39 帰宅
次の日
私が起きて準備が終わった頃には、師匠と騎士達は出発した後だった。
私とジェイクは、朝ごはんを食べてから出発した。
馬車の中では、お馴染みになりつつある膝抱っこ。
「リア、疲れないか?」
「大丈夫です。ジェイクこそ、私が膝にいて疲れませんか?」
「疲れないな。逆に、癒やされて疲れが飛ぶ。」
「そうですか。それなら良いのですが…。」
私達は窓を見ながら、他愛もない事を話していた。その中で、あの合図の話も出た。
「以前決めた合図を変えないか?」
「作戦も終わりましたし、あの合図は必要なくなりますよ?」
「そうなのだが、案外楽しくてな。残りの学園生活でも使えるように改良したい。」
「もしかして、『愛してる』ですか?」
「その通りだ。仕事中に、肘は触りづらい。」
「やはり、そうでしたか。」
「リアの動作は変えずに俺だけでも…。俺も『愛してる』を伝えたい。」
シュンとする、ジェイク。
もう!こういう所が可愛いのよ!
「では、太腿を叩く事を、親指と人差し指に分けるのはどうですか?」
「それなら、姿勢を崩さずできるな。…親指が『愛してる』で、人差し指が『可愛い·美しい』でどうだ?いや、逆が良いか?」
ジェイクは考えこむ。
そこは、どちらでも良いと思う…。
「やはり、親指が『愛してる』にする。」
「その合図が見れるのを楽しみにしていますね。」
「ああ。」
そうこうしている内に、馬車が我が家へ着いた。
家の前には、お父様以外の家族と使用人たちが並んでいる。
馬車のドアが開く前に、私はジェイクの膝を降りて、隣りに座った。
ジェイクは先に馬車を降り、私のエスコートをしてくれる。
お母様とお姉様は泣き、お兄様はお姉様の肩を静かに抱いている。
私も、私の立場が自分の子供だったら、心配で、心配で仕方なかったと思う。
しかし、私はそこまで危険だと感じていなかったし、今思えば、むしろ緊張感を楽しんでもいた。
前にもこんな事があったような…。
なんか、申し訳ない。
「リア、ご苦労様。無事で良かったよ。父上も心配していて、出迎えたいと言っていたが、王城に引き摺られて行った。」
「そうですか…。」
ロバートに連れられていくお父様の光景が目に浮かぶ。
私とジェイクは、お兄様に促され家へ入る。
お母様とお姉様は化粧直しの為、一旦自室へ。
お兄様、ジェイク、私で応接室のテーブルを囲んだ。
「どんな状況だったかは、父上が帰ってから聞くとして…。本当に何事もなくて良かったよ。」
「心配お掛けしました。」
「ジェイクも落ち着いていて良かった…。」
お兄様の言葉に、私はチラリとジェイクを見た。
ジェイクはバツが悪いのだろう。明後日の方向を見ている。
聞くなら、今かしら?
「師匠もおっしゃっていましたが、仕事に支障が出ていたのですか?」
「聞いていないのかい?」
「ええ。聞くタイミングが分からず…。それに学園でリカルド殿下についていた時は、いつも通りだと感じていたので、驚きました。」
お兄様もチラリとジェイクを見る。
「あー、自分では言えないか。…仕事はきちんとしていたみたいだよ。仕事はね。」
「仕事は?」
「仕事の合間に、険しい顔で鬼訓練。自分も隊員も変わらずね。口数もいつもより少ないし、近づける雰囲気ではなかったそうだよ。」
「鬼…ですか?」
ジェイクをジッと見ると、ジェイクもこちらを見る。そして、小さい声で話し始めた。
「…囮になるリアの事を考えたら、何もしないではいられなかった。それなら隊の力を強化しようと…。」
「グレイさんがフォローに回っていたという話が理解できました。」
「…すまないと思っている。」
「私に言うことではありませんね。」
「その通りだ…。」
その光景を見て、お兄様は決めたようだ。
「リア、これからジェイクへのクレームはよろしく!ジェイク、昼過ぎですが軽食でもどうですか?」
「…頂く。」
ジェイクは複雑そうな顔をしている。
「ふふふっ。」
それを見て、思わず笑ってしまった。
お母様とお姉様は化粧直しが終わり、応接室にやって来た。
軽食を頂くということで、食堂よりもバルコニーが良いのではないか、と言うことになり移動する。
私達は軽食を食べながら、明日からの事も話す。
「とりあえず、学園へはまだ戻らなくて良いよ。学園長が捕まったことで、大半の生徒が一旦家へ帰るようだし、リカルド殿下も王城で過ごす事になっているからね。」
「分かりました。」
お兄様の説明に頷く。
「ジェイクは明日は王城に。グレイ副隊長に休みをやってください。」
「分かっている。」
「今日は、泊まっていきますか?」
「いや。親父からも話が聞きたいし、帰る。」
「了解です。」
食後のお茶を飲み、ジェイクは帰る準備を始めた。
「リア、見送ってあげなさい。私達はここで失礼するわね。また、いらっしゃい。」
お母様はジェイクに挨拶をして自室に戻る。
「また明日、王城で。」
お兄様とお姉様も同様だ。
「気を使わせたな。」
「そうですね。…お見送りします。」
「ありがとう。」
私達は玄関に向かう。
「リア、またすぐに会いにくる。」
「お待ちしてます。あ、私からも会いに行きますね。」
「…それなら、騎士団に見学に来るか?」
「良いのですか?」
「俺の隊なら問題ないと思う。親父には言っておく。ドレスの事含め、日にちは後で連絡する。」
「はい。どちらも楽しみです。」
学園に戻るまでの楽しみができたわ。
玄関を出て、馬車の前まで行き、見送る。
「リア。」
ジェイクは私の名前を呼び、太腿を親指で2回叩く。それを見て、私は肘を触った。
「またな。」
ジェイクはにっこり笑い、馬車に乗り帰って行った。私は馬車が見えなくなるまで、見送った。
「ライラ、中へ入りましょうか。」
「畏まりました。」
「…言うのが遅くなったけれど、着けてくれているのね。ありがとう。」
ライラの髪にホースシューが揺れている。
朝から気付いていたが、言うタイミングが無かったのだ。
「髪飾りに致しました。」
「うん。可愛い。」
「あ、ありがとうございます。」
ライラの頬が、薄く赤らんだ。
その時、ノアが現れた。
「プルメリア様。馬蹄の事で許可を得たい事があります。」
「改まって、何かしら?」
言いにくいのか、間が開く。
「…ピアスにする為、バチカン部分を削りたいのです。頂いた物を削るなど、」
「良いわよ。」
私は、ノアの話に被せて答えた。
あげた時に、自分でアレンジしてと言ったし、許可は要らないのに、律儀ね。
「そうだ!せっかくだから、4人とも回収して希望の物に加工しましょう!」
「え!?いえ!そこまでして頂こうと思って、許可をとりにきたのではありません。」
「そうですよ、プルメリア様。きっと私が褒められていたので、居ても立っても居られなくなっただけかと。」
「ライラの言う通りでございます。」
私の提案に焦るノアとライラ。
普段見せない姿に笑ってしまう。
「ふふふっ。さて、回収、回収!はい!」
私はふたりの前に手を出す。
首を振るノアとライラ。
「はい!」
さらに、前へ出る私。
「「…あとでお持ちします。」」
ふたりの声が揃う。
「ふふっ、あははは!取り敢えず、部屋へ戻りましょう。ノアは、ネーロとメランも呼んできてね。」
「…畏まりました。」
私とライラが部屋へ着くと、すぐに他の3人もやって来た。メランはスライディング土下座をする。
「この度は、うちの弟が申し訳ございません!」
びっくりした!
土下座するほどの事!?
というか、何を謝っているのかしら…。
私が不思議そうな顔をしていると、メランも不思議そうに首を横へ倒した。
「頂いた馬蹄を没収されるのでは?」
「…なぜそんな話になったの?」
「え?」
「ん?」
事の流れを話して、誤解は解けた様だ。
「申し訳ございませんでした…。」
メランは小さくなっている。
「皆が使い易いものが何か分からなかったから、ペンダントトップにしたのだけれど、使うイメージがついたなら、こちらで加工しても良いと思ったの。せっかくなら、使える状態にして渡したいもの。ノアはピアスで、ライラは髪飾りね。ライラはリボンに通しているけれど、そのままの方が使いやすい?」
「いえ、そういう事ではなく、早く使いたくて通しただけです。」
「それなら、シニョンキャップはどうかしら?」
「確かに、仕事中は使いますが…。」
「が?」
「…せっかく頂いたので、普段も使える物が良いです。」
「なるほどね。…うん、分かった。」
良いこと思いついた!
ふふふっ。
「ライラ、仕立屋を呼んでおいてくれる?今回はドレスでは無いけれど、相談があると言っておいてね。」
「畏まりました。」
「ネーロは何にアレンジする予定だったの?」
「ノアの言っていたピアスも捨てがたいですが、穴も開けていませんし、無難にネックレスにしようと思っていました。」
「メランは?」
「私もネックレスです。」
「髪飾りとかは使わないかしら?」
「すみません。あまり付けません。」
「そうなのね。…それでは、加工が必要ないなら、通すチェーンをプレゼントするわね。チェーンでアレンジも変えられるし、ネーロも一緒にね。」
「「え?プルメリア様、そこまでは、」」
「嫌?」
私はジッとふたりを見た。
「「…よろしくお願い致します。」」
少し間があいてから答えが返ってきた。
◇
そして夕方、お父様が帰ってきた。
家族皆で出迎える。
「リア、無事で良かった。」
帰ってすぐにお父様は私を抱きしめた。
「お父様、おかえりなさい。」
「ああ、ただいま。大変なことを頼んでごめんよ、怖い思いはしなかったかい?」
「はい。大丈夫ですよ。」
「ウェルク様、おかえりなさい。玄関ではなく、奥で話したらいかがですか?」
私とお父様がそのまま話をしていると、微笑んだお母様に声をかけられる。
私達は、談話室へ移動した。そこには、お茶の用意がされており、各々ソファや椅子に座る。
「父上、思ったよりも早い帰りでしたね。」
「学園長のおかげで聴取が早く終わったからね。」
「それでどうでした?」
「大まかに話す。まず黒幕はマクノー公爵。自分の孫を王に据えたいようだ。キモーズ侯爵は取り巻きだな。学園長は、母親が分家の出だった為に協力をせざるを得なかったらしい。以前リカルド殿下が狙われた事件も、国に返すために画策された事だった。」
「危険だから、帰ってこいと?」
「そうだ。」
腑に落ちない点が1つ…。
「学園長のような方がそれだけで、手を貸しますか?」
「…娘さんが隣国に嫁いでいる。」
「!」
人質か。
「その事に関しては既に動いているから、心配しなくていいよ。」
「はい…。隣国の後継者問題はまだ続きそうですか?」
私のその問いには、お兄様が答えてくれる。
「もうそんなに時間がかからず、発表されると思うよ。第2王子が第1王子の暗殺失敗して、幽閉されたから。」
「そうですか…。リカルド殿下と学園はどうなるのでしょうか?」
「リカルド殿下は留学中で、今までと変わらないよ。卒業式後は本人が決める事だしね。」
「学園は新しい学園長が決まるまで、副長が代理になるから、1ヶ月程で落ち着くと思う。」
「では、1ヶ月を目安に学園へ戻れば良いですか?」
「ああ、そうしなさい。」
「父上、マクノー公爵は?」
「物的証拠はない。キモーズ侯爵が派閥にいたというだけで追及するのは、無理だろうな。しかし、当分は静かになると思う。」
「それなら良いのですが…。」
「私達もリアと話したいのだけれど、もう大丈夫かしら?」
少し離れて座っていたお母様とお姉様がこちらに声をかける。
「気を使わせたね。すまない。」
「良いのよ。」
その後はお母様、お姉様も一緒に、談笑し過ごした。




