10 婚約破棄騒動
「そう…。ありがとう。引き続きお願いできるかしら。」
「畏まりました。」
私は、ノアから報告を受け確信する。
前世の記憶持ちね…。
前回のプルメリアは、ライアン殿下の婚約者で悪役令嬢という所かしら。
はぁ…、転生の話の時からまさかとは思っていたけれど、前世で見た小説のような話ね…。
前世での病院生活で調子がいい日には、色んなジャンルの本を読んでいた。
この転生の話を受けるとき、頼まれたから断りづらいというのもあったが、読んだ本の中に転生物もあったので、案外スムーズに決断できたのだ。
それにしても、記憶を持って産まれるのは、稀なのではなかったかしら?同じ時にふたりもいるなんて、番人さんはちゃんと仕事をしているの?
《ごめんね~。約束は守っているから、後はよろしくお願いしまぁす。》
何処からともなく、声が聞こえる気がする。
…………………気のせいか。
とにかく、どうすればいいか分からないし、いつも通り過ごすしかないわね。
「よし!走ろう!」
ついでに体術の訓練もしておこう。
「ネーロ、訓練付き合ってくれる?」
「はい。」
私は学園の敷地内を走った。
それを見た生徒たちは相変わらず色々話しているが、気にせずドレス&ハイヒールで走る。
そして、そのままネーロと体術の訓練もする。
「プルメリア様、右がガラ空きですよ。」
躊躇なく、拳(寸止め)が入る。
体術を始めた時は、私を相手をする事に躊躇していたし、手加減満載だった。しかし、何度も行っている内に、徐々に今の状態までになった。手加減はされているのだろうが、前よりきちんと相手をしてくれるようになって、認められた感があり、嬉しく思う。
それから、私は私らしく過ごした。
◇
あっという間に2年が過ぎた。
この2年、アンバー様から変な言いがかりをつけられる事はあったが、特に実害は無かった。
そんな中、アンナ様の卒業式の日に事件は起こった。
大勢の生徒や先生がいる中、ライアン殿下とアンバー様が腕を組んでアンナ様の前に立つ。ふたりの後ろには騎士もいた。
「アンナ、お前との婚約を破棄する!」
「何故ですか?」
「お前はクリスティーナを虐めていたそうだな。私の伴侶にそんな奴はいらない!」
「何を仰っているのか分かりかねます。」
「しらをきるのか?」
「私が何をしたと?」
「他の令嬢に指示をだし、暴言暴力をさせたのだろう!」
「全く身に覚えがありません。」
「ひどい!私はとても辛く、悲しかったのに!」
「クリスティーナ、大丈夫だ。私が守るから。アンナ、認めろ!認めれば国外追放くらいにしてやる!」
………………おおっと、見入ってしまった。小説の様な光景が目の前で繰り広げられるから、つい…。
周りも傍観している。
さてと、そろそろかな…。
「随分騒がしいな。卒業式が始まる時間は過ぎているぞ。」
「!!兄上!なぜ、ここに!」
「弟の婚約者の卒業式だからお祝いにな。」
取ってつけたような理由だが、まぁ何でも良いのだろう。
実は、影たちに調べてもらって分かった事だが、アンバー家は、クリスティーナを使ってライアン殿下を懐柔し、権力を得ようとしていた。
お父様にも連絡、お兄様と協力して証拠探し。さらに、脱税、密売を行っていた事が発覚。
クリスティーナの証拠はすぐに掴めたが、アンバー家の証拠探しに時間がかかってしまったようだ。
そんな中、卒業式に動きがあるのではと情報が入り、レオン殿下が待機していたと。
「さて、私は陛下の名代で来ている。なぜおめでたい日に、騒ぎを起こしたか説明しろ。」
すると、ライアン殿下は先程言っていた事と同じ内容を説明し始めた。
「それは自作自演だろう?自分の服や靴を汚していたのを見たと証言もある。」
「そんなはずないわ。誰もいないのを確認したもの!」
……バカなの?
許可なく口を開くなんて…。教育はどうなっているの?
それにその発言は、認めているという事になる事に気付かないの?
「はぁ…。ライアン、今ので分かっただろう。」
ライアン殿下は顔を青くしている。
「ライアン様?……証拠見せなさいよ!」
ライアン殿下が頼りにならないと分かった途端豹変。
「証言があると言ったのだけれど…。君もルビー嬢がしていたとの証拠を見せられるのかな?」
「私が証言するわ!」
「本人の言う事は、証言にも証拠にもならない。」
「チッ!」
わあ、舌打ち……。
でも、そうよね。自分が言う他に何も無いはずなのよ。全く虐められていないのだから。
アンナ様は、他の令嬢がクリスティーナを虐める事を良しとしなかった。妃教育で忙しい中でも、周りの令嬢の動きを察知し、クリスティーナに手や口を出す事を止めさせていたのだ。
「私が…私が見ました。アンナはクリスティーナに強く当たっていた。」
ライアン殿下……何を言い出すの……。
それは……
「当たり前の事だな。自分の婚約者にべったりでは苦言も言いたくなるさ。それは、罪にならんだろう。」
「……」
「ん?もういいのかな?……そうそう、アンバー嬢には、別件で聞くことがあるから、場所を移動しようか。ジェイク。」
「はっ!」
クリスティーナを連れに、ジェイクが動いた。
その時、ライアン殿下の後ろにいたひとりの騎士が、クリスティーナとジェイク様の間に入り斬りかかった。ジェイク様は応戦するが、その間にもうひとりの騎士が、クリスティーナを逃がそうとした。
私は、気づいたら走り出していた。
クリスティーナを捕まえようとすると、騎士が殴りかかってきたが…。
あれ?弱い……。
自然に身体が動き、返り討ちにしていた。
「リア!大丈夫か?」
「お兄様、大丈夫よ。アンバー様もネーロとノアが捕まえたわ。」
「普通、反対だろ…。」
“いや、どちらもしないだろう。”
誰かのツッコミが聞こえる。
クリスティーナと2人の騎士は、外に待機していた王宮騎士に連れられていった。
「皆、騒がせてすまなかったな。ライアンは連れ帰る。遅れてしまったが、卒業式を始めてくれ。」
そう言って、レオン殿下はその場を去ろうとしたが、ジェイク様が動かなかった。
「ん?ジェイク?おい!」
「ジェイクさん、行きますよ。」
「……」
「おい!ジェイク!!」
「ああ。」
「どうした?」
「いや、なんでもない…ありません。」
?ジェイク様、どうしたのかしら?
その後、関係者の処罰が発表された。
アンバー家は降格。当主と奥方、クリスティーナは死刑となった。
そして、ライアン殿下は騒ぎを起こしたとして当面の謹慎となり、アンナ様との婚約は白紙に戻された。
あの騒ぎから、女生徒は私に声をかけてくれることが増えた。そのため、学園生活は楽しく送れている。
「プルメリア様、準備ができました。」
「ライラ、ありがとう。行きましょうか。」
長期休みになり、私は家への帰路についた。
家に着くと、家族や使用人が迎えてくれる。
「おかえり、リア。」
「おかえりなさい。」
「待ってたよ。」
「お父様、お母様、お兄様、ただいまかえりました。皆も久しぶりね。休み中、またよろしくね。」
…「「「「「もちろんです!」」」」」…
皆の声が揃う。
嬉しくなって、にこにこしていると、お父様からの呼び出しがかかった。
「リア。少し休んだら、執務室に来てくれ。」
「???今からでも大丈夫ですよ?」
「それなら、今から行こうか。執務室にお茶を頼む。」
「畏まりました。」
なにかしら?
執務室に入ると、お茶も運ばれてきた。
「座りなさい。いくつか話すことがある。」
「はい。失礼します。」
「実は、スターチスの結婚が決まった。」
「まぁ!おめでたいですね。お相手は?」
「ジャスミン·フレバー嬢だ。」
「フレバー家といえば、エメラルド家の親戚筋でしたよね。」
「あぁ。遠い親戚だ。」
「……政略結婚ですか?」
「いや、恋愛だな。政略結婚だと駄目か?」
「いえ。お父様とお母様の様に仲良く過ごせるのであれば、ありだと思います。」
「そうか。それで、もう1つの話だ。ライアン殿下が休み明けに学園へ戻る。」
「そうですか。」
「興味はないか?」
「…………ライアン殿下の婚約者候補にでも名前が挙がりましたか?」
「!!聡いな…。その通りだ。」
「大方、ライアン殿下を制御出来そうな令嬢を、ということですかね。」
「あぁ。それも正解だ。………リアは、好いてる相手はいるのか?」
「いいえ。」
「そうか。いたら、すぐにでも婚約をと思ったのだがな。」
「居たとしても、私が好きなだけでは駄目ですよ。相手もある事ですから。」
「まだ、正式な話ではないから、興味が無いと陛下に伝えておく。………もし、もしだが、正式なものが来たら、断れないと思う。」
「王命になりますから、当たり前ですね。」
「すまん…。」
「お父様。まだ決まってないのですから、そんなに落ち込まないでください。」
「リア、相手は好きに探していいからな。……とは言っても、制限があるが…。」
「そうですね。………頑張ります?」
正式な話ではないにしろ。お父様が落ち込むなんて、候補筆頭なのね…。
どれくらいの時間があるのか。
……………すぐに恋なんて出来ないわよ。




