22 リカルド殿下の頼み
翌日、教室に行くとリカルド殿下が、話しかけてきた。
「おはよう、オパール嬢。昨日は、助けてくれて感謝する。」
「リカルド殿下、おはようございます。私は何もしておりません。」
ニッコリ笑いながら答える。
「それは、…まぁ、そういう事にしておこうか。ところで、…隣の席良いか?」
リカルド殿下は私の右側の席を指す。
教室の机は長机で、3人ずつ座るようになっている。上限の3人座っても、余裕があるくらいの大きさだ。
しかし、空いている席は他にもあるのだけれど…。
はぁ、他に座ってくださいとは、言えないわよね…。
「席は自由ですから、何処でも大丈夫ですよ?」
「では、失礼する。」
リカルド殿下は指定した通りの席に座る。
周りの生徒は、いつもと違う状況だからか、昨日のことがあるからか、分からないが遠巻きにしていて挨拶にも来ない。
リカルド殿下との会話もない。
気まずい…。
クレマ、早く来てぇ!
そして、クレマが教室にやって来た。こちらを見ると、目を見開き動かない。
分かる、分かるわよ。こちらに来るべきか迷っているのよね。
私は左隣の椅子を軽く引いてみた。
それに気づいたらしいクレマは、引かれた椅子に座る。
「アメシスト嬢、おはよう。」
「殿下。おはようございます。」
「クレマ、おはよう。」
「おはよう、プルメリア。…後で説明してね?」
無理です。私も分かりません!
そのまま、昼休憩にもリカルド殿下は付いてきた。グレイさんたち騎士も一緒だ。
私とクレマは顔を見合わせる。
私は、正直に聞いてみることにした。
「リカルド殿下。今日はいつもの皆さんと休憩なさらないのですか?」
「すまん、迷惑だったか?」
「迷惑といいますか、何故急にこの状況なのか戸惑っております。」
「…オパール嬢、アメシスト嬢。静かなところで話したいのだが。」
「…プルメリア。裏庭は?殿下、外の食事でも?」
裏庭にはガゼボがある。
そこで食べようというのだ。
クレマの提案に頷き、場所を移動する。
「空いていて、良かったわ。」
「そうね。さて、リカルド殿下。お話は、食べながらでも良いですか?」
「クレマ。」
「問題ない。」
「ほら、プルメリア頂きましょう。」
「ええ。」
そうして、食べながら話を聞くことになった。
「私はいつもにぎやかな食事だ。」
「「はあ。」」
「静かに食べたい事も、全てが面倒くさくなる事もある。王子というだけで、取り入ろうとする奴が多いし、私は望んでないのに周りが気を利かせる。」
「「そうでしょうね。」」
「しかも、女性はベタベタ、ベタベタ触ってくるものもいるし、臭い!」
「「臭い?」」
「ああ、臭い!ふたりはそんな事ないのにな。何故あんなに臭くて、皆平気なのだ?」
「「あー。」」
なるほど、香水か。
好き嫌いもあるものね。
確かに殿下が来てから、女生徒の中には香水を強くしている者もいる。
私は強い匂いが苦手だから、そういう子の近くは避けてしまう。
「そうね。殿下が来てから、気合が入っているわね。」
「はあ…。教室も臭くて参っていたんだが、オパール嬢に挨拶に行ったら、匂いが和らいだんだ。」
「私、匂いの薄いところを選んで座っていますから。」
教室に窓はないが、換気口はある。最近は特に、空気の流れを考えて、座る位置を決めていた。
「それで、今朝はプルメリアの隣に座っていたのですね。」
「そういう事だ。アメシスト嬢も驚いたのだろう?すまなかったな。そして、これからも頼む!」
「「これからも?」」
「ああ。」
「プルメリアから、場所を聞けば解決するのでは?」
「私といるのは、そんなに嫌か…?」
「「そういう訳では…。」」
「ふたりといると、他の生徒が近づいて来ないのだ。」
「「え?」」
「私達は魔除けか何かですか?」
「そうだ!頼む。静かに過ごしたい!」
「…なんて、素直な答え。」
私は近くにいるグレイさんを見た。
グレイさんは、頭を深く下げた。
そうか、護衛にもメリットがあるのか。
周りに生徒がいない方が、守りやすい。
「クレマ。」
私がクレマの名前を呼んだだけで察したのだろう。
「…分かったわよ。やりましょう、魔除け!」
「本当か?感謝する。」
「プルメリアもエメラルド隊長と過ごせるし、良い事だわ。」
「ちょ、それは違う。ジェイクは仕事中!仕事に私情は挟んじゃ駄目!」
「魔除けをお願いしたのはこちらだし、イチャつく時間くらい取ってもらって構わないぞ。」
「リカルド殿下。案外、話の分かる方なのですね。」
「…ふたりとも、冗談はそこまでにしてくださいね。」
イラッとしたが顔に出さない様に、ニッコリ笑いながら言うと、何故かふたりは震えながら、声を揃えて返事をした。
「「はい。すみません。」」
はぁ、この状況をお兄様に報告しておかなくては…。
午後の授業を終え、私はお兄様へ手紙を書いた。
「ノア、ネーロ。」
「「はい、ここに。」」
「昼間、聞いていたかしら?」
「リカルド殿下の魔除けですか?」
「魔除け…、他に言い方ないかしらね。まあ、いいけど。…今までリカルド殿下の行動を教えてくれてたけど、避けていられなくなったし、もう大丈夫よ。」
「畏まりました。」
「それで、この手紙をお兄様に届けてくれる?現状の報告だから、他を通したくないのよ。」
「では、私が。」
「よろしくね。」
ノアが手紙を届けてくれることになり、見送った。
◇
今日からジェイクがまたリカルド殿下の護衛に入る。
1時間目は無事終わり、昼休憩。
リカルド殿下は宣言通り、私達と一緒にガゼボへ向かい、昼食を取ることになった。
これにはジェイクが驚いている。
グレイさん、報告しなかったの?
グレイさんを見ると、ニヤリと笑った。
あ、これ、ドッキリ?サプライズ?
まあ、驚くところを見たかったということかしら。
「エメラルド隊長。昨日からこういう事になった。ふたりは私の魔除けだ。」
「魔除けですか?」
リカルド殿下は、昨日と同じことをジェイクにも説明した。
イチャつきOKの事も…。
「話は分かりました。こちらとしても護衛上、殿下に近づく人数が、減ることは助かります。しかし、イチャつき云々はお断りします。」
「そう言うと、オパール嬢が傷つくぞ。遠慮せず。」
「遠慮とかではなく、仕事中は仕事に集中します。それを分かってくれる婚約者です。それに、可愛い婚約者を皆様に見せる気はございません。」
「見せる気はって、もう知っているわよ?」
クレマが不思議そうに聞いた。
「うちの婚約者は、普段は美しい人ですが、私といる時は、さらに可愛くなるのです。」
私はジェイクが話す度に顔が赤くなっていくのが分かる。
「お願い。この話は、もうやめて頂ける?」
「プルメリア。愛されているわね…。」
「エメラルド隊長。…真顔で、よく言えるな。」
ふたりとも少し引いており、グレイさんは笑いをこらえているのか、俯いて肩を震わせている。
「グレイ。後で話がある。」
「はい、お手柔らかに!」
「はぁ…。」
その後、私とジェイクのことには触れることなく、私も特に気にせずいつも通りに過ごした。
護衛や侍女と離れ、教室に入ると、クレマが休憩中の事について質問してきた。
「気にならないの?」
「何が?」
「ふたりとも、婚約者が側にいないような振る舞いをしていたから。」
「仕事中だから。」
「それでも嬉しくなったり、楽しくなったり。」
「うーん。私にも分からないけど、気持ちが自然に切り替わったわね。エメラルド隊長とジェイクは違う様に感じる。」
「違わないでしょう。」
「不思議ね…。遠くから見ていたときは、ジェイクと認識していたけれど、今は、エメラルド隊長なのよ。」
「全く分からない。」
私とクレマのやり取りを黙って聞いていたリカルド殿下が、口を開く。
「似た者同士と言うことだろうな。そして、お互いを信頼している。そんな相手に出会えて、羨ましいよ。」
私はその言葉がとても嬉しかった。
「ええ。(それについては)神様に感謝します。」
午後の授業が終わり部屋に帰ると、ライラから、ジェイクからの言伝を聞いた。
内容は、仕事の休憩の時間に会えるかという事。夕食休憩が学園の門限前に取れる日なのだという。
私は、ライラに夕食をお弁当にできるか食堂に確認してもらうと、2人分なら可能だと言うのでお願いしてきたと報告を受けた。
「ありがとう。ジェイクにもその旨伝えなくては。」
「では、私が行ってきます。」
「ありがとう。助かるわ。」
ネーロがすぐに動いてくれ、了承の返事を持ちすぐに戻ってきた。
ネーロには、そのまま休憩に向かってもらう。
外出には、ライラとノアが付いてきてくれるという。
♢
そして、約束の時間
ガゼボに座っていると、ジェイクがやって来た。
「待たせたか?」
「いいえ。」
「プルメリア様。私達は失礼致します。」
ジェイクが来てすぐに、ライラとノアが帰ろうとした。
「え、戻るの?」
「エメラルド隊長がいれば、安心です。」
「任せろ。無事に帰す。」
「よろしくお願いいたします。」
ライラとノアが頭を下げる。
「分かったわ。それならふたりも休憩を取って。」
「はい。ありがとうございます。それでは、失礼いたします。」
その場には、私とジェイクが残された。
「食べましょうか。」
「そうだな。」
お弁当といっても、深いお皿のワンプレートで、色々盛り付けられている形だった。
これは、お弁当とは言わない気がするけれど…。ま、いいか。
「昼の事だが。」
「ん?昼ですか?」
食事を始めると、ジェイクが言いにくそうに話し始めた。
「イチャつきは必要ないとか、リアと話さないとか、素っ気無い態度をとった。すまん。」
「いいえ、謝ることでは…。私も、話しかけませんでしたし、仕事中なのだから当たり前のことですよね?」
「分かってくれるとは思っていたが、きちんと話しとこうとも思っていたんだ。」
私はジェイクのこういうところが好きだ。
「こういう気遣いが嬉しいです。だから、私はジェイクを信頼できるし、ジェイクからの愛を疑う事もありません。リカルド殿下が言っていました。私達は似た者同士だと。そして、そんな相手に出会えて、羨ましいと。」
「リカルド殿下が?…そうか。俺には何も言ってなかったな。」
「仕事中だからでは?」
「ははっ、そうだな。」
その後は楽しく食事をした。
「そろそろ行くか。」
門限の時間が近づいてきている。
「時間が全然足りませんね。まだ一緒にいたいです。」
「またそんな可愛い事を…。」
「ふふふっ。」
「リア、もうすぐ誕生日だろう?」
「そうですね。」
「誕生会はしないと聞いた。」
「はい。お父様に聞いたら、必ず行わなくてはいけないと言うものでもないみたいなので、跡取りでもないですし断りました。」
「そうか。…それなら、ふたりで出掛けないか?」
「ふたりで?お仕事は良いのですか?」
「休みを取る。街に行こう。」
「ジェイクと街歩き、嬉しいです。何よりの誕生日プレゼントですね。」
喜んでいると、ジェイクに頭を撫でられた。
「そこまで喜んでくれるとは…。楽しみだな。」
「はい!」
私達は口付けを交わしてから、その場を後にした。




