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二百二十九話 深愛の証

 表情と態度は極めて冷静である様に努めているが、内心ストレイテナーの胸の内は張り裂けそうな程に心臓の鼓動を早めていた。


 イニエスタがこれから言うとしている事実。


 それは他ならぬ、彼の想い人についての事。


 彼が心に決めたという人は一体誰なのか。彼の交友関係は広い。サンスルードの元王であるし、彼の人柄の良さからも彼に言い寄る女性が実に多い事もストレイテナーはよく知っている。


 自分はそれを聞いて、本当に今までの様にイニエスタと接する事ができるのか、という不安が膨らむ。


「俺様は、」


「あ! あのッ!」


 イニエスタがようやく口を開いた瞬間、それを掻き消すかのようにストレイテナーが声をあげる。


「や、やっぱりやめましょうイニエスタさま! 別に私はイニエスタさまが誰をどう想っていらっしゃっても関係ないですし、イニエスタさまが決めた人なら別に誰でも良いと思いますし、その、あ、あの……そ、そんな事よりももっと別の……」


 冷静に立ち振る舞えと決めていた自分の口から出た言葉とは思えないほどに、言葉が震えていた。


 恐ろしかったのだ。


 どんな凶悪な魔物や敵と命を賭した戦いをするよりも何よりも、これから発せられるであろう彼の言葉が恐ろしかった。


 それが何故なのか、ストレイテナー自身でもわからない。


「テナー、ちっと落ち着け」


「わ、わた、私は落ち着いて……!」


 それまで窓の外を見上げていたイニエスタは、どう見ても冷静さを失っているストレイテナーの方へと向き直り、そして歩み寄る。


「な、ななな、なんですかイニエスタさま」


 まるで怯える子供の様に狼狽え、後ずさる。


 そんなストレイテナーを逃すまいと、イニエスタは彼女の前に詰め寄り、そして彼女の両肩に手を掛け、


「聞けテナー」


 まっすぐに彼女の瞳を見据えた。


「俺様はお前を愛してる」


 そう、告げた。


「……は、はい?」


 ストレイテナーは目を丸くして答えた。


「だから、俺様はお前を愛してるって言ってんだよ、テナー」


 ストレイテナーはイニエスタの言葉に若干、理解を遅らせながらもすぐに把握する。


「あ、あー……イニエスタさま。今、そういうのはいりませんよ。いつもの常套句ですよね」


 イニエスタは本当に心からサンスルードの民を愛し、仲間を愛している。


 それを口癖のようにいつも呟いている。


 その彼の言葉は一見軽そう見えるが、彼が民を愛しているのは皆重々承知しているので、その愛はサンスルードの民たちには充分に伝わっている。


 先の会議室でのフィーネに投げ掛けた言葉と同じ様に。


 そしてストレイテナーも例外ではなく、彼女も事あるごとにに聞かされた彼の「愛している」という言葉はある意味日常茶飯事でもあった。


「……ちげぇよ」


「ちが……う?」


「ああ」


「何が違うんです?」


「だ、だからだな、俺様が言ってんのはだな……」


「つまりイニエスタさまの寵愛は、イニエスタさまの心に決めたお方だけでなく、私含めサンスルードの民や仲間たちに分け隔てなく与えている、と、そう仰りたいのですよね?」


「いや、そうじゃなくて……」


「いえ、充分理解してます。イニエスタさまは皆に愛される王の中の王ですから」


「いや、そういう事じゃあなくて……お、俺様はお前の事を……その、と、特別な……」


「わかっております。私はイニエスタさま専用の剣です。恭介に忠義を捧げておりますが、それだからといってイニエスタさまへの忠義は変わりません。私がイニエスタさまにとって特別なのも、理解しています」


「い、いやいや、そういう話じゃあなくてだな……」


「……? イニエスタさま、何が仰りたいんですか?」


「う……く」


 気づけばイニエスタの顔面は誰が見てもわかるくらいに真っ赤に染めあげられ、いつの間にか動揺し始めたのはイニエスタの方になっている。


(く、くそ。格好付けて勢い任せで告っちまえばなし崩し的になんとかなっちまうだろうと思ったっつーのに、なんでコイツこんなに鈍いんだ!? こっちが超小っ恥ずかしくなってきやがった……ッ! クソッタレめ!)


 イニエスタも冷静さを装いながらも、全力で愛の告白をしてしまおうと考えていたのだが、ストレイテナーの鈍さにすっかりカウンターを貰ってしまっていた。


「イニエスタさま、照れてるんですか?」


「ばっ!? ちょ、おま、ちっげーよ!」


「否定しなくてもわかりますよ。でも良いんです。やっぱりイニエスタさまはイニエスタさまです。私が不甲斐ないのを気に掛けてくださったんですよね」


「な、なに?」


「確かに私はフィーネの言葉を聞いてずっと上の空でした。イニエスタさまの心に決めた人が誰なのかが気になっておりました。でもこんな調子では来るべき戦いの時に、本調子が出ないかもしれない。そんな私を元気づけてくださったんですよね」


「いや……」


「ありがとうございますイニエスタさま。昔からイニエスタさまは私の事も国民たちと同様に、いえ、それ以上に愛してくださっているのはよく理解しております」


「そ、それはそうなんだが……」


「最近は中々休まる日がなかったのもありましたが、久々にイニエスタさまからその言葉を聞けて、なんだか満足してしまいました。イニエスタさまはやっぱり私たちのイニエスタさまなんだ、って」


「テナー、あのな……」


「ご安心を。例えイニエスタさまが世界で一番の、最愛のお妃さまを迎えられたとしても、この聖剣の勇者であるストレイテナーは、一生あなたさまの剣として戦い抜く事をここに誓います」


「……っぐ」


 ストレイテナーは真っ直ぐな瞳で、イニエスタの目を見た。


 彼女の純真無垢な眼差しが、イニエスタの心を更に揺さぶる。


「話したら、なんだか落ち着いてきました。とりあえず今日はもう休みましょう。恭介たちがいつ戻るかもわかりませんし、すぐにまた大きな戦いが起こるかもしれませんし。万全を期しておかなければ」


 ストレイテナーのその言葉を聞いて、


(そうだ……俺様は何をやってんだ)


 と、イニエスタは冷静さを取り戻す。


(今もオルクラは混沌のど真ん中だ。俺様たちはまさにその中心にいると言っても過言じゃねえ。テナーの言う通り、いつまた大きな戦いが始まるかもわからねえ)


 自分の間抜けさにようやく気づき、


(俺様は……()は、とんだ大馬鹿野郎だ)


 自らの愚かさに己を呪った。


()たちは、明日、生きてねぇかもしれねえんだ。それを先延ばしにして、なんの意味がある)


 そして僅かな間、瞳を閉じる。


「……イニエスタさま?」


 そんなイニエスタを見てストレイテナーが不思議そうな顔をした。


 それと同時にイニエスタは瞼を開け、今度こそ、彼女の目をまっすぐに見つめ直し、


「この()、イニエスタ・サンスルグが世界で一番愛している女はストレイテナー、お前ただひとりだ」





 そう、愛の言葉を告げたのだった――。





 



勝手ながらタイトルを


『不死者の王の異世界無双 〜僕にだけ与えられたエクストラスキル【無限転生】が最強チートだったので、この世界を変えようと思います〜』


に変更致しました。


今後ともよろしくお願い致します。

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