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三十九話 耐性のひみつ

 あの強さはもはや、人やモンスターといった枠に収まるレベルではない。


 ストレイテナーという少女も信じ難い強さではあったが、この少年はまたそれとは違う異質な強さを持っている。


 もちろんアンフィスバエナは名誉ある死を望んでいたが、今はそれ以上にこの少年の手の内が知りたかった。


 そう思いながらアンフィスバエナは、翼をゆっくりとはためかせ、地上へ降り立つ。


「……貴様は何者か?」


 恭介の目の前へと降り立った真紅の鱗を持つ巨大竜、アンフィスバエナが問い掛ける。


「僕はただの奴隷さ」


「奴隷、だと? ……貴様のユニークスキルを教えろ」


「僕のユニークスキルは『獲得経験値アップ』だ。他者より、多くの経験を得れるってやつさ」


「……そのユニークスキルなら知っている。たいしたモノではない。貴様のあの動き、どうみても普通の技ではない。何か特殊な技法であろう?」


「……さてね」


 これ以上手の内を明かすのは得策ではないと判断した恭介は、それ以上のことをこの魔物に話す気にはならなかった。


 そんな態度を取ればきっとこの竜は憤怒してくるだろうと思った恭介だったが、


「頼みがある」


 アンフィスバエナからの言葉は予想とは大きくかけ離れたものだった。


「これからもちろん我は貴様を襲う。だが、貴様の強さが我を上回るのであれば、どうか我が逃げ出す前に、我を倒しきれ。我を殺せ」


 竜はそんな不思議なことを提案してくる。


「……どういう意味だ?」


「我はもう生き恥を晒したくないのだ。我は戦いの中で死にたい。名誉ある死が欲しい。先日、久しぶりにまたおめおめと死に損なった。あの者の一撃は、間違いなく我が命を奪えたはずなのに、我がユニークスキルがそれを邪魔したのだ」


「……お前のユニークスキル?」


「我がユニークスキルは『緊急回避(デッドエスケイプ)』という、下卑たスキルよ。我の命が真に脅かされる瞬間、我が身を守るために遠い地に瞬間移動する。……望まずとも、してしまうのだ」


「それの何が嫌なんだ?」


「言ったであろう。我は生き恥を晒したくない。戦に負けたのなら、そこで潔く散りたいのだ」


「……生きるのが辛い、のか?」


「そうだ。だが、自害などという愚かしい死を望んでいるのではない。誉れ高く、死に行きたいのだ」


「じゃあどうすればお前を倒せる? 死ぬ寸前に消えちゃうんじゃ誰も倒せないだろう?」


「正直なところ、わからぬ。だが、必ず我を倒せる者は現れると思っている」


 アンフィスバエナの言葉に、嘘はないように思えた。


 だが、それが全て事実なら果たして恭介の攻撃でも致命傷となりえるのか、それはわからない。


「……話が長引いたな。我が命を脅かすほどに貴様が強いこと、心より願っている。ゆくぞ、人族の戦士よ!」


 アンフィスバエナが真紅の翼を広げた。


 開戦の合図と認識し、恭介も身構える。


(……まずは様子見といくか)

   

 アンフィスバエナもそれは同じだったのか、まずは牽制として大きな顎を開き、火球を連続して数発、恭介に向けて放った。


 ドドドドっと、恭介の居た場所にそれらが着弾し、大きな砂煙を巻き上げる。


「な、なんて早さと威力の火球なの……!? さっきの青い鱗のドラゴンの比じゃないわ!」


「恭介さん、完全に全弾直撃していました! これではいくら彼でも……」


 離れた場所でクライヴの回復を試みながら、ミリアとガストンは二人の戦いを見守る。


 もちろんこんなのはアンフィスバエナからすれば挨拶代わり程度なのだが、その一発ずつの威力は並の魔法師では到底作り出すことは不可能なレベルの火炎弾であるのは、彼らにはすぐにわかった。


「……直撃? 何故避けぬ? 貴様の素早さがありながら、あの程度の火球が避けられぬはずがなかろう?」


 不審に思うアンフィスバエナは、砂煙の中で被弾したであろう異端な強さを持つ少年に問い掛ける。


「……うん、その通りだ」


 少年、恭介はすぐに返事をした。


 そして砂煙の中、一歩ずつアンフィスバエナへと歩み寄りながら、


「ちょっと試してみたかったんだよ」


 この時、誰にも何も見えていなかったのだが、恭介は笑っていた。


 それはアンフィスバエナにも砂煙のせいで見えていなかったのだが、この少年の大胆不敵さ、その異様な強さを瞬時に改めて感じ、さまざまな感情で身震いをしていた。


「……教えてくれ。何を試したのだ?」


「僕のチカラ、かな」


「……な!?」


 アンフィスバエナは目を疑った。


 砂煙が徐々に晴れていき、ゆっくりと少年の姿が見え始めると、信じられない光景がそこに広がっていたからだ。


「……き、貴様! それは一体どういう理屈なのだ!?」


「さあ? ただ、やろうと思ったら出来たんだ」


 異端な強さの少年は、アンフィスバエナが放った火球のひとつを、両手のひらで大事そうに『持っていた』のだ。


 火球の一つあたりの大きさは、人間の頭部分くらい。なので両手で掴めるくらいの大きさであるのはまだ良いとして、そもそも火球も魔法の一部である。


 それを物理的に掴む、という行為自体が馬鹿げていた。


「あ、ありえん……初めて見た! 初めて見たぞ! 我が火球をそのままの状態で、しかも素手で掴んでいる者などッ!」


 アンフィスバエナは楽しんでいた。


 目の前の未知なる強さの少年の、ありえない行動パターンが、どれも予想以上の結果を見せてくれることを。


「僕だって今日が初めてさ。さーて、お返しだ、とりゃ!」


 と、恭介は言いながら、なんと火球をまるでボールのようにアンフィスバエナへと向かって投げ返した。


「……む!? カァーーッ!」


 アンフィスバエナは自身が放った速度の何倍もの早さで返球された火球を、また同じ火球で相打ちにさせ消滅させた。


 アンフィスバエナに当たる寸前、ギリギリのところで。


「こ、これは驚かざる者はおるまい! よもや我が火球を掴むことはおろか、あまつさえ、投げ返してくるなどとは……ッ! 貴様のような奴は初めてだッ!!」


 アンフィスバエナは心躍らす。


 この少年なら、きっと自分を討滅してくれる。


 そう信じて――。




        ●○●○●




(……少しだけわかったぞ、僕の秘密)


 そんなアンフィスバエナとは裏腹に、恭介は自身の『耐性』について調べていた。


 まずそもそも火球はどう見ても火属性だ。火に耐性のある恭介に効くはずはない。


 しかしそれは一体どうやってレジストするのか、されているのか、それがいまいちよくわからなかった。


 前まではただ耐性があるから効かない、程度にしか考えなかったし、そもそも敵の攻撃自体がよく見えていなかった。


 今は究極強化(アルティメットバフ)による身体能力の著しい向上が、敵からの攻撃をどう対応するか、という思考演算も可能になったため、冷静に分析を試みている。


(まず、耐性ってのは自分の意思がある程度反映するってわかったのが大きいな)


 アンフィスバエナやミリアたちには、恭介が火球を一回だけ掴んで投げ返していたように見えていたのだが、実は違う。


 実際のところ恭介は二度、火球を掴んでいた。実験のために。


 ――まずは一番最初のテスト。


(何も考えずにただ火球を掴めるかのテスト。これは失敗)


 ひとつ目は何も考えずに火球を両手で掴もうとした瞬間に、火球が蒸発するように消え去った。


 しかしこれを見た瞬間、恭介は違和感を覚えた。


 以前アシャと戦っていた時にも似たような炎の魔法を使われたが、あの時、全ての火炎玉は消え去っただけでなく、弾かれるようにして、別のところに着弾していたのを見ている。


 それ以外の場合でも思いあたるフシはあった。


 ゆえに耐性は『掻き消し』だけではなく、『反射』もしているのではないか、という仮説が浮かぶ。


(それはつまり、意識をせずに耐性をオートで身体に任せると、ランダムにダメージを受け付けない処理をする、と考えられる)


 それならば逆に、意識をして耐性をコントロールすることも出来るのではないか、という発想に至った。


 そこで二度目のテスト。


(本当に反射ができるのなら、蒸発させずにそれを反射同士の中へ収めることができるハズ)


 そしてこれが予測通りの結果となる。


 両手のひらを反射の耐性として意識をし、火球を挟み込むようにして、無事キャッチすることに成功。火の玉は消え去らず、手のひらの中で行き場なく抑え込められた。


(正直これが出来たのは究極強化(アルティメットバフ)があればこそだ)


 そもそも究極強化(アルティメットバフ)によって超強化された動体視力と腕力、思考のゆとりなどのおかげで、この火球を掴むテストの全ての動作を可能にしている。


 つまり、この世界においてこれが出来るのは恭介を除いてただの一人もいないのだ。


「……どう? 結構凄くないか、僕」


 火球を投げ返して、恭介は不敵に笑う。


「かかかッ! 貴様は凄いなどというレベルではない! だが、まだこれからぞ! もっと我を楽しませてくれよッ!」



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