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四十二話 バーストディストラクション

 ――戦いは苛烈かつ熾烈を極めた。


 アンフィスバエナとストレイテナーの両者はそれでもいまだ、どちらも決め手が見つからず激しい攻防が繰り広げられている。


「くくく! そろそろ疲れてきたのではないか!? 聖剣の勇者とやらよ!」


「ふん! 貴様こそ、そろそろマナが尽きるでしょう? 真紅の邪竜め!」


 お互いに相手の隙を窺いつつ、斬撃や魔法、ブレスや技法の応酬が続く。


 しかしどちらもスタミナの消耗戦になってきたことで、互いに些かの差が生まれ始めてきた。


(……まずいな。些か我の方がマナの消耗が激しい。このままジリ貧になると、小娘の攻撃を受けきれなくなる)


 この戦いを先読みすると、アンフィスバエナのマナ切れが先に訪れることをアンフィスバエナ自身で理解していた。


(……ならば、最後にアレをやるか)


 そこで大きな一手に打って出ることにする。


 それはミドルドラゴンが使用したバーストディストラクションをアンフィスバエナが使うこと。


 これを出し惜しみしていたのには、それなりにわけがあった。


 バーストディストラクションは、自身の体内マナエネルギーを一気に放出する魔法。これを使用すると、一気にマナが枯渇するだけでなく、術者はしばらくの間マナを使った攻撃手段が全く取れなくなる。


 これを打つのは、多勢の敵の戦力を一気に削いだりする時に使うのが最も効率が良い。しかもそれはミドルドラゴンに打たせるのが無難であった。


 アンフィスバエナ本体でそれをやれば、もちろんミドルドラゴンとは比にならない威力を出せるが、その後の戦闘に支障を来たす。ゆえに出し惜しみしていたのだった。


(だが、出し惜しみしたまま敗北するのは、最も愚かしい)


 アンフィスバエナはそう考え、タイミングを見計らう。


(次に小娘が仕掛けてきた時に合わせられるよう詠唱準備に入るとするか)


 ――決着の時は近づく。




        ●○●○●




(……何か企んでいるわね)


 激しい攻防の中、アンフィスバエナの動きに妙な違和感を感じ始めていたストレイテナーは、警戒心を高めていた。


 このまま行けば、間違いなく自分が押し勝つのは目に見えている。


 なぜなら、アンフィスバエナの主なる攻撃手段がマナを多用するものばかりなうえ、エクスカリヴァーからの直接攻撃に対しては、マナを使う物理攻撃完全反射(フィズリフレクション)で防いでいるからだ。


 だが、この竜の賢さをストレイテナーも充分理解している。


 このままで終わるはずがない。


(私の聖舞脚(セイントダンス)の速度で回避できないとは思えないけど……それでも警戒しなくては)


 そう思いつつ、やや距離を取りながらアンフィスバエナへ攻撃を繰り返す。


 だがその時。


 アンフィスバエナが突如、バランスをわずかに崩して体勢をふらつかせた。


(これは挑発か? 罠か? だが、絶好の好機!)


 ストレイテナーは薄々これが罠だとわかりつつも、自分の実力を信じ、あえてそれに乗ってやると強気の姿勢で臨む。


「油断したな、邪竜め! これで終わりだッ!」


 一気に距離を詰め、アンフィスバエナの懐に潜り込む。


 対してアンフィスバエナは、ストレイテナーを確実に間合いに取り込んだことを確認し不敵に笑い、


「≪バーストディストラクション!≫」


 広範囲高威力爆発魔法を放つ。


「――ッ!」


 カッ! と眩い光が一瞬放たれ。


 直後、間もなくアンフィスバエナを軸に、周囲を爆発、炎上させた。


 その威力は凄まじく、先に放たれたミドルドラゴンのそれとはまるで別物と言っても過言ではないほどの破壊力を見せる。


 すでに崩壊していた周囲さまざまな建物は、その残骸すら欠片も残さず全てを吹き飛ばして、もはやそこには元より何もなかったのではないかと思わせるほどに、跡形もなく消し去った。


「……気配はない、な」


 アンフィスバエナが、呟く。


 アンフィスバエナ本体から発せられるバーストディストラクションの威力範囲は、優に半径二十メートルほどにも及ぶ。


 幸いだったのは、この戦いを恐れ、住民らは皆避難していた為、その範囲内にアドガルドの民がほとんどいなかったことぐらいか。


「息絶えたか?」


 アンフィスバエナは少し残念そうに、また呟く。


 正直に言えば、アンフィスバエナはこうなることもまた恐れていた。


 バーストディストラクションはマナの保有量に大きく影響される魔法の一つ。


 アンフィスバエナほどの超膨大なマナ量を持つ者がこれを使えば、いくら優れた人族であるストレイテナーといえども、無事では済まない。いや、即死の可能性も充分にあった。


 それはつまり、自分の名誉ある死からまた遠ざかることも意味しているからだ。


「……ここまでのようだな。我は今、マナを消費する技や魔法は何も使えぬ。そして見ての通り満身創痍だ。にも関わらず、かの聖剣の勇者は姿を見せぬ」


 アンフィスバエナは強敵との戦いに勝利した美酒に酔いしれるよりも、また退屈な日々に戻ることを何よりも恐れた。


 この聖剣の勇者と呼ばれた少女の前にいた、謎の少年の不可思議な強さについても、もっと知りたかったのだが、まず間違いなくこの爆発には耐え切れなかっただろう。


 周囲を今一度、見回し直す。


 しかし、やはり何も、誰もいない。


 建造物も人も。


「……つまらぬ」


 悲しい目をして、アンフィスバエナは大きな翼をはためかせ、空に舞おうとした。


 ――その時。


「安心しなよ。まだ僕ら(・・)は生きてるぞ」


 空よりその声は届いた。


 アンフィスバエナは驚嘆しつつ、自身の頭上を見上げる。


「そういうことよ! ≪エクス・カリヴァー!≫」


「グオォ!?」


 天より舞い降りるように、ストレイテナーがエクスカリヴァーからの一撃を繰り出し、アンフィスバエナの大きな片翼を斬り落とした。


「これで空から逃げられないわね。覚悟しなさいッ!」


「それにしても凄まじい威力だな」


 そう言いつつ、ストレイテナーと恭介は平地となった大地に降り立つ。


「まさか生きていたとは……! 一体どんな手品を使った? 聖剣の勇者! それに謎の少年よ!」


 アンフィスバエナは片翼を落とされた痛みよりも、希望がまだ生きていてくれたことに心躍らせた。


「そんな難しい話じゃないよ。僕が彼女を抱き抱え、空高くにジャンプして避けただけ」


 恭介はニコっと笑って応える。


「空に……ジャンプ……だと?」


 アンフィスバエナは目を丸くして恭介を見る。


「そう。ほら、こういう爆発って、横には大きく広がりを見せる分、上にはそんなに効果範囲がないんじゃないかなっと思ってね。大体合ってたでしょ?」


「そうだとしても、まず貴様は我のバーストディストラクションを初めて見るだろう? なぜ爆発系魔法だとわかった?」


「僕の動体視力からすれば、魔法がどんなものなのかは発動後でも充分に見極められる。あとは高速で彼女を抱き抱えて空高くに飛ぶだけだ」


 そんな風に説明していると、ストレイテナーは少しだけ赤面して、


「一応言っておくけど、私は自分の聖舞脚(セイントダンス)でも同じように天へと向かってジャンプ回避していたわよ!」


「……うん、まあね」


 正直なところ、ストレイテナーのその跳躍力だけではとても爆発から逃げ切るのは不可能だったので、恭介が途中から抱き抱えて、更に空高くに飛びあがったのだが、あえてそこは黙っておいた。


「そもそも貴様、麻痺はどうして解けた?」


「ああ、それはおたくらの戦いのとばっちりのおかげさ」


 実は恭介は、先のストレイテナーとアンフィスバエナの戦いの余波で一度死んでいた。


 ストレイテナーが放つエクスカリヴァーは聖属性の斬撃スキル。


 その斬撃波が幾度となくアンフィスバエナの物理攻撃完全反射(フィズリフレクション)によって跳ね返されている時、その反射された斬撃波によって体を斬られ即死したのだ。


(斬撃には耐性があったけど、聖属性は弱点だった。そうなると弱点が優先されるってことも知れたのは良い機会だったな)


 これにより、再生したおかげで麻痺は解けた。


 また、追加で耐性を取得したのだが、取得できたのは麻痺に対する耐性だけだった。


(弱点はなかなか克服出来ないんだな。気をつけないと)


「ふむ? それにしても我が最強の一撃をジャンプして避けた……か。くくく、かーかっかっかっか! 相変わらず貴様は面白い! 貴様、名はなんというのだ!?」


「ん? 僕? 僕か……」


 恭介は名をどう名乗ろうか一瞬戸惑った。


 が、やはりこれでいこう、と心に決める。


 これは自分への鼓舞と戒め。


 そしてこの国を変えるための第一歩として、知名度を広めてやりたいと考えた末の結論。




「僕の名前は、ワイトディザスター。この世を統べる者だ」


 




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