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二十話 激闘のゆくえ

 ありえるはずがない。


 サンライトギャザーは、太陽光を一部に集め凝縮しそのエネルギーを対象に向け、打ち降ろす。


 どんな生物もこれを受けて傷ひとつ負わないなんて理不尽は、ありえるはずがなかった。


「こ、こんな馬鹿なこと、ありえないわ! コレはあんたが……あんたがあたしに見せてる幻想かなんかよ!」


 ナーガラージャにとっては、そうであって欲しかった。


 ナーガラージャは誇れるものがあまりない。物理的な戦闘能力も魔法力も、中等クラスのハンパものだった。


 だからこそ、これまではそのズル賢さだけを武器に、卑怯な方法でどんな相手も打ち負かしてきた。


 しかしそれでは、いつまで経ってもワイトディザスターの傍にいる資格に満たないと、いつも自分自身を嘆いていた。


 ワイトディザスターが封印されたのち、ナーガラージャは自分にとって誇れるものを作ろうと決めた。そしてこの百年の間に、血反吐を吐きつつ死に物狂いで会得した技法がサンシャインリチュアルであった。


 たくさんのことを犠牲にした。


 自分にとって友と呼べる者すら、この技法を得るために切り捨てた。


 次第に仲間はいなくなっていって、ナーガラージャは孤独になった。


 でもそれでも構わなかった。


 ただひとつ。


 ワイトディザスターのためだけに自分は在るのだから。


「アレは……幻よ……そうに違いない……キキキ……そうじゃなきゃ、あたしは……あたしはぁッ!」


 ナーガラージャは泣き崩れた。


 サンシャインリチュアルだけが、自分とワイトディザスターとを繋ぐ唯一の方法だったのに。


 その強さこそが自分に残された最後のプライドだったのに。


 それすらも壊されてしまっては、ナーガラージャの心すらも壊れてしまいそうだった。


 だからこそ、アレは、あそこに立っている少年と、ヴァナルガンドは、幻でなくてはならなかった。


「……いいえ、これが現実です」


「ぁぁあああああああ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だぁーーーーッッ!」


「聞け! ナーガラージャ!」


 不意にジェネが声を荒げる。


「あんたは昔からそう。いつも自分勝手な妄想を描いて、それに酔いしれて、そして現実を見ない。ワイトディザスターさまは当時からそのことを、あんたに指摘されていました! そのことを思い出せないのですか!?」


「……あ……ぁ……」


 サンシャインリチュアルによって、天に輝いていた太陽は、タイムリミットとなり、その姿を少しずつ地平線の向こうへと沈め始めた。


 そして真っ赤な夕日となり、辺り一面の景色を紅く染める。


 サンシャインリチュアルの効果が終わりを告げると同時に、ナーガラージャの勝機はその一切が潰えたことを意味した。


「……殺せ」


 もはや抗いなど、なんの意味も持たない。


 悟ったナーガラージャは、そう呟く。


「それを決めるのは私ではないです」


 ジェネは悔しそうに顔を歪め、その判決をくだすであろう人物が来るのを待つ――。




        ●○●○●




 結果から見ると、恭介の賭けは全てにおいて成功したと言える。


 まず第一は、即死魔法のリミットリセットの可能性。


 これは最初、ヴァナルガンドに殺されたのちに、復活していたジェネの言葉で予測がついた。


 どういう理屈かはよくわからないが、恭介が死んで再生されると、どうやらマナエネルギーもマックスまで回復しているらしい。つまりリセットされているのだ。


 それによって、ジェネはすぐに恭介の中で再生することができた。


 とすると、もしかしたら即死魔法の制限もリセットされているのではないかという推測。


 そしてその予測は見事に当たり、おかげでヴァナルガンドを襲うナーガの群れを全て駆逐出来た。(ただし、ジェネの方は五回リミットのリセットは成されていなかった)


 次に耐性の効果。それがどう発揮されるかについて。


 ナーガラージャのサンライトギャザーを受け、即死したのち、無限転生によってすぐさま体の再生が始まる。


 このあとは間違いなくヴァナルガンドに向けてサンライトギャザーが放たれることが予測された。


 恭介は再生後、目を覚ますまでにいくらかのタイムラグがある。長くはないとはいえ、それではヴァナルガンドは殺されてしまう。


 そこでジェネにコープスパーティを自分に掛けてもらうことを提案する。


 まだ意識が戻らず目覚めない恭介を、具現化しているジェネがコープスパーティで操る。


 コープスパーティは死体だけを操るのではなく、意識のない状態の生き物であれば、全て操れるらしいのでコレは問題ない。


 そして恭介の体をヴァナルガンドの背に向かって投げる。


 ヴァナルガンドの大きな背の体毛で埋もれるように、恭介の体を隠しつつ乗せておき、サンライトギャザーが放たれる瞬間に、ジェネが恭介の体をコントロールしヴァナルガンドを庇うような位置に調整する。


 あとは恭介の耐性がどのような形で現れるか、だった。


 サンライトギャザーに対する完全耐性を得ている恭介の体に、サンライトギャザーが降り注いだ瞬間、その効力を見事に打ち消し、下で庇われたヴァナルガンドも直撃を受けることなく致命傷は避けられ、結果、恭介の賭けは全てにおいて成功せしめたわけだ。


「……貴様には、二度も救われてしまったな」


「たまたま上手く行っただけさ。失敗すればヴァナルガンド、お前だけは確実に死んでたしね」


 ヴァナルガンドはなんとも複雑な心境であった。


 この人族は、何か普通では無いチカラがある。


「……貴様は、一体何者なのだ?」


 未知なるチカラを持つ、この小さな人族の少年に興味は尽きない。


「その問いについては、あっちへ行ってから話そうか。歩けるか?」


「貴様の言葉は非常に興味深い。毒に犯されていようと、我は這ってでもついてゆくぞ」


「わかった。僕じゃどうみてもお前を担げないからな。悪いがついて来てくれ。二人とも流石にもう争う気はないだろ?」




        ●○●○●




 恭介とヴァナルガンドは真っ赤な夕日を背景に、ナーガラージャとジェネが居る場所へゆっくり歩み寄って来る。


「恭介さま……あぁん……! 夕日をバックになんという雄雄しき佇まいなのでしょうか……! 私はまたあなたさまに惚れなおしてしまいます……はぁ……好きです……」


 恭介を見つめながら、頬を赤く染め、ジェネはひたすらに悶絶していた。


 そんな独り言を真横で聞いていたナーガラージャは、このジェネラルリッチをここまで懐柔させる恭介と呼ばれた人族に、興味が俄然沸いた。


「ジェネ、お疲れ様! 無事上手くいったようだね」


 世界で最も愛してやまない主人が、まず第一に自分へねぎらいの言葉を掛けてくれたことに、ジェネの歓喜は絶頂となった。


「あ、あ、あ、ありがたきお言葉にございます! 恭介さまぁ!」


 恍惚とした表情のジェネのことはとりあえずさておき、恭介は確認すべきことを彼らに尋ねることにした。


「さて、まずは僕からだ。ナーガラージャとヴァナルガンド、キミらに色々聞きたいことがある。いいかな?」


 ナーガラージャもヴァナルガンドも、恭介の言葉に静かに頷く。


「……僕を襲わせた主犯者は誰だ?」


 恭介はガルドガルムの群れに囲まれたことを知った段階で、これが何者かに因る作為的な何かであることを察していた。


「それは我が答えよう」


 ヴァナルガンドが口を開く。


「恭介、貴様を殺せと命じたのは……」


 ヴァナルガンドがそこまで言うと、


「待て! 黙れヴァナルガンド!」


 突如、ナーガラージャが声を荒げた。


「……アレか! 氷を司りしあまねく精霊たちよ、我に力を! ≪アイスニードル!≫」


 ナーガラージャは素早く詠唱を終え、木の枝に止まっていた小鳥に対し、氷結の刃を飛ばす。


 小さな呻き声を洩らして、小鳥の体はその刃に貫かれ、ポトリ、と木の枝から落ちて力尽きた。


「な、なんだ!?」


「……これは面白くないわね。あたしたち、ずっと見られてたわ」


 ナーガラージャは小鳥の死体を見て、忌々しそうに呟く。


「なるほど、やはりきな臭いな」


 ヴァナルガンドも何かに勘づいたらしい。


「どういうことだ?」


「恭介、貴様の追放を命じたのは、アドガルド王だ」


 恭介もなんとなく察しはついていた。


 この国の王だと確定まではしていなかったが、それなりの権力者なのだろうとは思っていた。


「だが、それはままあることだ。アドガルド王は奴隷が都に居ることを嫌う。それよりも気に掛かるのは、我にそのことをリークした人間がいるということだ」


 恭介もそこが引っかかっていた。


 自分は殺されるほどの大罪を犯したつもりはない。なのに、ジェネラルリッチを呼び寄せ、更には匿った、などという謎の言い掛かりをつけられていることが、非常に引っかかっていた。


「リークしてきたのは、王都アドガルドの経済実権を裏で担うダグラス大商会に属する男で、アークラウス男爵という亜人の貴族だ」

  

 アークラウス男爵という名は恭介にとっては初耳だ。


「この男は、直接我に接触をはかり、そして恭介、貴様のことを殺せと命じたのだ」


「ヴァナルガンド、なぜお前はそれを引き受けた?」


「受けなければ殺すと脅されたからだ。我はアークラウスには逆らえん」


「お前ほどの魔物が、そんな人族相手に脅されるなんて正直驚きだな」


「アークラウスは呪術師としても恐ろしく優れた使い手だ。特に厄介なのが、呪いを掛けた相手の心臓を確実に潰す呪法だ。我はだいぶ前からアークラウスにその呪いを掛けられていたからな」


「なるほど、それで駒のように、と言っていたんだな?」


「……うむ。我らは奴めに良い様に使われていたからな」


「そのアークラウスって人は、なんで僕を殺させようと?」


「……我も最初はわからなかった。だが、つい先程、確信した。このために、これを見るために貴様を殺させたのだろう」


 ヴァナルガンドの言葉を聞いて、恭介もピンと来た。


 恭介の、恭介だけの特別なエクストラスキル。





「……無限転生か」






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