38 お守り
来たときと同じように、途中で暗くなって来たため、一泊する事になった。
今回は野宿ではなく、途中の村の宿だ。
宿には既にノアとメラン、それからネーロとライラがいた。
「貴方達…。」
「プルメリア様。ご無事で何よりでございます。」
ライラの目には涙が溜まっている。
「ジェイク、降ろしてくれる?」
「しょうがないな。」
まだ、お姫様抱っこをしていた私を、今度は拒否せずおろしてくれた。
私はライラ達へ近づく。
「ライラ、私は大丈夫よ。予定通りではなかったけれど、作戦も上手くいったと言っていいと思うわ。」
「作戦と分かってはいても、心配は変わりません。」
「…ありがとう。」
「旦那様より、こちらを預かってまいりました。」
私は、ライラから手紙を受け取る。
「中に入ってから、読みます。ジェイク、一緒にお願いします。」
「もちろんだ。」
「ライラ、お茶をよろしくね。ノア、ネーロ、メランも行くわよ。」
「「「「はい。」」」」
部屋へ入ると、昨日街で買ったお土産がテーブルの上に置かれていた。
「ライラ。買ったお土産を持ってきてくれたの?」
「はい。」
「リア、作戦中に土産を買っていたのか?」
「ええ。上手くいくか分からなかったので、とりあえず楽しもうと…。」
「リアらしいな。」
「チョコレートを買ったので、一緒に食べましょう。ほろ苦い味で甘すぎないそうです。」
「それでは頂こうかな。」
「皆には、これを1つずつ。」
私は小箱をノア、ネーロ、メラン、ライラへ渡していく。
「ライラは一緒に買いに行ったのだし、開けてしまっても良かったのに。」
「いえ、皆と一緒に頂きたかったのです。」
ライラは、すぐにエプロンのポケットにしまった。
「そうなのね。さて、私はこちらを開けましょう。」
私は手紙を開けて、中身に目を通す。
内容は、
この宿を今回の関係者の為に、貸し切りにしている事。
学園ではなく、家へ戻る事。
そして、『無事で良かった。協力ありがとう。』と締め括られていた。
それを、ジェイクにも見せる。
「了解した。オパール家へ送ろう。」
「よろしくお願いします。さあ、お茶を頂きましょう。」
手紙を読んでいる間に、ライラがお茶やチョコレートを用意してくれていた。
「これは…」
「どうですか?以前無かった自由にブレンドができるお茶屋さんが、出ていたので買ってみたのですが…。」
「スッキリする味だな。好みだ。」
「良かった。」
「リアがブレンドしたのか?」
「店主にアドバイスを受けながらですよ。もし良かったら、持って帰りますか?」
「良いのか?」
「もちろんです。ライラ。…ん?」
ジェイクに渡すお茶の葉の用意をしてもらおうとライラへ声をかけると、別の3人へ視線が止まった。
「3人とも何をしているの?」
影の3人が小箱を持ったまま、身動きしていなかった。
「プルメリア様からのお土産をどうしたらいいか分からないのかと思われます。」
ライラは、お茶の葉の用意をしながら、3人の状況を話してくれた。
「3人とも、仕舞うなり開けるなりしてちょうだい。」
「…良いのでしょうか。」
ノアがこちらを見ながら、私に確認を取る。
「そうではなかったら、渡さないわよ。高い物でもないし、気にいってもらえるか分からないけどね。」
「「「気に入らない筈ございません!」」」
「そ、そう?」
圧がすごいわね…。
「3人ともせっかくだから、開けたらどうだ?俺だったら、すぐに開けるぞ。」
そのジェイクの言葉に顔を見合わせてから、小箱に視線を落とす。
「あ!お礼も言っていませんでした。申し訳ございません。」
「「申し訳ございません。」」
メランが焦った様に、謝る。それにノアとネーロも続いた。
「良いのよ。さぁ、開けてみて。」
3人はゆっくりと小箱を開けた。
中にはシルバーで作られた馬蹄型の小さなペンダントトップが入っている。
「この辺では珍しいけれど、お守りよ。他国から来ていた商人が店を出していたの。」
「お守りですか?」
「馬蹄は馬の蹄を保護するための物でしょ?守る役割の道具だから、お守りになると言われているの。開いている方を上に持つと幸せをためる、山型で持つと不運を落とす、という意味があるのよ。」
「そんな意味があるんだな。」
「ええ。ライラ含め4人には危険な事もして貰うだろうし、矛盾しているけれど結婚後もお世話になるし、無事に戻って欲しいという願いを込めてね。」
「「「プルメリア様…。」」」
3人はこちらをじっと見て、目が涙で濡れている。ライラは、買い物中に既に泣いていた。
「あっ。ネックレスとか、ブレスレットとか、武器飾りとか、その辺りは自分でアレンジしてね。…それと、もう休憩に入って大丈夫よ。」
「「「はい。ありがとうございます!」」」
小箱を大事そうに抱えて、部屋から出ていった。ライラもお茶の用意が終わり、部屋を出た。
「皆、喜んでいたな。」
「それなら良いのですが…。」
「ん?何かあるのか?」
私は心に引っ掛かっていた事を、ジェイクに話す。
「先程も言いましたが、矛盾しているな、と…。私を守る為に傷を負うのに…。皆には幸せを貯めると言うより、不運を落とすという意味を込めましたが、本当なら安全な仕事を見つけたり、私から解放してあげた方が幸せなのではないかと思うのです。」
「うーん。それは違うと思うぞ?彼らはリアを守りたいからここにいる。それに、オパール家を辞めても、他の護衛の仕事に付くだけだろう。」
「そうでしょうか…。」
「そうだ。違う仕事に踏み切るのには、勇気も覚悟もいる。今までの経験が使えなくなるからな。…俺は、無理だな。この仕事しか出来そうにない。」
「騎士をしているジェイクは格好いいと思います。」
「うん。ありがとう。ま、将来的に希望した時に、手助けをしてやればいいのではないか?」
「はい。そうします。」
…ジェイクに話してみて良かった。
話を聞いてもらうだけでも、心は楽になる。こういう話ができる人がいるというのは、幸せな事だ。
「さて、リア。」
ジェイクは私の名前を呼び、自分の膝をポンポンと叩いた。
膝の上…。
「私、先程までそこに居たような気がします。」
「そうだな。」
ジェイクはにっこり微笑み、また膝をポンポンと叩いた。
…負けた。
「…失礼します。」
「ああ。」
私はジェイクの膝の上に座り、身体を預ける。
ジェイクは満足そうに、私の髪に指を通したり、髪先を指に巻いたりしている。
「事件の区切りが付いた。近い内に、結婚式のドレスの相談に行こうな。希望はあるか?」
「希望ですか?」
私は、顎に手をやり考える。
この世界は結婚式にどんなドレスを着てもいいのだが…
「やはり、白色でしょうか。」
「やはり?」
「前の世界で、白のドレスは定番でした。花嫁の純真や純潔を表し、『相手の家風に染まります』という意味があると聞いたことがあります。」
「それ良いな。よし、白にしよう。」
「ジェイク様にもらった宝飾セットも着けたいです。」
「舞踏会のか?」
「はい。」
「新しい物を用意しようと思っていた。」
「駄目ですか?」
「駄目ではないが、1度着けた物だぞ?一生に一度なのに良いのか?」
「あのネックレスが良いのです!」
私は、強めに言った。
「そこまで気に入ってくれたとは、贈ったかいがあるな。」
「とても、気に入っています。」
久しぶりのジェイクとの、のんびりした時間。
はぁ、幸せだわ…。
「食事はここで食べませんか?」
「そうだな。」
「宿主に可能か聞いてきます。」
「いや、俺が行ってくる。」
ジェイクは私を膝から降ろして、部屋から出ていった。…が、すぐに戻ってきた。
「ジェイク?」
「ライラ嬢が待機していて、既に料理の手配もしたとの事だ。」
「ライラが?」
「ああ、出来次第運んできてくれるそうだ。…リアが彼女達を大切にする意味が分かるな。」
「?」
「いや、リアが大切にするから、周りはリアの為に頑張るのだろうな。」
「ライラ達は、元から仕事ができますよ。」
「うん。まぁ、それはそうだな。」
そして、食事が運ばれてきた。
ライラが給仕をしてくれ、今後の話をしながら食事を摂った。
その間に宿が騒がしくなり、他の騎士もやって来たのが分かる。
「プルメリア様。エメラルド騎士団長が、到着しました。」
ノアが知らせに来る。
「分かったわ。ありがとう。」
私とジェイクは残った食事を済まし、師匠の元へ向かった。
この宿は1階が食堂、2階が部屋になっている。2階から降りると、たくさんの騎士と師匠が食堂で食事しているのが見えた。
「落ち着いたようだな。」
師匠もこちらに気づき、ジェイクに向って声をかける。
「ああ。迷惑かけた。」
「いや。それを言うなら、お前の部下たちだな。フォローに回っていたグレイには、お礼をしておけよ。」
「…分かっている。」
荒れていたとは聞いたけど、仕事に影響が出る程だったの!?
「プルメリアもご苦労だった。戻ったら改めて話があると思う。本当に助かった。」
「はい。勿体ないお言葉です。」
聞くに、聞けない…。
「騎士達は、ここで寝る。プルメリアは安心して休め。」
「え?しかし…」
騎士達の方が疲れているのに、私だけベッドで心地よく寝ると言うのは…。
「ジェイクが、他の騎士とプルメリアが同じ階で寝るのを許さんだろう。」
「当たり前だ。」
「それに、部屋が足りんから喧嘩になる。」
「そうなのですか?」
「ああ。」
「リア、俺もこちらで寝る。何かあったらすぐに呼べ。」
「お前は別に、2階でいいだろう。」
「いや、そうはいかない。」
「堅いな…。」
師匠は呆れているようだ。
「リア、疲れているだろう?明日も早いし、そろそろ休もう。」
何かをしていた訳ではないけれど、確かに疲れはある。
これは、きっと緊張から来る精神的な疲れね…。
「分かりました。それではジェイク、おやすみなさい。師匠、お疲れ様でございました。皆様も、ゆっくり休んで下さいませ。」
私は皆へ向かって礼をしてから、2階に上がる。
部屋ではライラが身体を拭く準備をしてくれていた。
「ライラ、ありがとう。さっぱりしたかったの!」
私は身体を拭き、ライラが家から持ってきてくれた部屋着に着替える。
ベッドに入ると、あっという間に寝てしまった。
---影side---
俺が食事を取り部屋に戻る途中、プルメリア様の部屋からライラが出てきた。
「プルメリア様はお休みになったのか?」
「ええ。お疲れになったのね。すぐに眠られたわ。」
「そうか。いつも通りにしていたが、緊張していたのだろうな。」
夜は俺達、影が順に番をする事になっている。
今の時間の担当は姉上だ。
俺とライラは話しながら割り当てられた部屋まで歩く。
「まさか、我々にまで土産があるとは。」
「付いていて、気付かなかったの?」
「話が聞ける範囲には、いなかったからな。」
「貴方はどうするの?」
「今度の休みにでも、ピアスに加工してもらおうと思う。」
部屋の前へ着くと、隣の部屋からネーロが顔を出した。
「ノア、来たな。ライラも。」
「何?」
「いやぁ。ふたりは、あれ何にするのか気になって。俺、迷っちゃってさぁ。」
「とりあえず中で話そう。」
「おう。入ってくれ。」
俺とライラはネーロの部屋へ入った。
「座ってよ。」
ネーロはベッドへ座り、俺達に椅子を勧める。
「で、さあ。俺、プルメリア様からのお土産すごく嬉しくて。あ、この間の食事も嬉しかったけど、今回はもっと特別に嬉しくて!いつも身に着けたいんだけど、武器飾りにすると、敵の血で汚れるし、ブレスレット·アンクレットは戦闘の時、邪魔になる。無難にネックレスか…、他にあるかな?」
「俺はピアスに加工するつもりだ。」
「ピアスか!その手があった!」
「お前、穴は開けてたか?」
「…開けてない。ライラはどうするの?」
「髪飾りにしようかと思います。目に見える位置に付けて、『私はプルメリア様の侍女』だと皆に自慢したいの。」
「「分かる。」」
俺とネーロも頷く。
何せ俺がピアスにしようと思ったのも、戦闘に邪魔にならないのはもちろん、皆に見てもらえるからだ。
俺も、『プルメリア様の影、大切にされている、必要とされている』誰にとは無いが、そう伝えたい。
結局、そこでネーロの答えは出ないまま、俺とライラは自室に行き、休んだ。




