14 ライアン復学
ジェイク様に手紙を出すと、そんなに日を置かずに返事が来た。
『リア、手紙ありがとう。無事についたようで良かった。そして花の件だが、そこまで大切にしてくれて嬉しく思う。俺も貰った手紙を糧に仕事に励むとする。』
はあ……。
手紙って嬉しいものなのね。
そう長くない手紙だが、嬉しくて何度も読み返してしまう。
よし!新学年、頑張りましょう!
そんな私のやる気を打ち砕く様な事態は、新学年の初日に起こった。
…「「「「おはようございます、プルメリア様、クレマ様。」」」」…
「おはようございます。」
クレマと二人でいると、声をかけてくれるようになった皆が挨拶をくれる。その中の一人が、前に出て来てオドオドと質問をしてきた。
「プルメリア様、ご婚約されたのは本当ですか?」
「えぇ。良く知っているわね。」
「そうなのですね。お相手は……。」
「ジェイク·エメラルド様よ。」
「え?」
「……ん?」
あれ?反応が…。
そこへ、復学したライアン殿下がやってきた。
「オパール嬢、久しぶりだな。」
「ライアン殿下、お久しぶりでございます。」
「次の婚約者はお前のようだな。よろしく頼む。」
「………は?どういうことでしょうか?」
「まだ知らされていないのか?全く、皆何をやっているのだ。」
「あの、殿下。私は、」
「ああ、良い。野蛮だとか気にするな。その見た目なら野蛮なことには目を瞑る。公の場で醜態を晒すような事はするなよ。」
「あの、殿下!」
「それではな。」
………全く聞いてないし。それにしても……
「どういう事なの?」
「プルメリア、あなたの婚約者って騎士団長様のご子息ではなかった?」
「そうよ。陛下からも承認されているわ。」
「あのぉ………」
「あ、ごめんなさいね。さっきの貴方の反応も不思議だったの。なにか知っているなら、教えてくださる?」
「はい。私が聞いたのは、ライアン殿下の婚約者にプルメリア様が決まったという事です。正式発表されるのも近いとか。」
「どうしてそうなったのかしらね。プルメリア、どうするの?」
「すぐに、お父様に手紙を書くわ。ライラ、部屋から道具を持ってきてくれる?」
「畏まりました。」
「お願いね。」
ライラはコクリと頷き小走りで取りに行った。
それを見送ると、先程の女生徒にお礼を言う。
「教えてくれてありがとう。」
「は、はい!失礼します。」
女生徒は顔を真っ赤にして、勢いよく頭を下げてから、皆のところへ戻った。
“プルメリア様にお礼を言われたわ!”
“良いなあ。”
“それにしても、婚約者が違うみたいよ。”
“そうみたいね。”
“あの、ライアン殿下でなくて安心したわ。”
“すぐに訂正に回りましょう。”
「これならすぐに間違った噂は無くなりそうね。」
「?クレマ、なにか言った?」
「いいえ、なんでもないわ。」
「そう?」
ファンクラブのやり取りは、プルメリアには聞こえていなかった。
実は、以前の殿下婚約破棄騒動の後、かっこいい+綺麗だと、プルメリアには密かに女生徒によるファンクラブらしきものが出来ていた。
周りは皆知っていたが、本人の耳に入れる必要は無いと話してはいなかったのだ。
そんなファンクラブの皆の奔走により、噂はすぐに消える事になる。
「クレマ、私このまま失礼するわね。」
「その方がいいわ。先生には言っておいてあげる。」
「ありがとう。」
私は、その場を離れ人気のないところへ移動した。
「ノア、ネーロいるかしら?」
「「はい。」」
「ライラにこちらに来るように伝えてほしいの。」
「畏まりました。」
そう言ってネーロが動き、ノアが残った。
「ノア。また噂の出処や内容を、詳しく調べてほしいのだけれど、可能かしら?」
「はい。しかし、確実性を持つためにひとつお願いがございます。」
「何かしら?」
「旦那様やスターチス様の影と、連携を取る事の許可も頂けますか?」
「もちろんよ。この噂の原因が学園内だけのはずはないもの。今から書く手紙にきちんと書くわね。」
「差し出がましい事を申し上げました。」
「何を言うの。意見を出してくれるのは有り難い事だわ。それにしても、あなた達にはいつも、忙しくさせてしまうわね。ごめんなさいね。」
「いえ、それが仕事ですから。仕事がない方が困ります。」
クスッ
私は、思わず笑ってしまった。
「それもそうね。…でも、気をつけてね。危ないと思ったら、逃げなさい。」
「……はい。」
少しすると、ライラとネーロが戻ってきた。
「プルメリア様、お待たせ致しました。」
「ありがとう。さてと、書きましょうか。」
「こちらを。」
ライラは、薄い板とシートを出した。
「さすが、分かっているわね!」
私は、平らな所にシートを敷き座り、板を膝の上に乗せる。
この世界でこのような事は、はしたないとされるが、誰も見ていないし、家でもピクニックをしたりする時にこの状態なので今更だ。
私が手紙を書いている間に、ノアとネーロは話し合いをして、ノアがその場から離れた。
「書けたわ。ライラ、速達で頼んでくれるかしら。」
「ネーロに届けさせますか?間を挟むより早く着くかと。」
「そうね。ネーロ、お願いできる?」
「はい。しかし、プルメリア様はおひとりになりませんよう。」
「ええ。今回の裏側がわからない限り注意するわ。」
「……(今回に限らず)お願いします。」
そう言うと、ネーロはその場から消えた。
「さてと、授業に戻るには中途半端だし、部屋に戻りましょうか。」
「はい。」
「……………手紙、部屋で書けばよかったわね。」
「そうですね。」
「今、気づいたわ。」
「プルメリア様は、そういう所抜けていますよね。」
「ノアとネーロを呼ぶために人気のない所へ行かなきゃと思ったのと、ライラに既に部屋に道具を取りに行ってもらっていたから、部屋に行くという頭にならなかったわ……。二度手間ね。ライラ、ごめんなさいね。」
「そんな所も愛らしく、何も問題ありません。」
「ん?愛?…ありがとう?」
なんか、反応に困るわね……。
ライラもオパール家使用人の例にもれずプルメリアの事が大好きだった。
部屋に戻ると、お茶を飲んで気持ちを落ち着かせ、頭を整理する。
今、分かっていることは…
私の婚約者が間違って伝わっている事。
ライアン殿下も私を婚約者だと思っている事。
正式発表はされておらず、噂どまりだという事。
正式発表していないのは、私とジェイク様もそうよね。私の社交界デビューで正式に発表する予定だし。
この世界で社交界デビューは18歳。学園の最終学年の時になる。
エメラルド家が、王家に連なるものとは言っても、王家では無いのでわざわざ大々的に発表はしないのだが、舞踏会でエスコートし、婚約したと参加者に知らせるのだ。
まぁ、他の貴族含め大体は、他の縁談を断ったり、ふたりでいる所を見られたりする事で知れ渡るので、婚約を知らせる頃には皆に知られている事も多い。
私の場合、他の縁談話は来てないし、ジェイク様と外で会ってもいないから、婚約者ができた事を彼女達が知っていた時点で、おかしいとは思ったのよね。
でも、ジェイク様の方から噂になる事もあるかもと思ったのよ。だって、あんなに良い人に今まで縁談がないはずないもの……。
実の所、プルメリアは変わり者と言われても見た目と家格が良く、ジェイクも女性に無愛想だが家格が良いため、ふたりとも来る縁談は多い。
しかし、プルメリアは家族が全て断り、ジェイクは本人が興味ないと断っていた。
相手がライアン殿下……。
何故?どこから出た話かしら。
変な策略とかじゃないなら良いのだけれど…。
「とにかく、手紙の返事を待ちましょう。その間に走るのは……。」
ライラをチラリとみる。
「今、学園は授業中ですよ。」
「そうよね。クレマがどう言ってくれているか分からないけれど、変に目立つのは駄目よね。」
「はい。」
「体術の、」
「プルメリア様。」
「……はい。」
「………」
「………」
「もう!落ち着かないのよぉ~!」
私は、机に顔を伏せた。
「お茶のおかわりはいかがですか?」
「……………頂くわ。」
ふぅ…。
顔をあげて、息を吐く。
「本当にどうなっているのかしら。」
「すぐに分かりますよ。」
「そうよね。我が家は皆、優秀だから。」
そして、その日の午後にはネーロが手紙の返事を持って帰ってきた。
『リア、心を痛めていることだろう。安心しなさい。リアの婚約者はジェイク·エメラルドだ。王家には、我が家から抗議する。噂の出処は、そうかからずに報告できると思うよ。』
「王家に抗議って…。お父様大丈夫かしら。」
「それは、大丈夫ではないかと思われます。何せ騎士団長のエメラルド家もいますし、国家情報を握るオパール家ですから。逆に王家が危ういかと。」
「まさかぁ。流石に王家に何かしないと思うわよ?」
手紙から視線を上げ、ライラの方を見ると真顔で立っている。
「え?本気?」
「はい。プルメリア様は愛されていますから。私達だって、あのバカ殿下に報復する許可が与えられたなら、すぐにでも…」
ネーロもコクコク頷いている。
「ちょっと待った!駄目よ!?」
「はい。まだ致しません。」
「まだって……。」
オパール、エメラルド両家の家族に限らず、プルメリアの事が大好きな皆は、この事態に腹を立てていた。




