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六話 ペットにアンデッドはいかがですか?

『さて、そんなわけで私はそろそろマナ切れなので、また恭介の中に引き篭もります』


「マナ切れ……?」


『私は声だけでも顕現させるのに、かなりのマナを消費するのですよ。恭介の中で眠って、またマナを貯めさせてもらいます。恭介の中はなかなか居心地が良いですから』


「な、なんか嫌だなー……」


『今後、なにかあれば私がまたガイダンスはしてやりますが、それ以外では私はあなたに極力関与しません。それはこの世界の(ことわり)を崩してしまう行為になりかねないので。それでは』


 ダスクリーパーは、ひとしきり恭介のスキルについて話し終えて消えようとしたので、最後に恭介は「自分の体から出ていかないのか?」と、尋ねると『興味深いからしばらく観察する』と言っていた。


 正直わけのわからないものが体内にいるのは、あまりよい気分ではないが。


 そしてダスクリーパーの気配が消えた直後。


「ワ……ワイトディザスターさま……愚かな……この私めを……どうかお許しください……」


 それまでずっと黙っていたジェネラルリッチが、頭をあげて恭介にそう言った。


「え? ワ、ワイトディザ……?」


「あなたさまは……やはり……ワイトディザスターさまで……ございました」


「いや、違うけど」


 先程までとは打って変わって、ジェネラルリッチはその威圧さを全く無くし、今はむしろ媚びるような視線を恭介に向けている。


「ダスクリーパーさまと……対等に意思疎通ができるお方は……この世界でただひとり……それは我らアンデッドたる者の頂点に君臨する……ワイトディザスターさま以外他なりませぬ……」


「いや、違うって。僕アンデッドじゃないし」


「アンデッドを……超越した存在……。死の先を行く者の王……それがワイトディザスターさまにございます……ダスクリーパーさまもそう……仰っておりました……」


「ああ! もう! お前はなんか会話が遅いし、言いたいことが良くわからない!」


 こんな調子でしばらくの間、ジェネラルリッチと恭介は押し問答をしていたが、まとめると、ワイトディザスターというのはいわゆる称号のようなもので、アンデッドのみならず魔族たちも含めた頂点に立つ者をそう呼ぶのだそうだ。


 このジェネラルリッチは、現段階ではこの世界でトップクラスのアンデッドだが、ジェネラルリッチに並ぶほどの上位アンデッドは他にも何種類かいる。


 その中で、ずば抜けて優れた者がワイトディザスターとなるのだそうだが、このジェネラルリッチは恭介のことをそうだと思い込んだらしい。


「そんなわけで……私も……お邪魔します……」


 ジェネラルリッチはそう言いながら、ペコリ、と頭を下げると、人型形態を崩し、細かな粒子状となってスゥーっと恭介の体の中に入っていった。


「うわわわ!? な、な!? どういうつもりだよ!?」


 自分の中に何か異物が入り込む、気色の悪い感覚を覚える。


『私めのことは……ジェネとお呼びください……』


 すると、ダスクリーパーの時と同様に、恭介の頭の中から声が響いた。


「いやいや、そんなことは聞いてないぞ!」


『私は……百年も前から心に……決めておりました。今の混沌とした世を統べる……王が現れた時……そのお方に一生仕える……と。私は……あなたの命ずるがままに……働きます……』


 それだけを言うと、スゥーとジェネラルリッチも気配を消した。


「マジか……お化けに取り憑かれるのと一緒だ……」


 そんなわけで恭介は、この痩せこけた少年の器に、ダスクリーパーという神様的な存在、ジェネラルリッチという災害級上位アンデッドと同棲することになったのだった――。




        ●○●○●




 ――その後。


 気を失っていたマリィを担ぎ、王都に無事帰還した恭介が酒場に戻ると、その帰りを待ち侘びていた兵士の男ロベルトに、再三謝辞を告げられた。


 ジェネラルリッチのことは説明がめんどくさかったので、その化け物とは遭遇しなかったために運良く彼女を救い出せた、ということにした。


 酒場の中でクライヴらの姿を探したが、見つけることはできなかった。まさかジェネが食べてしまったのではと心配になって尋ねたが『昨晩は恭介さま以外は、誰一人殺せていない』と言っていたので、ひとまずホッと胸を撫で下ろした。


 ロベルトに「お礼にウチに泊まっていって欲しい」と言われどうするか少し悩んだが、まだ目を覚さない彼女に事情を説明したかったのもあり、彼の申し出をありがたく受けた。




        ●○●○●




 ――翌朝。


(……困ったぞ)


 恭介は内心、死ぬほど困り果てていた。


 むしろ死んだら、この悩みを解決する方法を思いつくかも、などという少々間違った考え方すらしていた。


「本当にいいのですか? 国の兵士である私を救ったことを報告すれば、多少なりとも褒美がもらえるんですよ? 恭介さんさえ考え直してくだされば、私が王様に恭介さんの成果を直々に進言しに行きますが……」


 マリィのその申し出は非常にありがたかった。だが、恭介は自分が何をしたわけでもない。ゆえに、それを受けるのは(はばか)られたのだ。


「ごめん、マリィさん。僕にはそれを受け取る資格なんて本当にないんだ。ジェネラルリッチとも遭遇せず、運良くキミを救い出せただけだから……。だから、こんな清潔な服と携帯食料を貰えただけでも充分ありがたいよ」


「じゃ、じゃあ、せめてもう一晩、ウチでご飯でも……! ロベルト兄さんももっとたくさんおもてなしをしたがっていましたし、昨晩は私、ずっと気を失っていましたし……」


「ごめん、凄くありがたい申し出なんだけど、ちょっと気になることがあるからさ。僕はもう行くよ」


「そう、ですか……」


 残念そうな表情で、マリィは顔を伏せた。


『……この人間のメス……喰らわないの……ですか?』


 脳内に、馬鹿なアンデッドの声が響く。


「い、色々ありがとう、マリィさん。それじゃあもう行くよ!」


「え? はい。あ、せめてこれだけでも」


 そう言うとマリィは小さな指輪をひとつ差し出してきた。


「これは?」


「それは、魔除けのリングです。効果なんて微々たるものですが、お守り程度にはなるかと……」


 恭介はその指輪をありがたく受け取り、指にはめてみた。


「綺麗な指輪だ。ありがとうマリィさん」


『このメス……喰らいましょう……』


 会話の合間に馬鹿な声がまた、脳内で響く。


「そ、それじゃまたどこかで!」


「あ……はい」



 恭介が慌て気味にそう言って、マリィの前から立ち去ると、マリィは実に名残惜しそうな表情で、その背を見送った。




        ●○●○●




「困った……」


 マリィらの家から逃げるように立ち去り、街の中をあてもなく歩きながら、恭介はまたひとりごちていた。


 何に困っているのかと言うと。


『……恭介さま。先の……人間のメスは……上物にございました……。魂を喰らうべきかと……』


 これだ。


『良質な……ユニーク持ちを喰らうと……様々な能力が強化されます……』


 この取り憑いた(?)お化けだ。


『恭介さまは……この世を統べる者……。有益なエサは……漏れなく糧にすべきかと……』


 このお化けは、ひっきりなしに恭介の脳内で話しかけてくる。 


 恭介も性格上、無視するのが苦手なので、話しかけられれば答えてしまう。しかし恭介の言葉は声に出さないとこのジェネラルリッチこと、ジェネには伝わらない。


『今……すれ違った剣士も……優れた能力を保有して……おります。殺し……ませんか……?』


 その会話(というか独り言に見える)を他人に見られたくないので、マリィの家から逃げるように退散したわけだ。


 こんなお化けと、こんな物騒な会話(という名の独り言)などしていたら、すぐにこの世界の治安部隊にでも通報されてしまいそうだ。


『恭介さま……お返事をくれないと……私は寂しいです……』


 全く、どうして。


 犬ころのように、人懐こいお化けが取り憑いてしまった。






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