20 ジェイクとの時間
「今日も終わったわ。」
「お疲れ様でした。」
「いえ、そんなに疲れてないのだけれど…。」
前世と比べれば時間割にも余裕がある。1日2~3時間くらいだからだ。午前に1時間、午後に1時間という形が多い。
後は自由時間で、社交の練習がてらお茶会をしたり、お茶会をしたり、お茶会をしたり…。
もう!身体を動かしたい!
「エメラルド様より、言伝を預かっております。」
「ジェイク様から?」
「はい。『早上がりができそうなので、会いに行く』との事でした。」
「そう。会いに…、会いに!?」
「はい。」
「今日?」
「はい。」
「早上がりって、いつ頃?」
「それは、何も…。」
「準備はしておいて、損はないわね!すぐに始めましょう。」
「はい。」
「あ、そうだ!汚れても良い可愛い物にしてもらえる?」
「…汚れても良い、可愛い物ですか?」
「ええ。そうよ。」
「プルメリア様、真意が分かりかねます。と言いますか、分かるけれどそれが正しいと思いたくないと言いますか…。」
「デートの様に可愛く有りたいけれど、体術訓練も付き合ってもらえるかしらと思って。」
「やはり…。」
「だって、お茶会ばかりで身体が鈍るわ。」
「確か、昨日も走られていたと記憶してございますが。」
「それとはまた別ね。」
「…分かりました。そのようにご用意致します。」
「ありがとう。」
準備をしてそわそわしていると、そんなに時間が経たずに、ジェイクがやってきたと連絡が入った。
私は、面会室へ急ぐ。
「ジェイク様!」
「リア、ジェイクだ。」
「…ジェ、ジェイク。」
「リア、会いたかった。手紙とハンカチありがとう。」
「喜んでもらえて良かったです。」
「大切にするよ。」
「はい。」
ジェイク、騎士服のままだわ。
仕事終わりでそのまま来てくださったのね。
…格好いい。
思わず、自分の口を抑える。
「どうした?」
「い、いえ。念願叶いまして…。」
「念願?」
「ジェイク!」
「あ、ああ。何だ?」
「お願いがございます。」
「いいぞ。何でも言ってくれ。」
「体術訓練をお願いしたいのです。」
「は?」
「最近、お茶会ばかりで体が鈍ってしまっていて…。あ、でも仕事終わりで疲れていらっしゃいますよね…。」
「いや、大丈夫だぞ。俺も体を動かしたい。」
「ありがとうございます。」
ふたりは外へ出ていく。
それを見ていたライラは溜息をついた。
「せっかくのいい雰囲気が…。」
「プルメリア様だから。」
どこからともなく、ノアの声が聞こえた。
「…そうね。行くわよ。」
私と、ジェイクは外へ出て来た。
「この辺りか。」
人通りはない、少し開けた所まで来た。
「リア、そのままで良いのか?」
「はい。このままで。」
「では、始めよう。」
「お願いいたします。」
私とジェイクの手合わせが終わると、
「プルメリア様、こちらを。」
ライラが、2枚のタオルを渡してくれた。
「?」
「2人分でございます。」
!
「ジェイク。こちらをどうぞ。」
「ありがとう。」
「ライラは、よく気がつくのです。」
「そうか。」
「お付き合い頂きありがとうございました。」
「いや、こちらこそ、いい運動になった。」
私達は、汗を拭きながら敷地を歩く。
「プルメリア様、リカルド殿下がこちらへ向かっています。」
「ノア、ありがとう。ジェイク様どうしましょう。」
「俺が一緒にいるから大丈夫だろう。…直接、話さなくても良い。」
「それは、」
「エメラルド隊長?」
「リカルド殿下。」
すぐに頭を下げ、礼の姿勢をとる。
「何をしているんだ?」
「婚約者に会っていました。」
「婚約者?」
「はい。」
「貴方は…、同じクラスのオパール嬢だったか。」
「はい。」
「なぜそんなに汗まみれなのだ?…まさか!」
「手合わせをしておりました。」
「そ、そうか。エメラルド隊長も、男だからな。」
「なにか誤解をなさっていませんか?」
「誤解?」
「はぁ…。見せたほうが早いですね。リア、良いか?変な誤解は解いておきたい。」
「変な誤解ですか?」
「ゴホン…。そ、それは…、」
…分かってますよ。
私は前世の記憶もあるのです。どんな誤解なのか、大体の想像は付きます。
「いや、エメラルド隊長。人前でやる事では…。」
「リア、行くぞ!」
「どうぞ。」
リカルド殿下の目の前で、先程の手合わせを行う。
お互いの拳や蹴りが放たれ、避け、最後は私の蹴りで終わった。
それを見たリカルド殿下と周りの騎士は、ポカンと口を開けている。
我に返ったリカルド殿下が口を開く。
「ええっと、なんて言ったらいいか…。これは夢か?」
「いえ、違います。」
「婚約者だよな?」
「はい。」
「この国で、こういう事は珍しくないのか?」
この問には、周りにいた騎士の中のひとりが答えた。
「いえ、珍しいです!(しかも、ジェイクの動きについていけている。かなりの実力だろうな。)」
「グレイ…。殿下。これで失礼しても、よろしいでしょうか?」
「あ、ああ。」
「それでは、失礼致します。リア、行こうか。」
「はい。失礼致します。」
ふたり揃ってリカルド殿下から離れ、ある程度の距離を取ると、ジェイクはこちらへ向き直った。
「…付き合わせてしまって、すまなかった。」
「いえ、ちょっと楽しかったです。」
プルメリアはニッコリ笑う。それを見たジェイクは、思わずプルメリアの顔に手を伸ばした。
「どうかなさいましたか?」
「…綺麗だ。」
!!
「あ、ありがとうございます?」
「クッ。なぜ疑問系なのだ?」
笑われた!?
驚いた顔をすると、ジェイクは謝った。
「すまん。可愛くて。」
「ジェイク…。」
「ハンカチ、常に身につけておく。」
「洗濯はしてくださいね。」
冗談のつもりで言うと、ジェイクは真面目な顔で返してきた。
「使わんから大丈夫だ。」
「…本気ですか?使わなかったら、ハンカチの意味がありませんが。」
「持っているだけで癒やされる。」
「癒やし…。ジェイク、少し貸してください。」
「…返せよ?」
「私があげたものですよ!?」
「あははは!冗談だ。」
「もう!」
「ほら。」
ジェイクからハンカチを受け取ると、ハンカチを額に近づける。
「ジェイクが、身体も心も健康で過ごせます様に…。」
そう願いを込めた後、ハンカチに口付けをした。
!!
ジェイクの目が丸くなる。
「使わないのなら、お守りとしてお持ちください。」
「あ、ありがとう。」
ジェイクは、ジッと返されたハンカチを見ている。
手合わせをして汗をかき、タオルで拭いた為、化粧は落ちている。口紅もハンカチに付いていないはず…。あ!
「すみません!汗をかいた後にする事では、ございませんでしたね。洗濯して、またお渡しします!」
「いや!このままで!」
そう言うと、ジェイクはすぐに胸ポケットにハンカチを仕舞った。
「リア、俺は明後日からレオン殿下の元へ戻る。またすぐにこちらへ来るが、気をつけて過ごすんだぞ。」
「クスッ。お父様やお兄様のようですね。」
「嬉しくない…。」
「ふふふ。ジェイクもお気をつけて。」
ジェイクとはそこで別れ、私は少し離れて付いてきていたライラと合流した。




