31 事件
「え?」
「娘は疲れているようでね。すまないね。」
私が驚いていると、お父様が断ってくれた。
男性は私達から離れていく。
「お父様、ありがとうございました。」
「うん。ジェイクから頼まれているしね。1度はジェイクと踊ったし、誘われたら疲れたと断ればいいさ。」
「はい。」
周りを見ていると、リカルド殿下が女性に囲まれている。
そこで、目が合ってしまった。
リカルド殿下が近づいてくる。グレイさんも一緒だ。
「あれは、リカルド殿下?」
「ええ。」
「仲良くしているようだね。」
「魔除けにされています。」
「まあ、聞いてはいるよ。」
お兄様や影から、報告がいっているのだろう。話さなくても、知っていておかしくはない。
「オパール侯爵。お久しぶりです。」
「リカルド殿下。お元気そうで何よりでございます。」
お父様が頭を下げる。
お父様に合わせて、お母様もお姉様も頭を下げる。いくら同級でも、公の場なので私もそれに習う。
「頭を上げてくれ。侯爵、オパール嬢に話しかけても良いですか?」
「どうぞ。」
「オパール嬢、踊らないか?」
公の場、隣国の王子。
この場面で断われないが、踊ったら良い事がない気がする。
なので、小声で話す。
「変に勘ぐられそうなので、お断りします。」
すると、リカルド殿下も小声で返してきた。
「…友達だろう?」
「それと踊るのとはどんな関係が?」
「一度踊れば、断りやすくなるだろう?」
「ああ。疲れたから、と言うやつですね。」
「そう、それ。」
「足に怪我をしていて、とか理由をつけたら良かったのでは?」
「では、踊っている時に踏んでくれ。」
「「「「「は?」」」」」
私達の会話を聞いていたお父様、お母様、お姉様、グレイさんも私と声が揃った。
「…リカルド殿下。娘に不名誉な噂が立つことは、見逃せません。」
「はぁ、やはり駄目か。何かいい方法はないか?」
お父様達と顔を見合わせる。
そして、私はある考えに行き着いてしまった。
「殿下は恋愛も結婚もしないつもりなのですよね?」
「今の所、そうだな。」
「それを、そのままお話しされては?」
「ん?どういう事だ?」
私達が小声で話しているため、内容を気にして近くに寄ってくる女性が出てきた。
今がチャンスかしら…。
リカルド殿下だけではない。お父様達も不思議な顔をしている。
私は声の大きさを元に戻して、リカルド殿下に話しかける。
「殿下は、女性とは恋愛や結婚は考えられないのですね。」
「そうだと先程も話したが?」
“!”
近寄ってきていた女性達は、さっと離れた。
「リア、貴方…。」
お姉様は気づいたみたいだ。
「説明してくれないか?」
「私が言った言葉を、思い返せば分かるかと。」
私とお姉様以外の4人は少し考えた後、
「「「「あ!」」」」
気付いた。
「さて、陛下の所へ挨拶に行こうか。」
「そうですわね。」
「行きましょう。」
「「「リカルド殿下、失礼致します。」」」
「ああ。…オパール嬢、また学園で。」
「はい。失礼致します。」
私達家族はリカルド殿下から離れ、陛下の元へ向かった。
その途中、オドオドしたライアン殿下に会い、挨拶をした。
あれから、問題行動·発言も何もないとの事。婚約者はまだいない。
そして、私達が陛下への挨拶が終えた時、ジェイクの仕事も終わったようだった。
私達の所へ、ジェイクとお兄様が戻ってきた。
「それでは、私達は挨拶も済ませたし、帰るとするよ。」
陛下への挨拶が終われば、その後は帰宅しても良い事になっている。お父様とお母様はそのまま帰宅した。
「私達は踊ってくるよ。」
お兄様とお姉様は手を繋いで中央に出ていく。仲睦まじい。
ところが、ジェイクは合流してから話さない。
どうしたのかしら?
「ジェイク?」
「…少し、外に出るか。」
「はい。」
舞踏会の時には、自由に庭園を見て回れる。
外に出ると、綺麗な月が見えた。
「…男性にダンスに誘われていたな。」
「見ていたのですか?」
「そばにいられず、すまない。」
「お父様がいましたし、問題ありませんでしたよ。」
「リカルド殿下とも何を話していたのか。…親密そうだった。」
「あ、それは女性から逃げる理由にされそうでしたので、対処をお教えしたと言いますか、勝手にしてしまったと言いますか…。」
「?」
「盗み聞きしていた女性達が、『女性とは恋愛をしない=男性が恋愛対象』と勘違いする様に話しました…。」
「そうか。」
「話はすぐに広まり、今よりは近づく女性が少なくなると思います。」
「なくなるではなく、少なくなるか?」
「ええ。それでも関係ない、と言う方はいらっしゃるでしょうから。」
「なるほどな。…すまん、嫉妬していた。」
ジェイクが項垂れる。
やはり、そうか。
「前にも言いましたが、そういうの嬉しいです。」
「そ、そうか。」
ジェイクの顔が赤くなる。
「あの時は、表情変えなかったのに。」
「内心、ドキドキしていた。」
「ふふっ。」
「…喉が渇くな。飲み物とつまめる物を取ってくる。」
「はい。」
「すぐ戻る。」
ジェイクは室内に戻っていった。
私は月を見て、前世の子どもたちを思う。
元気に過ごしているかしら。
あの子達も幸せに過ごせています様に…。
ふと、庭園に視線を落とすと、座った女性が黒尽くめに囲まれているのが見えたが、それが誰かは暗くて分からない。
只事ではない様子に近づいてみて、女性の正体に気付く。
「クレマ?」
バートンくんは一緒ではないの!?
私は急いで駆け寄る。
先程のところからは見えていなかったが、バートンくんはクレマの傍らに倒れていた。
駆け寄った勢いのまま、囲んでいる人達の背中から蹴りをいれ、輪の中に入る。
「プルメリア!」
「クレマ!大丈夫?」
「ええ。この人たち、いきなりヒィを殴って。」
「おい!何するんだ。」
「それは、こちらのセリフよ。貴方達は何者なの?」
「お前、プルメリア·オパールか?」
「質問に答えなさい!」
「お前もな。用事があったふたりが揃った。行くぞ!」
黒尽くめ達は、クレマと私を何処かに連れて行くつもりの様だ。
ひとりでなら逃げ切れる自信があるが、クレマとバートンくんを守りながらでは無理だろう。
ジェイクも、もう戻ってきているはず。
さっきいた所をチラッと見ると、ジェイクが見えた。
「ジェイク!」
私が叫ぶと、ジェイクと眼が合い、こちらに駆け出すのが見えた。
「くそっ!急げ!」
焦りだした黒尽くめ達は、私の腕を強く掴み立たせた。
私はその黒尽くめの足を払い転ばせ、もうひとりに回し蹴りをする。
その間にジェイクも我が家の影も参戦する。
そこで安心してしまって、隙を作ってしまった。
ドスッ!
「!」
「リア!」
私は蹴りを一発入れられ、飛ばされる。
「お前ら、生きていられると思うな!」
ジェイクが激昂し、本当に黒尽くめ達を地獄に送りそうな顔をしている。
「ジェイク!私は大丈夫。生かして話を聞かないと。」
「…チッ!」
舌打ち…。
そして、あっという間に決着がついた。
ジェイクはすぐに私の元へ来てくれる。
「リア、痛むか?」
「いいえ。大丈夫です。」
黒尽くめ達は、騒ぎを聞きつけてやって来た騎士団に自害を防ぐための猿ぐつわをはめられ、連れて行かれた。
バートンくんは手当のため客室に運ばれ、クレマはそれに付き添った。
私はジェイクに手を借り、立ち上がる。
「痛っ。」
「どうした?」
「足を捻ったみたいです。」
それを聞いたジェイクは、私の腰と膝裏に手を入れ持ち上げた。
お姫様抱っこ!?
「ジェ、ジェイク。おろしてください。少し支えてもらえれば、動けます。歩けますから!」
「リア、黙っていろ。」
ジェイクにいつもと違う迫力あり、それ以上は言えなくなった。
ジェイクにお姫様抱っこをされたまま、お兄様の所へ連れて行かれ、何故かエメラルド家へ行く許可を得た。
「リア、父上には言っておくから。今日はゆっくり休むんだよ?怪我も大事にしなさい。」
「お兄様。私、家へ、」
「では、ジェイク。よろしくお願いします。」
お兄様…。話を遮ったのは、偶然?
お兄様をジッと見ると、目を逸らされる。
わざとね…。
ジェイクは、そのままリカーナお母様の所へも行き、許可を得た。
「私も帰るわ。すぐに部屋を用意させましょう。」
そうして、私は初めてエメラルド家へお邪魔する事になった。




