二十二話 恋する魔物たちの閑話
――道中のとある閑話。
「……ところでナーガラージャよ、貴様はなぜそこまで我に執着していた?」
「キキキ! そんなの決まってるわヴァナルガンド。ワイトディザスターさまのためよ。全てはあたしの、あたしの……あたしだけの、あたしだけの愛するワイトディザスターさまの……。ワイトディザスターさまがいないなら、あたしがワイトディザスターさまになって、永遠にあたしだけのものにするために……」
「てめぇ、いい加減にしろよ、殺すぞ三下蛇。てめぇのじゃねぇっつってんだろ」
「ジェネラルリッチ……あんた、なんかキャラ変わってないかしら?」
「変わっていません。私は元より知性的で、美しく、頭脳明晰で、最もワイトディザスターさまに忠誠を捧げ、愛してきた女です」
「はあ? 聞き捨てならないわね。ワイトディザスターさまへの愛の深さはあたしが一番よ。馬鹿なこと言わないで、たかがお化け風情が」
「あ? 私に言ってるんですか?」
「キキキ! あんた以外にお化けみてぇに透けてるやつなんて、いないでしょうが」
「え? 死にたいのですか?」
「はっ! そりゃあたしのセリフよ。あんたなんか今日はリミットで即死魔法使えないじゃない。あたしがその気になれば、回復系魔法であんたをじわじわ浄化してやれんのよ? キキキ!」
「ぁあ? 私だって即死魔法だけが取り柄じゃ無いんですよ? コラプションとサクションを同時に扱うことも出来るんです。生命エネルギー吸い取りながら、また足を腐らせてほしいんですか?」
「はぁー? あれはあたしが油断してただけよ。あんな初速が遅い魔法、来るのがわかってたら避けるのなんて造作もないわ。殺すわよ、この変態お化け」
「ぁああ? 誰が変態だって? 私は純粋にワイトディザスターさまの生まれ変わりである恭介さまを心から愛しているだけです。てめぇこそ、殺されてぇのですか?」
「はぁぁぁあああ!? ざけんじゃねーわ。あたしの方がワイトディザスターさまを愛してるっつーの。恭介さまが生まれ変わりだって知ったからには、今日から恭介さまの一番はあたしだっつーの! あんたはすっこんでろ、クソお化けが!」
「ぁぁああああ!? 誰が恭介さまの一番だって? 脳みそ沸いてんですか、この三下蛇は? 恭介さまが一番愛してくださってるのは、この私、ジェネに決まってんですよ! 大体最初は恭介さまを殺そうとしたくせに、調子こいてんじゃねーですよ、三下糞雑魚蛇がッ!!」
「はあぁぁぁぁぁぁぁああああ!? こ、殺そうとなんかしてねーし!」
「いーや、していました! てめぇも駄犬も、問答無用に恭介さまを襲ってましたよね!?」
「ちちち、ちげーし! あ、あた、あたしはヴァナルガンドをやろうとしてただけだし!」
「わ、我も恭介さまがワイトディザスターさまだとわかっていればあのような真似は……」
「っは!! これだから、頭の悪い犬と蛇は!!」
勝ち誇るジェネ。
「……いやでも、ジェネも初めて僕と会った時、僕のこと容赦無用に殺しに来たよね?」
それに対し、すかさずツッコむ恭介。
「きょきょ、恭介さま!? い、いやいやいや、あれは間違いで、事故というか、決して私の意思とは違くて……」
「なーによ、あんたも同じじゃない、キキキキ! 馬鹿お化けー」
「あまり自分だけを特別視せぬ方が良いぞ、ジェネラルリッチよ……」
「ち、ちちち違います違います! 違うもん違うもん! 私は悪くないもん! そ、それに、そもそも私だけはジェネって愛称で呼ばれています! ふふふ、私だけです! わかりますか? あなたたちとは全然違うんですよ!」
話がすげ替えられた。
「違くねーし。恭介さまがそう言ってるんだし。あ、恭介さまぁ、できたらあたしのことも、ラージャって呼んでくださいましー! キキキッ!」
「そ、そういうことなら我のことも、ガンドと呼んでいただけると……」
「あ、ああ。わかったよ、ラージャとガンド、だね」
「はぁぁぁああぁ!? ふざけんなよてめーら、私だけっつってんだろ? 勝手に恭介さまに取り入ってんじゃねーよ!! 殺すぞ!?」
「キキキキ! こわーい! 馬鹿なお化けが怖いですぅ、恭介さまぁ!」
「その……ジェネ。できたらあんまりそういう言葉遣いは良くないかな……」
「はぁう!? も、申し訳ございません、恭介さま……ふぐ……ぅ……ぐす……」
「おわわ……な、泣かないでよ、ジェネ……って、うわぁ!?」
めそめそと泣き始めてしまったジェネに慌てるや否や、突然大きなベロで恭介の顔は舐められた。
「親愛の証にございます、恭介さま。我をガンドと、お呼びくださるのは、過去にも先にも当時のワイトディザスターさまと、恭介さまだけにございます。我も恭介さまのためにこの身を捧げ、愛そうと思いますゆえ……」
「え? ってことはヴァナルガンド……あ、いや、ガンド、お前ってもしかして……」
「……やはり勘違いされておられたのですね。我も性別はメスにございます、恭介さま」
「そ、そっか。ごめん」
「良いのでございます。ガンドとお呼びいただけ、光栄にございます」
大きな尻尾を左右にフリフリしながら、ヴァナルガンドは喜びを表す。
(あー、僕、こういう人懐っこい大きな犬、ほんっと大好きなんだよね。可愛いなあ)
そして思わず、ヴァナルガンドの頭を撫でた。
「……グルァオ! 恭介さま! 我にそのようなご慈悲を……! この喜び、天にも登る気持ちにございます! グァオオオオオオーーーンッ!!」
喜びを雄叫びにしたガンドを見て、ジェネとラージャの顔は一気に歪む。
「てっめぇええええ! 調子こいてんじゃねーぞ糞駄犬! 殺されてーのか!? ぁあ!? 私の許可なく勝手に恭介さまに触られてんじゃねえぞ!?」
「やっぱりコイツはあたしが殺してもいいわよね? ね? 恭介さま! 明日になったらあたしのサンシャインリチュアルで焼き犬にしてもいいよね!?」
「お主ら、少しやかましいぞ。我は別にお願いして撫でてもらったわけではない。恭介さまがそうしたいから、してくださったんだぞ?」
「キキキ……恭介さまぁ……あたしの色んなところも撫でてくださぁーい……」
「あーーーッ! 三下蛇、てめぇまでふざけたこと言ってんじゃねーよ! 私の恭介さまだっつってんだろぉ!?」
ギャーギャーと騒ぎ立てる三匹の魔物に囲まれながら、恭介はふと思った。
(僕、こんなにモテたの初めてだなあ)
……悪い気はしなかった、ようだ。




