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二百六話 封印結界内部での奔走

「な、なんだって!? ここがあの不可侵の森の中だと!?」


 ペルセウスが声を荒げる。


「……やっぱりね。そんな感じがしたんだ」


 レオンハートが表情を変えずに答えた。


「間違いないわね。ウチは封印された事があるからわかる。この中は封印の力を強く感じるもの。だからここじゃ魔法の類いもほとんど使えないと思うわ」


 サラマンドラは険しい顔つきでそう言った。


 それはつまり、ここではクライヴとミリアを救う手立てが壊滅的であると告げているのと同意義なのである。


「マジ……かよ……」


 ペルセウスが肩を落とす。


 その視線の先には、瀕死状態で絶望的な状況となっているクライヴとミリアが横たわっている。


 ペルセウスらは当然、クライヴやミリアたちとの付き合いは短い。


 ここにいる皆は全て、恭介の元に集まった者たちなのだからそれは当然だ。


 しかし彼らへの情や仲間意識はとても強い。


 そしてそれはペルセウスやシリウスだけではない。


「……サラマンドラちゃん。試しに恭介さまへマジックコールをかけてみてくれないかい?」


 レオンハートが表情を変えずに頼む。


「通信系魔法は扱える者同士じゃないと効力が出ないから、同行しているはずのレヴィにかけてみるわ」


 サラマンドラはそう言ってマジックコールを試みる。


 だが。


「……やっぱり駄目ね。魔法自体が発動しないわ」


 サラマンドラは首を横に振ってそう言った。


「そっか。じゃあ今やれる事をやるしかない。俺は少し周囲を探索してくるよ。皆はクライヴくんたちに出来る限りの応急処置をお願い」


 レオンハートは早口でそう言うと、その場からもの凄い勢いで、鬱蒼と茂る雑木林の方へと走り去って行ってしまった。


「レオンハートの奴、一体どこへ……?」


 ペルセウスが怪訝な表情で呟くが、それに答えられる者などいなかった。


 レオンハートはああ見えて、実は内心、奇妙な不安感に襲われている。


 それをレオンハート自身にはまだよくわかっていないのだが、実はこれは宣誓をした際、同じ主君を崇める者同士による大きな絆のせいであった。


 同じ主君に宣誓をした者たちは、宣誓による効力によって、互いの絆を知らぬ間に深める。


 だからこそ、ペルセウス、シリウス、レオンハートはクライヴとミリアが死の淵に立たされている事に、強い焦燥感を覚えているのだ。


 共に恭介を王とする『仲間の絆』が、そうさせているから。


「くそ……ッ! 俺たちはどうすりゃいい!?」


 ペルセウスが声をあげる。


「僕も治癒魔法は扱えないですし……そもそもこの結界内部では魔法も使えない……まさに万事休すです……」


 シリウスも悔しそうな顔をした。


「くそ! 何か……何か手立てはねえのかよ!?」

 

 ペルセウスはクライヴたちのすぐそばで跪き、ダンッ! と、拳を地面に叩きつける。


「……ちょっとどいて」


 唐突にサラマンドラがクライヴたちの元へと近寄り、ペルセウスにそこをどくように命じる。


「な、何をするつもりだ?」


「いいから」


 サラマンドラは真剣な眼差しでクライヴたちの容体を診る。


「……これはもう駄目ね」


 そして、そう呟いた。


「だ、駄目って何がだ!?」


 ペルセウスが声をあげる。


「この子たちが助からないって事」


 サラマンドラは冷酷な瞳でそう告げる。


「な、なんでそんな事を……ッ!」


「クライヴって奴は全身酷い打撲なうえ折れた肋骨が肺やあちこちの内臓に刺さってるし、ミリアって子は脇腹の深い傷が致命傷だわ。出血も酷いし、じきにふたりとも死ぬわね」


「……ッ!」


 サラマンドラの言葉に一瞬ペルセウスが絶句したが、


「そん……そんな言い方……しなくてもッ、いいだろうがよおおおおぉ!?」


 抑えきれない感情が吹き出し、思わずサラマンドラの胸ぐらを掴み上げる。


「コイツらは仲間なんだよ! 恭介さまを主君と認めた俺たちの大事な仲間だッ!! それを……それをぉおおおッ!!」


 ペルセウスは顔を真っ赤にして、涙を流して怒鳴り上げる。


「テメェは確かに六頭獣だし、まだ恭介さまに宣誓もしてねぇし、コイツらとの付き合いも俺たち以上に短いかもしれねぇ! だけど、だけどなぁ!! 一緒に戦った仲間だろうが!? 同じ戦場を駆けた同志だろうがぁ!? それを……それを見捨てんのか! テメェは!? ぁあ!?」


 ペルセウスはやりきれない想いをぶちまけるように、サラマンドラへと言い寄る。


「……離して」


「ぁあ!?」


「離してって、言ってるの」


「ざけんな!! 六頭獣だかなんだか知らねぇが、俺たち人族を虫けらみてぇにッ! 可愛らしい見た目してても心は悪魔って事かよッ!?」


「早くしないと、本当に間に合わなくなっちゃうわ」


「は!?」


 サラマンドラは小さく溜め息をついて、


「だから、早く手を打たないと本当に彼ら、助からなくなっちゃうから、さっさと手を離してって言ってるのよ」


「……な、何?」


「ふん」


 驚いたような顔をしたペルセウスの手を、パシっと払い除けて、


「……ウチらのとっておき、やってやるわよ」


 サラマンドラはそう言った。




        ●○●○●




「……っよ! っほ! そりゃ!」


 レオンハートは踊る様に軽やかな剣技で、周囲の魔物たちを次々に切り裂いていく。


「うーん。やっぱりここは本当に不可侵の森っぽいね。中で遭遇する魔物たちはどれも高い戦闘能力を持ってるし」

 

 そう言いながらも、レオンハートは襲い来る魔物たちを軽々と蹴散らしていた。


「あー、ここが行き止まりかー」


 森の中を一直線に突き進んで来たレオンハートは、激しいエネルギーの膜で作られている壁を見つけてそう呟く。


「アレに触れたらさすがにヤバそうかな。この結界から早く脱出しないとクライヴくんやミリアちゃんだけじゃなく、俺たちも全員ここで野垂れ死んじゃうしなぁ」


 レオンハートが困った様に辺りを見回すと、


「ん? アレは……」

 

 森の奥、左手方向の木々の合間に、人工的に作られた何かが目に入る。


「なんだろ……? 遺跡?」


 レオンハートは警戒しながらも、そちらへと向かう。


 段々と露わになるその人工物は、白いレンガで造られ、独特の紋様を壁面のあちこちに記してあり、口をポッカリと開けた入り口付近には青い松明が飾られた、まさに遺跡と呼べるような建物であった。


「なんだろここ。凄く嫌な雰囲気がする」


 レオンハートがそう言って遺跡を見上げていると、


「あれ……この感じ……」


 頭の奥からツーン、と響くような音。


 この感覚は何度も覚えがある。


「もしかして……ぅ……」


 レオンハートはその場でうずくまるようにし、やがて意識を失った。




        ●○●○●




「とっておき、だと!? 何か秘策があんのかサラマンドラッ!」


 ペルセウスはサラマンドラの言葉に微かな希望を抱く。


「秘策って言うか……荒技、かしらね。本当はこんな目的の為に使うものじゃないんだけど……」


「荒技だろうがなんだろうが、何でも良いッ! クライヴたちを救う方法があんのか!?」


 サラマンドラは難しい顔をして、


「救う方法はわからないけど、死なせない方法だけならあるわ。……最もこのウチのスキルが成功すれば、の話だけどね」


「死なせない方法!? お前のスキル!? なんだかわからねぇがやれるんならなんとかやってくれッ! 頼むッ!」


「……言ったでしょ。ウチのスキルが成功すればって。これを成功させるには、どうやってもいいから一瞬だけでも封印結界に穴を空けられないと無理なのよ」


「そ、そりゃどう言う事だ!?」


「ウチのスキルを成功させるには、ここの封印に穴が空かないと効果が発揮されない。それはこのスキルが、この結界の外に効果を示すスキルだからよ」


「よ、よくわからねぇが……それが出来るとなんだってんだよ!?」


「……ウチのユニークスキル『身代わり(スケープゴート)』は、ウチと血の繋がりのある者との居場所を一瞬で入れ替えるスキル。つまり、この『身代わり(スケープゴート)』を使って、レヴィとウチを入れ替えるのよ」


「レヴィアタンと……!?」


「レヴィには恐ろしく稀有なユニークスキルがあるの。それを施せば、この子らを死なせずに済むわ」


「そ、そりゃ一体どんなスキルなんだ!?」


 サラマンドラはひと呼吸を置いて、



「レヴィ最大の奥の手、その名も『永久時刻凍結法(フロストエタニティ)』よ」




 そう言って、その秘策を説明するのだった。





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