28 デビューの衣装合わせ
結婚式の日付が正式に決まった。
これから、社交会デビューの準備の他に、結婚式の招待状とドレス準備もしていく事になる。
招待状に関してはお父様達の付き合いが中心になる。私はクレマとバートンくん、よく話してくれる何人かに手渡しするつもりだ。
リカルド殿下は、立場が立場なだけに来てもらうことは難しいだろう。しかし、話だけはしておこうと思う。
ドレスに関しては、早めにお願いしなくちゃ。えーと、オパール家御用達の仕立て屋に連絡をしてもらって…。あれ?エメラルド家の仕立て屋だっけ?ジェイクに確認。
お母様にも連絡しないと…。
「手紙でやり取りって時間がかかるわ。電話とか、メールとか出来たらいいのに…。」
「でんわ?めえる、ですか?」
「遠くの人と会話ができる機械よ。」
「そのような物があったら便利ですね。」
「そうなのよ!…でも、仕組みが分からない私が作るのは無理だけどね。」
私は便箋を用意し、先にジェイクに手紙を書いた。
ジェイクへの手紙はノアが届けてくれたので、返事もすぐに返ってきた。
ジェイクは、エメラルド家の仕立て屋で新郎新婦両方の衣装を作ろうと。
その旨を含め細かな確認を、お母様の手紙に書く。
「プルメリア様。今度の舞踏会のドレスの調整をしたいと連絡が来ております。」
「今度の休みにお邪魔すると言っておいてくれる?」
「畏まりました。」
家にいる時には仕立て屋が来てくれるのだが、寮にいるとそれは難しいので、こちらから赴く事になる。
◇
そして、休みの日…
馬車で仕立て屋の前まで行き、ライラと降りるとジェイクがいた。
「ジェイク?何故ここに?」
「俺はオパール家の馬車が見えたから挨拶をしようと思って。リアこそ、どうした?」
「舞踏会のドレスの調整に来たところです。」
目の前の仕立て屋を指す。
「舞踏会?祭りのか?」
「ええ。」
「一緒に行っても良いか?」
「良いですが、いつ終わるか分かりませんよ?他にも用事があるのでは?」
「いや、明日から学園に戻るから、その前に店を見てきただけだ。…リアのドレスも気になる。」
「そうですか。…あ!エスコートをして頂くのに、気づきませんでした。ドレスの色を言っていませんでしたよね。…すみません。」
エスコートをして貰うのに、衣装の色の相性もある。失念していた。
「いや、デビューのエスコートだ。こちらが合わせるから気にするな。無難な色にするつもりだったし、その方がドレスを邪魔しないだろう?」
「お気づかいありがとうございます。」
「それでは、行こうか。」
「はい。」
私達はオパール家御用達の仕立て屋にはいった。
「オパール様、いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」
女性店主が頭を下げ出迎えてくれる。
「今日は、婚約者も一緒なの。ドレスを一緒に見ても良いかしら?」
「畏まりました。こちらへどうぞ。」
私達は店の奥の個室に通された。
そこには、緑色の生地に、胸元から裾に向かって銀の刺繍が施されたドレスがあった。
「綺麗。刺繍を銀にしてもらって良かったわ。」
グレーを入れたかったけれど、デビューのドレスにしては落ち着きすぎてしまうというので、それに近い銀の刺繍を入れてもらったのだ。
「ああ。きっとリアに似合う。」
「調整始めますが宜しいですか?」
「ええ。」
私とジェイクの間にはパーテーションが用意された。
「俺は外で待つ。」
「パーテーションがあるし、大丈夫ですよ?」
「しかし…」
「廊下に居たら、お仕事の邪魔になります。」
「…」
私が言うと、ジェイクは室内に置かれているソファへ静かに座った。
それを確認した店主は作業に入る。
私は着てきたドレスを脱ぎ、緑のドレスに袖を通す。
「ここを少し詰めます。こちらは少し緩めましょう。…これで調整は終わりましたが、着た所を婚約者様へお見せになりますか?」
「うーん。…ジェイクはどうしたいですか?」
私はパーテーションの横から顔を出し、ジェイクに聞いてみた。
「…見たい。」
「それなら、そうしましょう。」
「畏まりました。」
そう言い、店主がパーテーションの半分を退かしてくれた。
「!」
ジェイクは目を丸くして、動きも話もしない。
「ジェイク?おーい、ジェイク?」
反応なし。
見かねたライラがジェイクに近づき、大声で声をかける。
「エメラルド隊長!!」
「んあ?…すまん。」
「ジェイク、大丈夫?待ち疲れました?」
「いや、疲れていない。…すごく似合っている。」
「ありがとう、ございます。」
照れる…。
そして、緑のドレスを脱ぎ、着てきたドレスに着替える。
「本日は終わりになります。完成品はご自宅へのお届けでよろしいですか?」
「ええ。お願いします。」
私達は仕立て屋を後にした。
「リア、この後用事はあるか?」
「いいえ。」
「門限までは時間があるし、少し良いか?」
「ライラ、良いかしら?」
「はい。私共は学園へ先に戻っております。エメラルド隊長、プルメリア様をよろしくお願い致します。」
「ああ。門限には無事送り届ける。」
ライラ達は馬車に乗り、学園に帰っていった。
「行こう。」
「何処へですか?」
「すぐそこだ。歩きながら話そう。」
「分かりました。」
何処かに向かって歩き出した。
この通りは貴族達御用達の仕立て屋や、宝石店が並んでいて、静かな通りだ。
「実は社交会デビューの祝いを何にしようか考えていたんだ。あのドレスを見て思いついた。」
「?」
「ここだ。当日に付ける宝飾品をプレゼントさせてくれ。」
ジェイクが立ち止まった場所は、宝石店の前だった。
中に入ると、ここでも奥の個室に通され、男性の店主が応対してくれる。
「エメラルド様。本日は何をお探しですか?」
「婚約者が社交会デビューなんだ。グレーダイヤモンドとグリーンダイヤモンドで宝飾品を作って欲しい。金はいくらかかっても良い。」
「え?」
私が驚いている内に話が進んでいく。
「デザインはどうしましょうか。」
「ゴテゴテし過ぎず、上品なものが良いな。」
「ドレスはどのような形でしょうか?」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい。」
「どうした?」
「どうしたって、お金…。」
かなりの値段になりそうだけれど…?
「ああ。使い道がないから貯まっている。こういう時に使わないとな。祝いなんだから、気にするな。」
「ゔっ、…はい。」
「では改めまして、ドレスについてお聞かせください。」
私は、さっき見てきたドレスを思い浮かべながら、店主へ説明をした。
「ドレスは緑の生地に胸元から裾に向かって銀の刺繍があります。胸元は鎖骨下まで開いていて、スカートは広がっていています。」
「なるほど。…長さは出さずに、このくらいで。…ブルーダイヤモンドも入れましょうか?そうするとおふたりの瞳の色が入る事になります。グレーダイヤモンドを多く使い、ブルーとグリーンをアクセントで散らすというのはどうでしょう?」
店主は話しながら、紙にササッとデザインを書き見せてくれた。
「それ良いな。リアはどうだろうか。」
「はい。素晴らしいです。」
「イヤリングも合わせて如何ですか?」
またもや、ササッとデザイン画を書き、見せてくれる。
店主さん、商売上手。
「頂こう。祭りの日までに仕上がるか?」
「はい。なんとか致します。」
「頼んだ。」
「よろしくお願いします。」
「畏まりました。」
私達は店を出て、来た道を歩く。
「ジェイク。ありがとうございます。」
「当日が楽しみだな。さて、思っていたより、早く終わったな。お茶でも飲んでいくか?」
「はい。あの…行ってみたかった所があるのですが、そこでも良いですか?」
「ああ。何処だ?」
「我が家で飲んでいるお茶のお店が、ケーキ屋を開いたそうなんです。」
「そうか。どこにあるんだ?」
「えーと、確か…」
以前にライラから聞いた場所をジェイクに話すと、場所に思い当たった様だ。
「それならこっちだな。…ほら。」
手を出されたので、私はその手に触れる。
私達は手を繋いで店に向かった。
「言っている所は、ここだと思うんだが。」
私は、店名を確認する。
「はい。ここです。」
「では、入ろうか。」
「楽しみです。」
ドアを開けると、お茶の香りで溢れていた。
「良い香り。」
店内はイートインスペースと、持ち帰りスペースに分けられている様だ。
イートインスペースはお客がたくさんいる。
私達がドア付近にいると、店員が走ってきた。
「オパール様。いらっしゃいませ。いつもご贔屓にして下さりありがとうございます。」
「こちらこそ、いつも美味しいお茶をありがとう。それにしても、良く私だと分かりましたね。直接会うのは、初めてだと思うのだけれど…。」
「以前、お茶をお持ちした際に、お見かけしました。」
「そうなのね。」
「今日はお持ち帰りですか?」
「いいえ。休憩がてらケーキを食べに来たのだけれど、席は空いているかしら?」
「はい。ご案内致します。」
「あれ?リア?」
店員に付いて行こうとした時、後ろから声をかけられた。
声のした方に振り返って、私もジェイクも驚いた。
「お父様!?師匠!?」
「近くを通ったから、ミディアに土産をと思って寄ったんだ。」
「俺もついでに土産をな。…まあ、仲良くやっているようで良かったよ。」
チラッと手をみられる。
手…?
わ!手を繋いだままだった!
私は手を離そうとするが、ジェイクはそのつもりは無いらしい。しっかり握られている。
「親父も土産とか買ったりしてたんだな。」
「当たり前だ。」
「怒らせたから何か良い詫びの品がないか、と相談してくる事もありますもんね。」
「おい!」
「あの…すみません。ここでは何ですのでお席の方へ…。」
店員が恐る恐る声をかけてきた。
「あ、ごめんなさい。そうよね。お父様、師匠、一緒に如何ですか?ジェイク、良いですよね?」
「…ああ。」
あ、不服そう…。
「そうかい?それならお言葉に甘えて。」
「おい!」
「いいじゃないですか。あとは帰るだけなんだし、久しぶりに愛娘に会えたんですよ。」
「だからってなぁ、」
また、話が続きそうになった時、店員に再度声をかけられた。
「あ、あの、そろそろ移動をお願いします。」
「そうよね。ごめんなさい。ほら、行きますよ。」
私はお父様と師匠に声をかけ、ジェイクの手を引いて店員の後ろをついて行った。
私達は、半個室の様な席に案内された。
ジェイクと手を離し、私とジェイクが隣り、私の向かいにお父様、ジェイクの向かいに師匠という形で席に座る。そして、メニューを見ながら、それぞれお茶を頼んだ。
「お父様、師匠。ケーキはどうしますか?」
「私は、ベリーのケーキにするよ。」
「俺はいらん。」
「ジェイクは?」
「俺もお茶だけで良いな。」
「そうですか?それなら、私はティラミスを。」
「畏まりました。」
店員はオーダーを聞くと、テーブルを離れた。
「ところで、ふたりはデートだったのかい?」
お父様が直球で聞いてきた。
「デートといいますか、今日は社交会デビューのドレスの調整に来て、店の前で偶然ジェイクに会いました。」
「ふーん。それでその後ここに来たと。」
「お父様なんか、取り調べの様ね…。」
「そんなことないさ。娘が大切にされているか気になるだけだよ?」
私はジェイクの顔を見る。
お祝いの事話していいのよね?
私から話す?
ジェイクから?
それが伝わったのか、お父様の問いにはジェイクが答えた。
「ドレスの後に社交会デビューの祝いを見ていました。今まで何にしようか考えていたのですが、ドレスを見て決まったので。」
「何にすることにしたんだい?」
「それは俺も気になるな。」
師匠も話に加わる。
「当日に付ける宝飾品です。」
「ほぉ、お前もやるなぁ。で、どんなのだ?」
「それは、当日見てくれ。」
「おまたせ致しました。」
そこで、お茶とケーキが運ばれてきた。
各々頼んだものを口にする。
「ジェイク。このティラミス、甘すぎず美味しいですよ。ひと口食べませんか?」
私はひと口分乗ったスプーンを、ジェイクに向けた。
「!」
「ジェイク?」
「リア。嬉しいのだが、今はちょっと…。」
「ん?あ、すみません。こちらからひと口、如何ですか?」
あ~ん状態だったことに気づき、スプーンをお皿に置いて、お皿ごとジェイクへ渡した。
「…頂く。」
「どうですか?」
「ほろ苦い。これならいける。」
「良かった。もしかしたらと思ったんですよね。」
「リア。…もしかして、それでこれを頼んだのか?」
「まあ、それもありますが、私が食べたかったのも嘘ではありませんよ。」
「…リア。」
「ゴホン。我々は何を見せられているのだろうか?」
「!」
「お父様。すみません。」
私達の顔は赤くなっているだろう。思わず俯いた。
「ほらな。だから言っただろうが。親がデートに参加して、良いことは何もない。」
「…言ってないですよ。」
「そうだったか?とりあえず、食べたらもう行こう。」
「そうですね。」
お父様は黙々と食べ、食べ終えるとお茶を一気に飲みほした。
「では、次は祭りの前日かな?」
「はい。前日のお昼前には帰ります。」
「楽しみにしているよ。…ジェイク、邪魔してすまなかったね。」
「いえ。」
「ジェイク、プルメリア。またな。」
「今日は会えて良かったです。ふたりとも、気を付けて帰ってくださいね。」
お父様は、すでにお茶を飲み終わっていた師匠と、店を出ていった。




