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九十五話 王たちの画策

「……それはなんの冗談だ?」


 恭介は少しだけ間を置いて、ゴルムアの言葉にそう返す。


「冗談などではない。我らと共にこの世を統べようぞと話しておるのだ」


 ゴルムアは淡々と言い放つ。


 アドガルド城、正門を抜けた先にある大庭園にて、恭介はアドガルドの支配者である絶対王ゴルムア・ルドア・アドガルドにそう告げられていた。


 その言葉の真意を見抜けないのは、今現在、目隠しをされゴルムアの目を見ることが適わないからである。


「あなたは世界を統べるほどの力を持っておりますわ。その力をぜひ、私たちの役に立てて頂きたいのです」


 今度はミネルヴァ王女が、諭す様に恭介へそう告げる。


「……あんたは確か、王女さまだったかな?」


「ええ、そう。私はミネルヴァ。このアドガルドの絶対的支配者。そして、近い将来にはこのオルクラを支配する者ですわ」


「……裁判の時は、たくさん殴ってくれてありがとうよ」


 恭介は皮肉を込めてそう言った。


「あの時はただのゴミクズ奴隷に過ぎないと思ったのですけれど、人は見かけによらないとはよく言ったものですわね。あなたのような、(きたな)らしくて(けが)らわしい矮小な存在が、よもや神たる可能性すら垣間見せるなんて……」


「神たる可能性? なんの話だ?」


「とぼけるのは無駄ですわ。あなたには、神たる資質である『神素(しんそ)』を保有しておりましたわ。それも膨大なマナと共に」


「……神素」


 恭介は自身のステータスを思い出す。


 ディバインドデスを反転吸収した究極強化状態のステータス時、特性の一部に『神素』というものがあった。


 それがなんなのか恭介にはわからないが、目と鼻の先にいるこの王女は何かを知っている様な口ぶりである。


「あれほど大きな神素を持っていて、この世を統べないなんて選択肢はありえませんわ。しかしながら、あなたはそのための知恵も術も知らないでしょう? だから、(わたくし)たちと手を組まないかと言っているのです」


 恭介は言葉の端からなんとなく察した。


 王女たちは自分が究極強化(アルティメットバフ)した時に放っていた、黄金のオーラを見て、こう言っているのだ、と、


 つまりあの黄金の輝きに『神素』たる要素の何かがあるのだと考える。


「……手を組む、ね」


 恭介は彼女のその言葉に、さまざまな感情を覚えた。


「つまらぬ正義感など捨てよ。つまらぬ懐疑心など捨てよ。そしてつまらぬ情など捨てよ。そなたには、我らと同じく王たる器があるのだ」


 ゴルムアはそれを見透かすように、ミネルヴァの言葉に続ける。

 

「そうですわ。過去のことはお互い忘れましょう? 今後の未来についての、建設的なお話を進めましょう? それがお互いのためになると思いませんこと?」


「お互いのため……ね。僕があんたらと手を組むと、何か良いことがあるのか?」


「全てが手に入りますわぁ」


「全て?」


「ええ。あなたが私たちと共に歩むと決めれば、この世の全てが手に入るのは間違いないですわ。あなたは好きなモノを食し、好きな女を犯し、好きな場所へ行き、好きなモノを壊し、好きなモノを手に入れることができる。つまり、この世の全て、ですわ」


「つまり僕の欲しいモノは必ず手に入る、と?」


「ええ、そうですわ」


「……」


 恭介は少しだけまた黙して、考える。


「……なんであんたらは、世界を統べたいんだ?」


「世界平和の為ですわ。皆、それぞれに抱える多くの悩みのもとに争いが起こり、そしてその種が尽きないからこそ、この世は歪み、そして苦しんでいる。それを私たちが粛清(しゅくせい)し、正しい方向へと導くのですわ」


「へえ。世界平和のため、か」


「ええ。共に歩む気になりましたかしらぁ?」


 恭介は小さく笑って、


「っふふ、そうだな、それも面白いかもしれないな」


「あら? 思いのほか、あなたは懸命ですわね?」


「あんたたちと手を組むことで、僕に大きな利があるなら、それもやぶさかではないさ」


「まあ……!」


 ミネルヴァ王女は瞳を輝かせ、声を上げる。


「そのための条件を飲んで欲しいんだが、それは聞いてもらえるか?」


 恭介のその問い掛けに、今度はゴルムア王が反応した。


「……なんだ? 申してみよ」


「なに、大したことじゃない。条件はたったの二つ。飲んでくれさえすれば僕はあんたたちと手を組もう」


 恭介は内心、ほくそ笑みながら次の言葉を紡いだのだった――。




        ●○●○●




「……よし、整ったぞ」


 ミッドグランド王宮の地下研究室にて、ニコラス・シャルル三世は、血まみれの手でひとり呟いた。


「これでエキスパンションマインドジャックの条件はクリアだ。今回は時間を掛けたからな。マナの大きな者でも≪マリオン≫化できるであろう」


 サンスルードへ攻め込む準備として、ニコラスはひとりミッドグランドに残り、自身のエキスパンション・マインドジャックの術式準備を執り行なっていた。


 このユニークスキルの正確な意味は、通常の技法として行なうマインドジャックを大幅に拡大化、強化することができる、という意味である。


 そもそもマインドジャックには必ず多くの生贄が必要だ。


 成人の、一般的なマナ量を保有する大人ひとりをマインドジャックするのに必要なコストは、成人の大人三人分の命である。


 このコストを支払う方法は単純で、事前に指定の魔法陣の上でその生命を殺せばクリアであり、死に方等は問わない。


 術者が命を三つ奪うたびに、自身の中でマインドジャック一回分がストックされる、といった感じだ。


 オルゴウムが行っていたマインドジャックもそのストックを消費していたものであり、つまりマインドジャック技法を扱うものは、必ず人を三人以上は殺している。


 厳密に言うと、命を奪った後に発生する魂三つ分がそのコストとなっているため、こうして死んだ者たちは『転生』することが適わない。


 だからこそ、この技法自体も禁忌とされていた。


 しかしミッドグランドはこの禁忌を破ることをニコラスが許していた。


 この世を混沌に陥れる可能性があるアンデッドを有効活用する、という名目を掲げて。


 そのニコラスのエキスパンション・マインドジャックは更にそのマインドジャックを強力にしたものであり、当然その対価も大きい。


 ニコラスの場合、一回の発動に対して、十人の魂が必要であり、更にはその技法を扱える状態になるまで、魂を捧げてから72時間は必要なのである。


 その他にもさまざまな条件もあり、それらをクリアして初めてニコラスはエキスパンション・マインドジャックを使用可能となる。


 その代わりコレの威力は絶大で、相当に膨大なマナを持つ化け物であろうと、術式範囲内の対象全てを同時にマインドジャックしてしまえるのだ。


「……これで仮にどこかのタイミングで魔王の少年が現れたのなら……確実に我が物にする」


 ニコラスは直感していた。


 必ず自分の前に、イニエスタと共に魔王の少年が現れるであろうという予感を。


「それを成せば、アドガルドが我が手に落ちるのも時間の問題よ……」


 ニコラスは血まみれの手を、ボロ布で拭き取りながら不敵に笑う。




        ●○●○●




「ビギントゥマリオン『ストレイテナー』」


 カシオペアが呟く。


「命令をどうぞ」


 力なく座り込んでいたストレイテナーが、棒読みの声で言った。


「ミネルヴァ王女とゴルムア王を監視し、危険を感じたらその脅威を排除せよ」


「……命令を受諾致しました。カシオペアさま」


 カシオペアは≪マリオン≫化したストレイテナーをトリガーワードで起動したのち、そう命令をくだす。


 ストレイテナーは言われた通り、アドガルド城2階の窓から、庭園にいるゴルムアたちの目視を開始する。


「……魔王の少年」


 カシオペアはギリっと奥歯を噛む。


「もしあのような者の力を借りたなら……この世は滅んでしまうかもしれん」


 カシオペアは望んでいた。


 もし可能なら、この手に持っているディメンションケージですぐにでも魔王の少年を別の次元に飛ばしてしまいたい、と。


 だがそれは、自分の君主に止められている。


 野望高き君主は、なんとしても魔王の力を欲しているからだ。


「……果たしてニコラスさまのマインドジャックでも、あの少年を本当に≪マリオン≫化できるのだろうか」


 魔王の少年の力を目の前で感じ取ったカシオペアには、あの少年の異常なまでの力を恐れている。

 

 サンスルードやアドガルドという国と争うよりも何よりも、あの少年ひとりと戦うかもしれないことを恐れている。


 そのぐらいカシオペアはあの時の恐怖心が忘れられないのだ。


 そしてその恐怖の対象が今、身近にいる。


 自分は今日、殺されるかもしれないという恐怖と共に。


 死ぬ前にもう一度だけ会いたかった人のことを思い出したカシオペアは、懐から小さなロケットのついたペンダントを取り出し、




「……ロキシー」





 そこに入っている小さな古い写真に写された、幼き少女を見てカシオペアはそう呟くのだった。


 




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