42 王城
「プルメリア様、ジェイク様からお手紙が届いています。」
「ありがとう、メラン。」
メランは侍女の仕事もできるように、見習いという形で教育を受けている。既に知識は学んでいるので、確認する意味が強い様だ。動きに問題はないという。
そんなメランの首元には、ホースシューが揺れている。チェーンを買った日から、付けてくれていた。
他の皆の物も完成した。
取り外せるバレッタ付きのシニョンは、ライラの他に、ジューン、カルア、メイにも子供の時から今までのお礼として渡した。ライラがホースシューをつけている場所には、それぞれシルバーモチーフが縫われている。
ネーロは革紐で編まれているネックレスに仕上がり、ノアのピアスも数日で完成し届けてもらった。
私は、手紙に目を通し手土産の手配をする。
「後日、リカルド殿下へ顔見せに行きます。ロック料理長に言って焼き菓子を用意してもらって。」
「畏まりました。」
◇
数日後、私はリカルド殿下へ会いに王城へ行った。
行く時は、いつも通りジェイクが迎えに来てくれた。男性側が女性側を迎えに行くのが当たり前。待ち合わせのほうが楽だろうに、この世界はそうもいかないらしい。
私達は馬車を降り、リカルド殿下がいる部屋へ向かう。
「今日は、アメシスト嬢と婚約者殿も来るそうだ。」
「そうなんですか?クレマに会えるのが、楽しみです。」
その途中、宰相に呼び止められた。
「オパール嬢。陛下が話があるそうだ。一緒に来てくれないか。」
私とジェイクは顔を見合わせる。
「時間は掛からないと思う。ジェイク殿も一緒で構わない。」
陛下の呼び出しは断れない。
「「畏まりました。」」
連れられていったのは、執務室だった。
そこには陛下だけでなく、お父様と師匠もいた。
「リア?」
「ジェイク?」
お父様と、師匠は不思議そうな顔をしている。
「陛下、どういう事ですか?」
「お前達が、オパール嬢への礼を拒否していたから、王城に来たついでに寄ってもらったのだ。」
どういう事?
「陛下、目立つような事は、」
「だから宰相に、ここへ呼んできてもらったのだ。」
「公に慰労するよりは良いですが…」
「お父様?」
「陛下が、囮作戦の礼に褒賞を与えたいと仰ったのを、私達が止めていたのだよ。」
あー、そういう事…。
褒賞を貰ったら、私が攫われたことが公の事実となる。作戦とはいえ、一晩連れ去られていたのだ。不名誉な噂も立つだろう。
お父様達は、私を守ってくれていた。
「お父様、ありがとうございます。」
私はお父様に抱きついた。
「良いんだよ。家族を守るのは当たり前なんだから。」
お父様は、ポンポンと背中を優しく叩く。
私は顔をあげて師匠にもお礼を言う。
「師匠もありがとうございます。」
「もうすぐ、嫁に来るんだ。師匠はやめないか?俺もプルメリアと呼ぶから。」
「はい。ジェイソンお父様。」
ジェイソンお父様が笑う。
わぁ!ジェイクの笑い顔にそっくり。
私が見つめていると、陛下に声をかけられる。
「そろそろ話し始めてもいいか?」
「陛下。失礼いたしました。」
私は頭を深く下げた。
「顔を上げてくれ。ウェルク達に止められたので、褒賞という形は取らないことにするが、何か欲しい物や、願いはないか?」
「欲しい物や願いですか?」
「そうだ。ライアンの時も迷惑をかけたし、遠慮せず言いなさい。」
あー、そんな事もあったな。
でも…
「ございません。お気持ちだけで十分でございます。」
「何かあるだろう?金でもいいぞ?」
「いえ。今のままで満足しておりますので。」
「陛下、諦めてください。リアは、こう言ったら絶対受け取りませんよ。」
お父様の言葉に、陛下は頷く。
「分かった。それでは、ウェルクとジェイソンの臨時報酬に上乗せしておく。オパール嬢の為に使ってやってくれ。」
「「それなら、ありがたく。」」
お父様達は声を揃えて、すぐに返答した。
「お父様…。」
「リアに害がないなら、貰えるものは貰っておくよ。例のものを、それで支払っても良いしね。」
お父様がこちらに向かって、ウインクをする。
例のものとは、きっとジェイクへのサプライズの事を言っているのだろう。
もう!
ジェイクの前で、そんなに含みを込めたら…。
「例のもの?」
ほら!
ジェイクが不思議そうに聞いてきた。
「我が家の秘密だよ。そのうち分かる。」
私の代わりにお父様が答えた。
「そうですか。」
とりあえず、話はそれで終わり、私達は部屋を出てリカルド殿下の所へ行った。
通された部屋の中にはリカルド殿下、クレマ、バートンくんがいる。
「遅かったな。また何かあったのかと思った。」
「申し訳ございません。途中で陛下に呼ばれまして。」
「そうか。それなら仕方ないな。…オパール嬢、此度も巻き込み申し訳なかった。」
ジェイクと話していたリカルド殿下は、私の方へ向き直り頭を下げる。
「いえ、今回は巻き込まれたというより、巻き込まれに行った形ですから。」
「…本当に君は。エメラルド隊長が羨ましいよ。」
リカルド殿下が穏やかな笑みを浮かべる。
それを見たジェイクは、私の肩を抱いた。
「あげませんよ。」
「貰ったら、毎日怯えることになるから、こちらから遠慮する。」
「…褒められているのか、貶されているのか分からないのですが。」
私は複雑な気持ちになった。
「殿下!私も話してもよろしいかしら?」
そこで、我慢ができなくなったのであろうクレマが、口を開いた。
「そうだったな。アメシスト嬢も言いたいことがあったのだったな。」
「はい。失礼します。…プルメリア!危険に自ら飛び込むなどおバカじゃないの!?」
「クレマ…。」
「囮としても、やりすぎよ!本当に捕まって、どうするの!何かあってからでは遅いのよ!」
心配してくれるクレマに嬉しくなる。
「何を笑っているのよ!もう!」
「ごめんなさい。心配してくれてありがとう。」
「今度から、危ない事に関わらないでよね。」
守れない、約束はできない。
クレマの言葉に微笑みで返す。
「…分かっているわよ。」
息を吐いて肩を落としたクレマは、バートンくんに背中を撫でられ、慰められている。
私は手土産をリカルド殿下へ渡した。
「これは、我が家の料理長が作りました。お茶請けにでもどうぞ。」
「ありがとう。お茶を入れさせるよ。」
「プルメリアの所のお菓子は、とても美味しいのですよ。」
復活したクレマが、何故か得意気に話す。
「そうなのか。楽しみだな。」
そして、お茶の時間が始まった。
「隊長とオパール嬢が並んでいるのは、いつ以来だろうな。」
「学園ではほとんど見ませんものね。」
「そうでしょうか。」
「そうよ。だから、破棄の噂も皆が信じたのよ。」
「でも、クレマ達は信じていなかったでしょう
?」
「そりゃそうよ。プルメリアがいる時と、いない時の隊長の空気が全然違うのだもの。」
「空気?」
「そうよ。いない時のはいつも以上にピリピリしてたのよ。」
「ああ、私は居心地が悪かった。」
「プルメリアが来た途端、空気が和らぐの。」
私がジェイクを見ると、顔を片手で隠し項垂れた。
「…それは、無意識だ。」
「他にもあるぞ。なぁ、副隊長。」
リカルド殿下は、今日の護衛担当であるグレイさんに話を振った。
「はい!それはもう、」
「グレイ!」
ジェイクは焦った様に名前をよぶ。
お兄様達が話していた以上に、何かあるのかしら?…知りたい。
ジッと、ジェイクを見つめる。
「リア、そんな目で見るな…。」
…どんな目でしょうか?
分からず、コテンと頭を倒す。
「…可愛い。」
ジェイクが、ボソッと言った。
「もう…。」
私の顔が熱くなる。
そんな私達を見て、他のメンバーは呆れている様だった。
その後は談笑し、卒業後の話になった。
クレマは花嫁修業を1~2年。バートンくんが卒業し、仕事が落ち着いてから結婚するそうだ。
「殿下は卒業したら、どうなさるか決めているのですか?」
「私は1度、国に戻るよ。兄さんのサポートをする準備を始める。」
「サポートですか?」
「ああ。せっかくの留学経験だ。活かせる所で活かしたい。」
「そうですか。殿下なら良いサポート役になれますよ。」
卒業後も会える機会があればいいな。
私とクレマの目が合った。
私もクレマも声には出さないが、思っている事は同じだと思う。
「また、こうして話しましょうね。」
「ええ。」
「ああ。」
クレマの言葉に、私だけでなくリカルド殿下も頷いた。
帰りの馬車の中…
「良い友を持ったな。」
「はい。ジェイクも。」
「ああ。」
私は、幸せな気持ちで帰った。




