ウェルクside
私はウェルク·オパール。候爵家の当主だ。うちは代々国の情報を扱い、さらに、陛下から密命が下る事もあるため、命を狙われる事が多い。そのため、身を守る手段はいくつか身に着けている。
無表情になってしまうのもそのためだ。自分だけでなく、家族を守る為にも感情の乱れは悟られないほうが良い。
しかし、ミディアと結婚し子どもが生まれると、私の心は乱れ始めた。
可愛い………
「おぎゃー!!!!!!!!」
息子のスターチスをジッと見ていると泣き出した。
「ウェル様、そんなに見てはチスが、びっくりしますよ。」
ミディアがクスクス笑いながら言う。
ミディアとは恋愛結婚ではないが、上手くいっているとは思う。
「しかしなあ、可愛すぎて…ずっと見ていたいのだが…」
「その怖い顔では…こどもを見るときくらいは笑っても。」
「ロバート…」
後ろにいるこの執事は長い付き合い、こうなった(無表情)理由も知っているのに容赦ない…
「この顔はもうどうにもならん。……怖がらせてしまうか…」
それから、私はスターチスを遠くから見守る事にした。
「あの子はもう歩いたぞ!」
「もう話し始めた!」
「うちの子は優秀だな!」
「今日も可愛いぞ!」
毎日、そんな話をしていると、ついにロバートが切れた。
「うるさいですよ、親バカ。そんなに可愛いなら、もっと遊んで差し上げてください!仕事など、貴方ならどうとでもなるでしょ!」
「でも…怖がらせてしまうのではと怖いのだ。」
「仕事は出来るのに、いつからそんなにヘタレになったんですか。威厳はどうしました、威厳は!」
「そんな事言っても…」
そのまま、スターチスと距離を縮められずにいた。そんな中、2人目ができた。
産まれてきたのは、女の子。花のように可愛い子で、プルメリアと名付けた。
プルメリアは産まれたときから、泣く事は少なかったようだ。顔を合わせる時には、私をジッと見てきて何かを探っているようだった。
可愛い………
うちの子は天使だったのか…
とは言っても、スターチス同様、距離をはかれずにいた。
そして1~2年経ったとき、
「いただきましゅ。」
食事前に手を合わせているプルメリアを見た。
「それはなんだ?」
「あっ!……ゆめでみたの…でしゅ。たくさんのどうぶつしゃんと、おはなしゃんと、おやしゃいしゃんがでてきました。みんないきていたのでしゅ。だから、わたしのからだのためにありがとうなのでしゅ。」
「そうか。」
不思議な子だ。何もかも分かっているような、見透かしているような気さえしてくる。
この子の将来が楽しみなような、怖いような…。まぁ、何があっても守るがな。
◇
さらに1年…
「うちの子たちはなんでこんなに聡明で、可愛いのだ。」
「聡明なのは認めましょう。しかし、可愛さはうちの子も負けていない。」
「ロバート…お前も大概だよな…」
こんな会話が日常になっている。
そんなとき、ロバートからある話を聞いた。
「ジューンから旦那様の休日を聞かれました。なんでもプルメリア様が気になさっているようです。」
「どうかしたのか!?」
「いえ、プルメリア様は重要な事柄ではないと仰っていたようです。」
「………すぐに仕事の調整をしよう。」
「了解しました。」
私は後に回せる仕事には手を付けず、仕事の調整をして時間を作った。
「今日は、昼過ぎに帰る。」
朝食の時にそう切り出すと、子どもたちは目を丸くしてこちらを見た。
そんなに驚く事か…?
そして、私は約束通り昼に帰る事ができた。
「ウェル様、おかえりなさい。お仕事お疲れ様でした。」
「あぁ、ただいま。」
「今日の昼食はウェル様の好物ですよ。」
「それは、楽しみだ。」
「お父様、おかえりなさい。」
「おかえりなさい。」
みんなで出迎えてくれる。
こんな事、久しく無かったな。
何時もの出迎えはミディアとロバートだけ。時間によってはミディアがいない時もある。
こういうのも悪くないな…。気持ちが穏やかになる。
昼食を食べ終えた後に、プルメリアを執務室に呼ぶことにした。
トントントン
「プルメリアです。」
「入りなさい。」
「失礼します。」
「座りなさい。」
「はい。」
本当に3歳だろうか。プルメリアはもうしっかり話し、礼儀作法も問題ないと報告を受けている。これから教師を付けようと思っていたのだが、独学で勉強もしているようだ。
まぁ、まずは何を気にしているか聞かないとな。どう切り出したら良いものか。
考えていると時間が空いてしまい、しびれを切らしたのかプルメリアから話しかけてきた。
「あの…お父様。お話とは?」
「話があるのは、プルメリアの方ではないのか?」
「え?」
「何か気にしていたと耳に入ったが。」
「もしかして、そのために今日早く帰ってくださったのですか?お仕事は本当に大丈夫なのですか?」
驚きながらも、私の仕事の心配もしてくれる。
なんて良い子なんだ!
「ちょうど、区切りがついたのは本当だ。それに、いつも余裕を持って仕事をしているから問題ない。…それで?」
「私付きの侍女たちのことです。手当をつけてくださっているそうで、お礼を言いたかったのです。」
プルメリアは、侍女を多くは必要としない。自分で出来ることは、自分でしているようだ。貴族としては変わっているが、私はその考え方が嫌いではない。そのため、無理に増やす必要もないかと思っている。
「何だそんなことか、子どもが気にすることではない。彼女たちを雇っているのは私だからな。」
「それでも、お礼を言いたかったのです。それと……お父様ともお話をしたかったの」
だんだん声が小さくなり、俯いているプルメリア。
「ゔっ…」
私と話をしたかっただと…
可愛い…なんて可愛いんだ!
顔に手をやり、口元を隠した。
「お父様?」
「いや、すまん。…話だな、何を話そうか。」
「……お仕事、忙しそうですね。」
ここの所、周りの国が物騒になっている。陛下に言われて動くことも多く、外回りも増えている。そんな仕事の話をしていると休日の話になった。
「休みが取れないくらい忙しいのですか?」
「休みは取っているぞ。」
「でも、お休みにも仕事をしていると聞きました。」
「領地のことの確認なんかもあるから、それをしているんだ。」
「それはお休みとは言いません!」
「………」
「身体を壊さないか心配です。」
天使!…ここに天使がいる!なんて優しい!!
「そうか…心配してくれてありがとう。これからは少し気をつけてみるよ。」
「はい」
「ところで、プルメリア」
私は1つ、ずっと気になっていた事を聞く事にした。
「私もリアと呼んでいいかな?」
そう、私は子どもたちを愛称で呼びたかったが、タイミングが掴めずにいたのだ。
「??お父様は私のお父様なのだから、許可など必要ないと思いますが??」
「……嫌われたくなくてな。」
「え?お父様、私を愛称呼びすると嫌われると思っていたのですか?」
「仕事で忙しくしていて、交流も少ないのに呼ぶタイミングも分からなかったのだ。」
「もしかして、お兄様をスターチス呼びなのも?」
「…そうだ。」
大丈夫だろうか…嫌われてないか?子どもたちに嫌われたら私は…
「お兄様もお呼びしましょう!」
「え?」
「私達親子には会話が足りません!」
話を聞いたロバートによって、スターチスはすぐに連れてこられた。
なんと言えばいいのだ…自分で情けなくなる。こんなの自分ではない…
「お父様、お兄様にも!」
リアに促され口を開く。
「…スターチス、お前をチスと呼んでもいいか?」
「……………は?」
当然の反応だ…私でも親に言われたら、「は?」だ…
「駄目ならいいのだ。今まで通りスターチスと呼ぶ事にする。」
「いえ、失礼しました。別にいいのですが、どうしたのですか急に。」
「呼ぶタイミングが分からなかったそうです。私も先程、リア呼びになりました。」
スターチスは何とも言えない顔をした。
そこから、私達は色んな話をした。時間が経つのも忘れ話していると、話し声を聞いたミディアがやってきた。
「私は除け者ですか!?」
拗ねたミディアの機嫌は後で取る事にして、今はただ、子どもたちとの交流を大切にしよう。