37 解決
学園長はこちらをチラリと見るが、私の事は無視し、おじさんに詰め寄る。
「何故、動いた?今は動くべきでは無いと伝えたはずだ!」
「なぜこの機会を逃す?学園も自宅も手が出せん。今日しかないだろうが。」
「もっと考えろ!舞踏会の事もそうだ!目立つ所で犯行を犯した挙げ句、捕まるとは。」
「彼奴等は使えなかったな。今回の奴等は使えそうだぞ?何せ、プルメリア·オパールを連れてきたからな。」
「それが問題なのだ!よりにもよって、彼女を連れてくるとは!」
どういう意味かしら?
「しかし、もうひとりは婚約者がいるが、此奴は婚約破棄され、殿下へ近づいているではないか。殿下も満更ではなさそうだし。一番良い判断だ。」
「良いわけあるか!」
学園長は協力者なの?ちがうの?
…あ!そういえば、学園長のお母様って隣国の生まれだったわね。
「学園長。そろそろお話ししてもよろしいですか?」
「オパール様、お送り致します。帰りましょう。」
「…はい?」
「おい!何を言っている!」
おじさんは激高するが、学園長は気にしていない様だ。
「せめて、事情を話してくれませんか?」
「こいつも一緒に連れて行って、全てお話しします。」
学園長はおじさんの首根っこを捕まえて、椅子から引きずり下ろした。
「そ、そうですか?」
私は呆気にとられたが、黒尽くめのひとりが学園長の手をおじさんから引き剥がした。
そして、おじさんを守る様に取り囲む。
そちらが雇い主なのね。
でもなんか、小物すぎない?
さて、どうするか…。
私はダメ元で、小声で学園長に聞いてみた。
「彼が黒幕?」
「…いいえ。」
学園長も小声で答えた。
やはり、隣国に入るしかないかしら。
…というか、入れるの?
「何をしている!その女も連れていくぞ!」
私は反抗せず、黒尽くめに大人しく捕まる。
「オパール様!?」
学園長は、私がすんなり捕まったことに驚いている。
「キモーズ、オパール様を置いていけ!」
「怖気づきやがって、この事はマクノー公爵にも報告するからな!」
あ、この人バカだ…。
学園長も溜息をついている。
マクノー公爵とは隣国の第2妃の父親。つまりはリカルド殿下の祖父に当たる。
これ以上はやめた方が良さそうね…。
「私、やっぱり帰ることにします。」
「はっ!今更何を言っているんだ。この状態でどうやって、」
私は黒尽くめのひとりに回し蹴りをする。
残り3人。
キモーズさんとやらは、顎が外れたのではないかという位、口を開けている。
そこへ、ノアも登場。
黒尽くめの後ろから手刀で攻撃し、ひとりを失神させた。
はい、残り2人。
さっきは不意打ちで何とかなったけど、どうかしら。
ここへ来る途中1番話した黒尽くめは、おじさんを守り、側にいる。
もうひとりがこちらに向かって来たので、ノアと交戦。
私は、にっこり微笑み、おじさんたちを見る。
「だ、誰か助けに来い!いるだろ!」
おじさんは大声で助けを呼んだ。
他にも待機している護衛がいる様だ。
「すぐに助けが来る。そしたら、そっちの女は覚悟しろ!殿下の妾だろうと、何でもいいわ!めちゃくちゃにしてやるからな!」
いや、良くないだろう。
それがここにいる皆の心の声だった。
ドンッ!!
その時、大きな音を出してドアが壊れた。
「殺す!」
般若の様な顔をしたジェイクが、壊れたドアの向こうに見える。
ジェイクから放たれる殺気だけで、おじさんと学園長は震えている。
そして、黒尽くめの緊張も高まったのが分かる。
それに合わせて、騎士達もやって来て一気に方が付いた。というか、戦う気が失せたのだろう。大人しく捕まっていた。
それでも、ジェイクは気が済まなかった様だ。おじさんに蹴りを入れて、騎士達に止められている。
「ジェイク。」
私が穏やかに名を呼ぶと、嘘のように殺気が消え、動きが止まる。
ゆっくりこちらを見た。
私は何も言わず、手を広げる。
ジェイクはこちらへ駆けて来て、私を抱きしめてくれた。
「怪我はないか?」
「全く。」
「恐かったか?」
「いいえ。皆を信じていましたもの。」
まさか、ジェイクまでこちらに来るとは思わなかったが、馬車の家紋が分かってすぐにネーロが報告し、お父様たちは目ぼしい場所を探していただろうから、早いうちに誰かしらは来てくれると思っていた。
「皆か…。」
「?」
「婚約は破棄したのではなかったのか!?」
ジェイクに蹴られて蹲っていたおじさんが、声を上げる。私とジェイクは身体を離し、おじさんを見る。
「破棄になっていませんよ?噂をそのまま鵜呑みにしてはいけません。」
「くそっ!」
おじさんは騎士達に連れられていった。学園長もそれに続く。
ふたりを連れて行った騎士と入れ替わりで、メランがやって来た。
「プルメリア様!ご無事ですか?」
「ええ。メランがここを教えに走ってくれたのでしょう?ナイスタイミングだったわ。ありがとう。」
「有難きお言葉…。」
メランが目に涙をためている。
心配かけたのね…。
昨夜からメランの気配が消えていたが、向かう方向が定まり、お父様へ報告の為戻ったのだろうと思っていた。
それは、当たっていたようだ。
「ノアもありがとう。助かったわ。」
「見ていて、ヒヤヒヤ致しました。何もなく良かったです。」
私とノア、メランが話をしていると、ジェイクが私の顔をクルッと自分の方に向けさせた。
「俺を見てくれ。」
「ジェイク?」
「もう、婚約破棄したように見せなくて良いんだよな?」
「そうですね。黒幕も分かりましたし、後はお父様たち上層部の仕事でしょうし…。」
「では行こうか。」
ジェイクは、いつかのように私をお姫様抱っこした。周りにはノア、メランの他に騎士たちもいる。
「ジェイク!?今回は怪我もしていません!自分で歩けます!」
「駄目だ。」
それ以上は聞く耳持たず、玄関まで歩いていく。騎士達はこちらを見て、温かい視線を送っている。
ハグよりもお姫様抱っこの方が、恥ずかしいと思うのは私だけなのだろうか…。
途中には、倒れた人たちも見えた。おじさんの言っていた『誰か』に違いない。
ジェイクは師匠の所へ行き、声をかけた。
「親父。」
今回の作戦指揮権は、騎士団長の師匠にある。
やっぱり、来てたんだ。
本部で座って指揮するタイプではないものね。
「あー、うん。帰っていいぞ。」
なんか微妙な反応?
「プルメリア。気が済むまで付き合ってやってくれ。」
「?」
「ここの所、荒れていたんだ。今日だって急に飛び出すし…。」
そういうことか…。
「余計なことは言うな。」
「ったく。生意気になったもんだ。」
ジェイクが外に出ると、エメラルド家の馬車が止まっており、御者に「ゆっくり進め」と指示を出して、乗り込んだ。
ノアとメランは頭を下げ、見送りの姿勢を取る。ふたりとは、ここで一旦お別れのようだ。
「馬車も準備して下さったんですね。」
「リアを連れ帰る時に必要だから付いてこさせた。」
「わざわざありがとうございます。」
馬を追って馬車を走らせるのは、大変だったろうに…。
後で御者にもお礼を言いましょう。
「出せ。」
ジェイクは御者側の小窓を叩き、指示を出す。
私は、まだジェイクの膝の上だ。
さっきは皆の前で恥ずかしかったけれど、今はジェイクから離れたくないと思ってしまう。
今回、恐怖を感じた訳でも無い。
でも、なんか…。
私は腕に力が入る。
「ん?どうした?」
ジェイクはそれに気づき、穏やかな声をかけてくれる。
「…もっと、くっつきたくなっただけです。」
「そ、そうか。いくらでもくっつけ。」
「はい。そうさせてもらいます。」
私は腕の力を強めて、ジェイクの首元に顔を埋めた。
ジェイクは、ゆっくり私の背中を撫でている。
私は、無性に首元に吸い付きたくなった。
…駄目かな?怒られるかな?
ジェイクは、どんな反応をするんだろう。
好奇心も出て来たので、実行してみた。
ちゅう。
「!!!」
ジェイクは吸われた首を抑え、バッと身体を離した。
「リア!?」
目を見開いている。
可愛い…。
「もう一回。」
「だ、駄目だ!」
「どうして?」
首をコテンと横へ倒す。
「分かってやっているだろう…。」
「…」
分かってないとは、言わない。
「リア、お返しだ。」
ジェイクは私を引き寄せ、首元に吸い付いた。
「あんっ。」
私は、思わず口を塞ぐ。
声、出ちゃった…。
ジェイクは大きく息を吐いた。
「はぁ。…早く結婚したいな。」
「そうですね。」
「…うっすら赤くなった。」
「?」
「ここだ。」
ツンツンと首元を触られる。
「!」
今度は私が首を抑える番だった。
「このくらいなら1日で消える。」
「…何でわかるのですか?」
過去の事は、言ってもしょうがないのは分かっているけど、心がザワザワする。
「訓練でアザはつきものだ。」
「ああ、訓練ですか。」
なんだ。そっちか…。
「何だと思ったんだ?」
「いえ、何でも…。ジェイクは赤くなっていませんね。」
「そうか?残念だな。」
「残念ですか…。では、もう一回。」
「いや、それは遠慮する。」
「…ふふふっ」
「くくっ。」
私達は笑いあった。




