30 舞踏会当日
祭りの舞踏会当日
舞踏会は夜なのだが、朝から準備が始まる。
その前に走ってこようっと!
貴族の朝は遅い為に、家族はまだ寝ている。
部屋をそっと抜け出そうとドアを開けると、ライラが部屋の前にいた。
「あれ、ライラ?早いわね。」
「走るのですか?」
「…駄目かしら?」
「はぁ…、お供します。」
溜め息をつかれた…。
私はライラと一緒に走りに行き、途中でノアとネーロとも合流した。
「何故こんな事に?」
「プルメリア様は学園でもこの時間に走っていますから。」
「我々も日課になってしまいました。」
「うん…。なんか、ごめんなさい。…ごめんなさいついでに、ノアとネーロどちらか手合わせをお願いしても良いかしら?」
「プルメリア様。今日は駄目ですよ。」
「…はい。」
ライラのストップがかかる。
今日は舞踏会。
万が一でも痣が出来たら大変だものね。
私は素直に引き下がる。
走る事を許してくれただけでも、良しとしないとね。
「では、走りましょうか。」
私達は敷地内を走って部屋に戻った。
その後は家族で朝ごはんを食べ、休憩をしたら準備開始だ。
まずは昨日のように全身の磨き上げ。
お昼を挟んで、次に髪のトリートメント。
ドライヤーが無い為、乾かすのに時間がかかる。乾いたら、ヘアメイクにドレスの着付け。
あっという間に時間が過ぎた。
「すべて終わりました。」
「「「プルメリア様、綺麗です。」」」
鏡には髪をハーフアップに編み込まれ、緑のドレスと、ジェイクから贈られたネックレス、イヤリングを身に着けた私が映る。
「こんなに綺麗にしてくれて、皆ありがとう。」
部屋から出て、家族のいる広間へ行くと、もう皆が揃っていた。
「リア、とても綺麗よ。」
お姉様は黄色地に、緑のリボンが腰に付いたドレス。
お母様は紫のドレスに青いネックレス。
ふたりとも、とても良く似合っている。
「ありがとうございます。ふたりもとても綺麗です。」
「「ありがとう。」」
「我が家は美しい人ばかりだね。」
「父上、我々は幸せですね。」
「そうだな。」
お父様もお兄様もニコニコしている。
そこへロバートがやってきた。
「出発の準備ができました。」
ロバートに声をかけられ、お父様、お母様、お兄様、お姉様は動き出す。
「リア、私達は先に行くよ。ジェイクもそろそろ来るだろうから、すぐに出れる準備をしておきなさい。」
「はい。行ってらっしゃい。」
皆が出発した後、時間がほとんど開かずにジェイクが到着した。
玄関まで行くと、ジェイクが固まった。
「なんかこういう事、多くない?」
「それだけプルメリア様が、美しいと言う事です。」
「…ありがとう?」
固まったジェイクの前でそんなやり取りをするが、ジェイクは中々動かない。
「ジェイク、そろそろ出発しませんか?ジェ·イ·ク。」
「すまん、見惚れた。いつもそうだが、今日は一段と美しい。…そのネックレスとイヤリングを贈って正解だった。」
「あ、ありがとうございます…。」
いつになく素直に見惚れたと言われると照れる。私の顔は真っ赤になっていることだろう。
「では、行こう。」
「はい。」
「「「「「行ってらっしゃいませ。」」」」」
ロバート、ジューン、カルア、メイ、ライラに送り出される。
私達は、エメラルド家の馬車に乗って、王城へ向かった。
「リア。」
「はい。」
「こちらへ。」
ジェイクは隣の席を手で叩く。
「…失礼します。」
私は向かいに座っていたのだが、素直に席を移動した。
「リア。抱きしめたい。」
「…どうぞ。」
私は顔が熱くなりながらも、手を広げて答えた。ジェイクは優しく抱きしめてくれる。
「口付けもしたいのだが。」
「それはできません…。」
「なぜ?」
「お化粧が、崩れてしまいます。」
「そうか…。」
垂れた耳と尻尾が見える…。
「…帰りなら。」
聞こえるかどうかくらいの小声で言うと、ジェイクは聞き取ったようだ。
「楽しみだ。」
顔がまた熱くなった。
◇
王城に着くと、舞踏会を行う広間に通される。
ドアの前には騎士が左右に立ち、文官が客から招待状を受け取り、訪れた客の名前を読み上げている。
私達がドアの前に行くと、騎士も文官も目を見開く。
さっきから何なのかしら?
そうなのだ。馬車を降りてから、この様な光景を何度も見ている。
皆、ジェイクのプルメリアを見る甘々な顔と、プルメリアの美しさ、そしてプルメリアを飾る宝飾品や刺繍から分かる独占欲に驚いているのだが、本人たちは分かっていない。
今回のように、相手の瞳の色を取り入れる場合、アクセントで入れていることが多い。ここまで全面に出ていることは少ないのだ。
「ゴホン。」
ジェイクが咳払いをして、招待状を文官へ渡すと、我に返った文官が急いで名前を読み上げる。
「ジェイク·エメラルド様、プルメリア·オパール様、ご到着!」
私達が広間に入ると一瞬静かになるが、すぐにまた騒がしくなる。
“あれが?”
“うそだろう?山猿だと言っていたのは誰だ?”
“うちの息子の嫁に欲しかったな。”
“エメラルド様があんな顔もするのね。”
“それに、あの宝石…。”
内容は聞こえないけれど、視線は感じるし、また何か言われているんだろうなぁ…。
チラッと他の人を見ると、ジェイクには何を考えたのか分かったのだろう。
「気にするな。リアが綺麗だから俺が羨ましがられているだけだ。」
「…それでは、私も素敵なジェイクにエスコートされて、羨ましく思われていますね。」
お互いに顔を見て、笑いあった。
“キャー!”
“仲睦まじい。”
“絵になる。”
また騒がしくなった気がするが、もう気にしない。
その時、女性に声をかけられた。
「ジェイク。」
「母上。」
私は、一気に緊張する。
「リア、母のリカーナだ。」
「よろしくね。」
この世界、当主が許可を出せば結婚できる為、他の家族とは結婚式で初顔合わせという事も多々ある。
私は社交会デビューが今日だった事もあり、ジェイクのお母様とは初対面となる。
「初めまして。オパール家長女プルメリアでございます。よろしくお願い致します。」
「固くならないで、良いのよ。貴方の事は主人からもジェイクからも聞いていて、初めての感覚はないし、私の娘になるのだから楽に行きましょう。私の事はお母様と呼んでね。」
「はい。ありがとうございます。」
「今度、我が家にも遊びにいらしてね。」
「はい、ぜひ。」
嬉しくなってニコニコしていると、リカーナお母様はジェイクに向き直る。
「ジェイク。しっかり、うちのお嫁さんだと知らしめなさいね。貴方不器用だから、こんなに可愛い子を横取りされないとは限らないわ。」
「分かっている。」
「まぁ既に、この宝石とその表情から、十分伝わっているでしょうけれど。貴方、女性にそんな表情できたのね。」
「母上…。」
「それでは、またね。」
そう言うと、リカーナお母様は私達の元から離れた。
「騒がしくて、すまん。」
「いいえ。元気で優しい人で安心しました。」
その後、私達は結婚が決まった事を、親戚や知り合いに挨拶に回った。
リカルド殿下も来ていたので、挨拶をする。
その横にはグレイさんもいる。
「そうなるだろうと思ってはいたが、実際見ると凄いな。」
グレイさんも頷いている。
「どういう事ですか?」
「うん。オパール嬢は分からなくても大丈夫だと思う。」
「何ですか、それ…。」
そうこうしていると、陛下が入場する時間になった。
ライアン殿下、レオン殿下とユリーナ妃殿下、王様と王妃様の順に入場して、高座に立つ。
「皆のもの今日は楽しもう!」
陛下の一声で舞踏会が始まった。そこで、陛下達は椅子に座る。
そして、音楽が流れ、中央から人が退く。
踊りたい人が中央に行き踊るのだ。
何組かが手を取り合って、中央に出ていく。
お兄様達や、クレマ達もいる。
「踊るか?」
「踊れるのですか?」
「まぁ、多少は。」
「ふふっ。よろしくお願いします。」
私達も手を繋ぎ、ダンスに参加した。
見つめ合い、身体が密着する。
近い…。
思わず俯いた。
「リア。こっちを見てくれ。」
「…はい。」
音楽に乗って動いていると、距離も周りも気にならなくなる。
「楽しいです。」
「それは良かった。」
クルリと回ると拍手がおきる。
拍手が自分達に贈られているとは思っていなかったが、音楽が止むと皆の視線がこちらに向いていることに気付いた。
現実に戻ると照れるな…。
「リア、挨拶回りが始まりそうだ。行かなくては。」
「では、私はお父様の所へ行こうと思います。」
「それがいい。侯爵の元へ送る。」
「すぐに見つかるでしょうし、大丈夫ですよ?」
「いや、一緒に行く。」
「そうですか?ありがとうございます。」
お父様達のところへ行くと、既にお姉様もいた。
「リア、来たか。」
「侯爵、俺は少し失礼します。その間、リアをお願いします。」
「ああ。挨拶回り頑張れ。」
ジェイクはレオン殿下の元へ向かっていった。
殿下達は高座を降り、来客に挨拶して回る。
陛下の椅子の斜め後ろには、いつの間にか宰相と師匠(騎士団長)が立っており、陛下は高座に座ったまま挨拶を受ける。家格の低いものから挨拶に出向くのだ。
「ダンス、見事だった。」
「お父様、見てたのですか?」
「そりゃ、目に入る。」
「そうよね。とても綺麗で絵画のようだったわよ。」
「お母様、それは言い過ぎです。」
「あら、お母様の言っているのは本当よ。ジェイク様を狙っていた人も、これで諦めるのではないかしら。」
「え?」
そりゃ、あんなに格好いいのだ。モテるとは思っていたが、実際に聞くと心が乱される。
私の顔が曇っていたのだろう。
お姉様が焦りだした。
「リア、あくまで一方的によ。ジェイク様から女性に話しかける事は無かったようだし、無愛想で有名だったのだから。」
「そうなのですか?」
「ええ。」
「それは私も保証するよ。」
「そうよ。そっち方面で泣かされる事は無いと思ったから、私達は彼と貴方の婚約を勧めたのだもの。」
「お父様、お母様。…私はジェイク様を信じていますから、大丈夫ですよ。」
私はにっこり笑った。
そうよ。
よく考えたら、周りの反応やジェイクの言葉から、愛されているのは十分伝わっている。
その時、
「一緒に踊っていただけますか?」
男の人に声をかけられた。




