9 学園入学
3年後……
私は13歳になり、脚力と護身術に磨きをかけた。それから、日常の道具を利用した戦い方や、体術も教えてもらった。
「プルメリア様、もうそろそろ学園に着きます。」
「そうね。新しい生活はどうなるかしら。お兄様もクレマもいるし、楽しみだわ。」
私は今度、学園に入学する。
出発前には、お父様からオパール家についての説明があった。
国の情報を扱っており、命を狙われることも多いということだ。そのため、護衛騎士の他、影と呼ばれる忍者の様な人たちもいるのだと。影は情報収集も仕事のうちだそうだ。
そして、私が、護身術などを習うことを反対しなかったのも、本当に身を守る必要があったからだと言う。
学園では侍女や侍従は3人までと決められており、お父様と相談の結果我が家では家族持ちではない新しく入ったライラが付いてきてくれた。ライラはロバートとジューンの娘で、侍女教育を受けた17歳だ。
さらに、影の護衛がふたり付いてくれている。影は名前を公にしない為、私がつけた仮名のノアとネーロと呼んでいる。ふたりのことも、学園へ護衛として報告済みだ。
この3年、周りの環境で変わったことがある。
まず、カルアが結婚し、その後メイも結婚した。ふたりは辞めずに産休を挟みながらも、まだ我が家で働いてくれている。
そして、クレマとは家を行き来する仲になっている。お茶会の後、家に招待してくれたのが始まりだ。クレマは乗馬が好きなため、身体を動かすのを否とはしなかったのだ。
コンコンコンコン
馬車が止まりドアが叩かれる。
「着いたようですね。よろしいですか?」
「ええ、行きましょう。」
“あの馬車、オパール候爵家の……”
“変わり者令嬢か…”
“野蛮な猿の様なやつだろう”
ドアの隙間から噂話が聞こえてくる。
分かっていたことだけど、聞こえないように言うとか離れて言うとかしないのかしら…
しかし私が降り、前を見ると一瞬沈黙が起きる。
思わず周りを見ると、目を丸くしている人や口をあんぐり開けている人がみえる。
?どうしたのかしら…
不思議に思っていると、その人たちの間から見慣れた人がこちらへ近づいてきた。
「お兄様!」
「リア、久しぶりだね。元気だったかい?」
「はい。お兄様も元気でしたか?」
「ああ、元気だよ。さぁ、行こうか。」
お兄様は、学園の最高学年だ。1年のみだが、一緒に通えると思うと嬉しく感じる。
私はお兄様に案内や説明を受けながら、寮に向かった。その間もうわさ話は聞こえてくる。
「辛くなったら言うんだよ。」
「大丈夫ですよ。こうなるだろうと予想はしていましたし。」
「そうか。リアは強いな。」
「ここには、お兄様やクレマ、それに私を支えてくれるみんながいますもの。」
「うん、そうだな。色々言うやつには言わせておけばいい。」
「はい。」
「ちなみに、一つ上にライアン殿下がいるが、関わらなくていいからな。」
「分かりました。」
「近づくなよ。」
「近づきませんよ。」
校舎と寮は食堂を間にして、女子棟と男子棟に分かれている。そして、侍女·侍従は主の続き部屋で寝泊まりし、護衛などは隣接する棟に部屋を持つ。部屋での警護もあるので、申請されている者のみ出入り可能となる。生徒同士の行き来は認められていない。
「私はここまでだ。後で食堂で会おう。」
「はい、後ほど。」
ノアと、ネーロは敷地内を偵察しに行っている。私はライラと部屋に行き、ひと息ついた。
トントントントン
「誰かしら。ライラ、開けて頂戴。」
「かしこまりました。」
カチャ
ドアを開けるとそこにはクレマと、その侍女マルタがいた。
「プルメリア、元気だった?」
「ええ、元気よ。どうぞ、中に入って座って。」
クレマは中に入り椅子に座る。部屋は広く、ダイニングテーブルも置かれているのだ。ちょっとしたお茶会ができてしまう。
「私のほうが先についたのね。あなたも着いたと聞いて、会いたくて飛んできちゃった。」
「ありがとう。私も会いたかったわ。」
それから、クレマと昼食の時間まで話が尽きなかった。
「プルメリア様、昼食の時間でございます。」
「まぁ!もうそんな時間なの?クレマはどうする?」
「私もこのまま一緒に行くわ。」
そして、クレマと一緒に移動する。
食堂に着くとお兄様が見えたので、そちらへ向かう事にした。すると、目の前にライアン殿下と、知らないオレンジ色のふわふわした髪の女生徒がやってきた。
あら?ライアン殿下の婚約者は、アンナ様ではなかったかしら……。
「オパール嬢とアメシスト嬢か。」
「ライアン殿下、お久しぶりでございます。この度、入学することになりました。」
「私もプルメリア様と同じにございます。」
「そうか。ふたりとも入学おめでとう。」
「「ありがとうございます。」」
「………それでは失礼。」
不思議な間があったがライアン殿下は去っていき、その後ろをついていた女生徒はこちらをちらりと見たが、何も言わなかった。
「ねぇ、クレマ。」
「何かしら。」
「私、ライアン殿下の婚約者はアンナ様と聞いていたのだけれど…。」
「ええ。私もそう記憶しているわ。」
今のやり取りで私に気づいたお兄様が、手を挙げ私たちを呼んでいる。
「大丈夫だったかい?」
「お兄様、約束を早々に破ってしまいました。」
「うん、あれは仕方ないよ……。ふたりとも改めて入学おめでとう。アメシスト嬢はいつもリアと仲良くしてくれてありがとう。」
「いえ。こちらこそ、仲良くしてもらえて楽しく過ごせています。」
「ところでお兄様、ライアン殿下の隣にいた方は?」
「あぁ、クリスティーナ·アンバー嬢だよ。殿下と同じ学年。入学して少し経った頃からいつも一緒だな。」
「それって……。」
「確か、アンナ様は4年生にいらっしゃいますよね?止めないのでしょうか。」
「定期的に忠告しているみたいだよ。でも、変わらないみたいだね。アンバー嬢はルビー嬢を偽の婚約者呼ばわりらしいし。」
「なんてこと。」
「なぜ、偽などと…。」
「さぁ、そこは分からない。まぁ、とりあえず食事にしようか。」
「はい「いただきます」」
食事中には、他愛もない会話をして過ごした。
そして、食後はお兄様やクレマと別れ、ライラと一緒に散歩がてら、走れる所はないか探しに行った。一人でも大丈夫だと言ったけど、許されなかった。
その途中……
「アンバー様、何度も申し上げますが婚約者ではない方と、常に一緒にいるのは恥ずべき事です。自制された方がよろしいですわ。」
「ライアン様は、仲良くしてくれているだけですよ。友達です。変に勘ぐらないでください。」
「そういう事では…。」
うん。関わり合いたくないな…。
ライラと目で会話して、その場を去ろうとすると、そういうときに限って足元に小枝があるのはお約束。
パキン
すると、こちらにパッと視線が向く。
あちゃー……
「プルメリア様じゃないですか!あなたの取り巻きどうにかして下さい。」
クリスティーナ·アンバー様の言葉に私は固まった。
取り巻き?アンナ様が?
それにしても、私はあなたと自己紹介も何もしていないのですが…。知っているだけで、名前呼びというのはちょっと…。
引きつりそうな顔を引き締める。
「プルメリア様、アンバー様とお知り合いですか?」
「いいえ。挨拶をしたこともありません。」
これホント。食堂では、ライアン殿下としか言葉を交わしてはいない。
「そんなことは良いのよ!どうなってるの?ライアンの婚約者は貴方でしょ?どうして取り巻きが婚約者なのよ!それに縦ロールはどうしたのよ!?何だか美人になってるし、迷惑なのよ!!」
?何だ?褒められてる?
「………何を言っているのか分かりかねますが。」
「だからぁ!」
「いい加減になさいませ!ライアン様は私の婚約者です!それに、なんですか!ライアン様を呼び捨てとは!」
その時だ。
「何をしている。」
「ライアンさまぁ!この方たちが私を虐めるのです。」
アンバー様は、甘えた声でライアン殿下の名前を呼び駆け寄る。
「どういう事だ?オパール嬢、野蛮なのは変わっていないのだな。アンナ、何度言えばわかる?誰と仲良くしようと私の自由のはずだ。」
いやいや、婚約者には関係あるでしょう……
心の中でツッコミを入れながらも、口にも顔にも出さず空気になろうと頑張った。
「私はライアン様の婚約者です。」
「親が決めたな…。とにかくクリスティーナを虐めることは許さない。」
「虐めておりません。忠告しているだけです。」
「昔はもう少し可愛げがあったのに、最近は本当にうるさくなったな。」
誰のせいなのだろうか……
「オパール嬢、お前もクリスティーナに近づくな。」
近づいてないし、近づきたくないし…。
ライアン殿下は言うだけ言って離れて行った。
「アンナ様、これは一体どういう事なのでしょうか?」
「…………失礼致します。」
説明求む!
それにしても、縦ロールか…。
アンバー様ってもしかして…。
「プルメリア様。」
考え込んでいると、ライラの声で呼び戻される。
「ライラ、部屋に戻りましょうか。今ので疲れたわ。」
「はい。お茶を入れますので、休憩なさって下さい。」
「ありがとう。」
部屋に戻り、ライラが淹れてくれたお茶を飲みながら考える。
金髪に縦ロール…。転生の道で蹲っていたあのプルメリアの姿だ。
ライアン殿下の婚約者が違うとも言っていたし、アンバー様は、前世の記憶持ちと言うことかしら…。
先程の話の内容では、私がライアン殿下の婚約者でアンナ様は私の取り巻きということよね…。
「後でノアとネーロにお願いしてみようかしら。」
小声でつぶやくと…。
「お呼びになりましたか?」
どこからともなくひとりの青年が現れた。
「ノア、偵察は終わったの?」
「はい。只今ネーロは、スターチス様の影と情報交換をしております。」
「そう。いつもありがとう。あのね…1つお願いがあるのだけれど大丈夫かしら。」
「もちろんです。」
「クリスティーナ·アンバー様を調べてほしいの。少し気になるのよね…。」
「畏まりました。それでは早速行ってきます。」
「ありがとう。気をつけてね。」
ノアはその言葉に頷いて、姿を消した。




