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九十七話 破滅への序曲

「ストレイテナー、どういうつもりだ?」


 ミッドグランドで離れ離れになってしまったのち、ニコラス王によって洗脳されたと聞いていたストレイテナーと、まさかこんなところで再会するとは思わなかった。


 だが彼女が何故、突然自分を攻撃してきたのかを不審に思い、恭介はそう尋ねる。


「ゴルムア王の危険を確認。対象を排除します」


 ストレイテナーは機械的な言葉でそう呟くと、


「≪エクス・カリヴァー!≫」


 再び、恭介へと聖なる属性の斬撃波を放ってきた。


 エクスカリヴァーは斬撃系スキルの中で最速だ。以前の強化された恭介の動体視力ですら追いつけない速度を誇る。


 しかし今の恭介にとっては、それを避けるのは造作もなかった。


「……そうか。本当に操られているんだな」


 彼女の目とクライヴの目を見て、これがニコラス王による洗脳であると恭介は理解する。


「危険は排除します」


 ストレイテナーは同じ言葉を繰り返しながら、アドガルド城の2階テラスから、タンッと勢いよく飛び出して右手に聖剣を宿しながら、恭介へと向かってきた。


「やめろ、ストレイテナー! 僕だ! わからないのか!?」


 恭介の静止する言葉は欠片も届かず、ストレイテナーは高速で斬りかかる。


「いいぞ! やるのだ、聖剣の勇者よ!」


 庭園ではゴルムア王含め、多くの兵士たちがストレイテナーを応援している。


(……なるほどね。こりゃあ完全にミッドグランドとアドガルドは手を組んだってことか)


 冷静に状況を理解しつつも、ストレイテナーからの攻撃を恭介は難なく回避し続けた。


(……九、十、十一……か。宙にいる数秒でよくもまぁこれほどの斬撃を繰り出せるな。さすがは勇者)


 しかしそこまで。


 十一度目の斬撃を放ったところで、ストレイテナーの身体は重力に負け、地面へと落下していく。


 だが、当然のように地面に着地した直後、再び大地を蹴り、宙に舞う恭介へと斬りかかった。


「ストレイテナー! 聞こえてないのか!?」


「脅威は排除します」


 恭介は何度もストレイテナーへ言葉を投げかけるも、その声が彼女の心に響く様子はない。

  

(……こんなところで無駄な時間を食うわけにはいかないな)

 

 そう思った恭介は、このまま回避し続けることをやめようと考えた。


 そして。


「危険は排除しま……」


 次の斬撃が来た瞬間に合わせて、


「≪マインドブースト≫」


 恭介は加速を開始。


 加速状態のまま恭介はクライヴとミネルヴァを一旦人目のつかない城の屋根に置き、そして再びストレイテナーの目前へ現れる。


 このまま加速状態でストレイテナーも連れ去ってしまえばいいかと考えた直後。


 ズキン、と響く鈍い痛み。


「……ッう!? く、くそ、使いすぎたか」


 久々に訪れる激しい頭痛である。


「し、仕方ない……≪マインドブースト・オフ!≫」


 加速を解除すると同時にストレイテナーの猛攻が再び始まる。


 だが。


「……っくは!?」


 聖剣を振るったその隙に、背後へと回り込んで彼女の首元に相当に手加減をした手刀をトンっと当てる。


「両手が空けば、どうとでもなる」


 ぐったりとしたストレイテナーを恭介は抱きかかえた。


「……おっと、ふう。死んでない……よな?」

 

 力の加減を間違えると首を切り落としてしまいそうだと思ったが、それなりにうまくいったようだ。


「よし、もう一度だ≪マインドブースト!≫」


 再び加速を開始。


 今度はズギン、ズギンと激しい頭痛が最初からあった。


「うぐ!? や、やっぱりこれは……う、く……れ、連続の使用はヤバそうだ……」


 恭介は急いで先程ミネルヴァたちを置き去りにした屋根に戻り、ミネルヴァとクライヴの二人を片腕で掴む。

  

「よ、よし、≪マインドブースト・オフ≫」


 そして加速を解除する。


 ズギン、ズギン、ズギン、ズギン。


 頭に響く頭痛がかつてないほどに激しくうずく。


(う……ぐ。こ、これは……ちょっとヤバいかもな)


 あまりの激痛に気を失いかけるも、なんとか気力で堪える。


「……お、王女と聖剣の勇者は……ぼ、僕が貰い受ける!」


 頭痛に耐え、恭介は声をあげた。


「……ご、後日。改めて僕からの要求を提示する! それまで待っていろ……ッ!」


 恭介はそれだけを言い残し、ストレイテナーとクライヴ、それにミネルヴァ王女の三人を抱きかかえて、空高く舞い上がりアドガルド城を後にしたのだった。




        ●○●○●




「……一体何があったのだ? ゴルムア王」


 転移魔法にて、先程アドガルド城の転移点である地下室に到着したニコラス王は、城内の騒然とした様子と美しかった庭園の一部が焼け焦げていることを確認し、玉座で難しい顔をしているゴルムア王にそう尋ねた。


「魔王の少年にミネルヴァを(さら)われたのだ……」


「な、なんだと!? 奴が現れたのか!?」


「うむ……このままでは大変なことになる……」


「吾輩が置いて行ったストレイテナーとカシオペアはどうしたのだ?」


「ストレイテナー殿も攫われた。カシオペア殿は見ておらぬ……」


「……なんということだ」


 サンスルードのイニエスタを潰したのち、魔王の少年を手懐けようと考えていたニコラスにとって、これは大誤算と言える。


 優秀な戦力であるストレイテナーも奪われ、カシオペアもいなくなっている。


 更に詳しく聞けば、アドガルドの精鋭魔法師団も壊滅させられたとのこと。

 

 ニコラスは不穏な空気を感じ取る。


「……ゴルムア。まさか貴様、ミネルヴァ王女のためにその魔王の少年にへりくだるつもりであるのか?」


「……ミネルヴァだけは取り戻さねば……不味い」


「聞いているのか、ゴルムア? その魔王の少年から、何かしらの要求がなされるのであろう? 貴様はそれを受けるのか、と聞いている」


「そんなことは……せぬ……」


 しかしゴルムアの言葉に力はなく、玉座でうなだれたまま、ニコラスの問いかけに答える。


「だが、今の茫然自失とした貴様を見ていると、ミネルヴァ王女を取り戻すためにその選択をしかねん様に見える」


 そんなゴルムアをニコラスは怪訝な表情で見据える。


「違うのだ……」


 ゴルムアは首を少しだけ左右に振った。


「違う? 違うとはなんだ?」


「お主らは知らんのだ……ワシが懸念しているのはそんなことではない……」


「何を……言っている?」


 ゴルムアは顔色を青ざめさせたまま、冷や汗を流す。


「なぜこんなことに……このままでは……大変なことに……」


「おい、ゴルムア? どういう意味だ? 貴様は何を言っているのだ?」


「ミネルヴァ……ミネルヴァ……」


 自分の問いかけをまともに返さないゴルムアに対し、苛立ちを覚えたニコラスはズンズンとゴルムアの目の前にまで歩み寄り、


「おい! 聞いているのかゴルムア!? 何が、どう不味いというのだ!? 答えろッ!」


 頭を抱えるゴルムア王の胸ぐらを掴み上げ、怒号を放つ。


「こ、このままでは……滅んでしまうのだ……」


「な、なん……だと……?」

 

「ミネルヴァを……取り戻さなければ……」


「ミネルヴァ王女を取り戻さないと滅ぶ、とはどう言うことだ!? 詳しく話せ、ゴルムアッ!!」

 

「……そのままの……意味だ……」


「なんだそれは!? それはただ貴様が愛する娘を奪われ、殺されるかもしれない喪失感がそう言わせているだけの話であろう!? それとも何か? 本当にこのアドガルドが滅ぶとでも言うのか!?」


「アドガルドが……?」


「貴様がそう言ったのだろう!? 違うのか!?」


「違う。アドガルドの話ではない」


「ではどこが滅ぶと言うのだ!?」


「……世界全て、だ」


「な、なに?」


「滅ぶのはこの世界全て。オルクラが滅ぶのだ」


「な、何を言っているんだ貴様は……? 意味がわからぬッ!!」


「お主らは知らんのだ……ワシが……ワシがどれだけ大事にミネルヴァを愛してきたかを……」


「そんなことは三カ国の王たち皆、知っているッ!!」


「……っふ。くく、くくく。お主らが知っている……? 笑わせるな。お主らは何も知らぬ。ただの舞台の『駒』にしか過ぎん癖に、知った風な口を聞くでない」


「なんだと!? ではなんだと言うのだ!? 答えよ、ゴルムア!」


「ミネルヴァが死ねば、世界は終わる。ミネルヴァが生きていようとこのままでは世界は終わる。どちらにしても滅びしかない。その均衡をワシと教祖さまでこれまで保ってきたのだ」


「教祖さまだと!? メヴィウスさまのことか!?」


「しかしワシの手を離れてしまった。もはやあとは運を天に祈るほかないのだ……」


 ゴルムアは顔色を青ざめさせたまま、ニコラスの言葉をまともに聞こうとしない。


「おい! ゴルムア!? もっと詳しく話せ! 話さぬかぁ!!」


 ニコラスは困惑の中、ぶつぶつとひとりごちるゴルムアを睨みつけ、


「……何が……どうなっているというのだ……!?」


 得体の知れない焦燥感と恐怖に包まれたのだった――。




        ●○●○● 




「はぁッ! はぁッ!」


 アドガルド城の2階。


 空き部屋の一角で身体を震わせ、冷や汗を流しているのはミッドグランドの聖騎士団長のカシオペアだった。


「う、動けなかった……」


 カシオペアはストレイテナーが魔王の少年へと斬りかかったのち、彼女が手刀で難なく気絶させられるまでの一部始終を見ている。


「化け物だ……」


 それは恭介のことでもあった。


 しかしカシオペアはもし、いざ≪マリオン≫化したストレイテナーがやられてしまった場合、もはや君主の命に背いてでもディメンションケージを使って魔王の少年を葬ってしまおうと考えていた。


 自分が如何なる処分を受けようと構わない、とさえまで考えた。


 そしてついにストレイテナーがやられて捕縛されたその時。


 カシオペアは見てしまった。


「あ、あの瞳は……」


 目が合ってしまったのだ。


 魔王の少年の腕に抱えられたミネルヴァ王女と。


 その王女の金色に光る瞳と。


「あ、アレは一体なんなんだ……!?」


 その瞳を凝視した瞬間、カシオペアの身体は硬直し、動けなくなってしまったのだった。


「ば、化け物どもめ……ッ」


 そんな自分を不甲斐なく思いつつも、いまだに身体の震えが止まらない自分への苛立ちが募る。


 だがそれ以上に膨らむ不安感。




 それは、二人の理外の存在が、今後この世界をどう変えるのか、変えてしまうのかの未来を想像して。





 皆様、いつもご拝読賜りまして、まことにありがとうございます。


 そして読んでくださるほか、たくさんの評価やブクマをも賜りまして本当に嬉しい限りです。とても励みになります。ありがとうございます。


 今後も毎日更新を可能な限り心がけていきますので、どうぞ生暖かく見守ってもらえれば幸いです。


 いつも本当にありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願い致します。

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