止まり、騎士達の中からジェイクが出てきた。
他の騎士たちに何か指示を出してから、こちらに向かって歩いてくる。
「失礼致します。」
「ああ、案内ご苦労だった。」
ここまで案内してくれた騎士が王城の中へ戻っていった。
「リア、よく来たな。」
「ジェイク。」
汗だくのジェイクが、こちらを見て微笑む。私は、ハンカチを出し、その汗を拭う。
「すまない。ありがとう。」
「こちらへ来て良いのですか?私はここから見ていますから、訓練を続けてください。」
「大丈夫だ。少し休憩する。…それにしても、随分な荷物だな。」
ジェイクは私の後ろにいるライラとノアを見る。ふたりは差し入れと、お弁当を持ってくれていた。
「騎士様方へおにぎりを作ってきました。」
「そちらもリアが作ったのか?」
「いいえ。差し入れの方は料理長が作りました。」
「そうか。こちらにベンチがあるから座って見ていると良い。」
ジェイクがベンチまで連れて行ってくれる。
その時、グレイさんがこちらへ会釈するのが見えた。
「今日は、ジェイクとグレイさんのふたり共、こちらなのね。」
「ああ。リカルド殿下は部屋にいるし、王城の中だから他の護衛もいる。学園より少ない人数で回せるんだ。」
「そうなのですね。」
「他に何かあるか?」
「…ありますが、やめておきます。」
身体がウズウズするが、訓練これも仕事の一環なのだ。ジェイクを邪魔してはならない。
「後でな。」
頭をポンポンと軽く叩かれる。ジェイクには分かってしまったようだ。
「良いのですか?…訓練の後は疲れているでしょうし。」
「まかせろ。」
「…それでは、お言葉に甘えます。」
ジェイクはニッコリ笑うと、隊員へ向き直り叫ぶ。
「訓練再開するぞ。」
…「「「「「はい!」」」」」…
◇
「それでは、終わりにしょう。解散!」
はぁ、ジェイクが格好良かったぁ…。
躍動する筋肉も、指示を出す姿も何もかも!
「あ、ちょっと待てくれ。差し入れをもらった。誰か運んでくれ。」
「俺が行きますよ。」
ジェイクの声にグレイさんが手を挙げる。
そして、ふたりでこちらへ歩いてくる。
「オパール様、こんにちは。」
「こんにちは、グレイさん。ノア、差し入れを。」
「はい。」
ノアはグレイさんに大きなバスケットを2つ渡した。
「ありがとうございます。」
「こちらこそ、先日は迷惑をかけてしまったようですみません。」
「先日ですか?」
「囮作戦中です。」
「あー…。」
「今日一緒にご飯を、と言いたいところですが、ジェイクが拗ねそうなので、また今度お話を聞かせて下さい。」
「リア!?」
「ははは!良いですよ、ぜひ。…ライラさん達はお昼一緒にどうですか?」
グレイさんに、にこやかに誘われ、ライラとノアが顔を見合わせる。
その様子を見て、グレイさんが驚いた様に目を見開いた。
どうしたのかしら?
「グレイ。どうした?」
「いや、何でもない。ふたりともどうでしょう?」
「では、よろしくおねがいします。」
ライラとノアは、私達のお弁当を置いて、グレイさんとその場を離れていった。
「グレイさん。どうしたのでしょうか?」
「後で聞いておく。」
「はい。お弁当は何処で食べますか?」
「そうだな。天気もいいし、ここで食べよう。近くに水道があるから、手を洗ってくる。」
「その間に準備をしておきます。」
「頼む。」
私は、お重型のお弁当を開き、コップにお茶を注ぐ。
ジェイクが戻ってきた。
「美味そうだな。」
「今回は、ジェイクの物は全て私が作りました。お口に合うといいのですが。」
「頂こう。」
ジェイクがお稲荷さんに手を伸ばす。
「美味い。これは?」
「お稲荷さんです。」
「この皮が良い。」
「ふふっ。」
「こっちはどうだ?」
ジェイクは、どんどん口に入れ、お弁当が面白い程に無くなっていく。
「お茶のおかわり入れましょうか?」
「ああ。ありがとう。」
お茶を飲むジェイクの口の横にご飯粒がついている。
「ジェイク。付いてますよ。」
私はそれを取り、自分の口に入れた。
「デザートもありますよ。」
「あ、ああ。」
うん?どうかしたのかしら?
「これも美味い。」
「お口に合って良かったです。」
何事も無いように、会話が続く。
「ジェイクのこの後の仕事は何ですか?」
「休憩が終わったら、レオン殿下の所だ。」
「それなら、残りのチーズケーキを持っていってくれますか?一応、お兄様や、お父様の分も持ってきておいたのです。」
「そうなのか?」
「正確には、ジェイクへ作るに当たって、今回許可してくれたお礼も兼ねて、ジェイソンお父様にも差し入れをしようと思いました。でも、ジェイソンお父様だけでは、お父様が拗ねます。そして、お父様へあげると、お兄様が…という事で、仕事の合間に皆さんで摘めるように作ってきました。もちろん。2部署で食べられる様に、きちんと分けてきましたよ。」
「リア…。きちんと渡しておく。」
「手間を掛けさせてしまって、すみません。」
「良いんだ。さて、約束した腹ごなしでもするか?」
「はい!ありがとうございます。」
私はジェイクに手合わせしてもらう。
始めて少しすると、ジェイソンお父様がやって来た。
「重心がブレたぞ。」
途中にはアドバイスも貰った。
「ありがとうございました。」
手合わせが終わり、私はジェイクに向かって頭を下げる。
「親父、良いところに来た。これ、リアからの差し入れだ。午後は侯爵達と仕事だろう?」
「午後と言うか…。今日は、ずっと陛下の護衛だ。プルメリア、ありがとな。」
「こちらこそ。騎士団見学を許可してくださり、ありがとうございました。」
「気にするな。何時でも来い。じゃあな。」
ジェイソンお父様は手をふり、去っていった。
渋くて、格好いい!
見つめてていると、ジェイクに後ろから目を隠される。
「ジェイク?」
「…見なくていい。」
私はジェイクの手に自分の手を添え、ゆっくりはずさせる。
「言ってくださらないと分かりませんよ?」
大体予想はついているけれど…。
「…憧れていると知っているが、心がモヤモヤするんだ。」
「それは、ヤキモチですね。」
「ああ。」
「嬉しいです。」
「重くないか?」
「全然。」
私達は見つめ合い、顔が近づく…
駄目だ!此処は訓練場!
私は、ジェイクの顔を両手で挟む形で抑えた。
「ジェイク。此処では駄目です。」
「ゴホン。…そうだな。」
ふと視線を感じ、周りを見ると、騎士やライラ達が戻ってきていた。皆、そっぽを向いている。
いつから…?
「お前ら…。」
「差し入れのお礼を言いに来たのです。何も見ていません!」
ひとりの騎士が声を上げる。
「おにぎり美味しかったです。ありがとうございました!では!」
騎士達がサッと離れていき、ライラ、ノア、グレイさん、そして私達が残された。
「グレイ。いつからいた?」
「重心がブレたぞ、辺りかな。」
「…だいぶ前だな。」
ジェイクは片手で顔を隠す。
私は大きく息を吐いた。
「声をかけてくだされば良かったのに…。」
「お話し中だったので、終わるまで待っていましたが、話しかける雰囲気でなくなりました。」
ライラが私の言葉に答える。
「そう、そうね。ごめんなさい。…帰りましょうか。」
「畏まりました。」
「ジェイク。失礼します。」
「ああ。入口まで送る。」
「ありがとうございます。」
私は騎士団を後にした。




