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二百話 二度と間違えない

『……介さま?』


 激しい頭痛と声が同時に響く。


『……恭介さま? 恭介さま!?』


「ジェ、ジェネ……か?」


『どうかなされましたか!? 突然私の呼びかけに無反応になってしまわれたので……』


 おぼろげだった視界も徐々にはっきりし始めてくる。


 その視界の先。恭介の目の前には魔王、ルシフェルの姿があった。


「貴様、確か恭介とか言ったな? 妾を前にして隙を見せるとは余裕だな。それとも妾をみくびっておるのか?」


 デーモンパレスの広いホールの中央部。その奥にある大扉の前で立ち塞がるルシフェルが堂々たる威厳を醸し出しながら、そう問いかける。


 恭介は周囲を見渡し、


(……ここは、デーモンパレス、か)


 そして自分の手足を見て、手のひらをグッ、パッ、と閉じ開きをする。


(……肉体は完全に若がえってる。本当に帰ってこれたんだな、僕は)


 段々と覚醒してきた意識で現状を把握していった。


 アシュレイのユニークスキル『時空の旅人(タイムトラベラー)』にて、70年前のオルクラ、ノースフォリアにあるデーモンパレスでのルシフェルとの戦いの場に、ちゃんと帰って来れたのである。


「おい、貴様。聞いているのか? それともわざと妾の言葉を無視しているのか?」


 反応のない恭介に対し、苛立ちを覚えたルシフェルが少し威圧するように更に問いかけた。


「あ、ああ。ごめんごめん。ルシフェル、あの時のままで良かったよ」


 恭介は笑顔でそう答える。


「……? 何を言っているのかさっぱりわからんが、やはり貴様は相当に妾を舐めているようだな」


「いやいや、そういうわけじゃないよ」


「ふん。そうやって余裕を見せていられるのも今のうちぞ。妾の肉体はかの伝説の悪魔、ベルフェゴルのものだ。加えてアスタロトの強化により、その戦闘能力はこのオルクラでも類を見ない」


 不敵に笑うルシフェルのその言葉に、


『ま、まさかあの伝説の悪魔、ベルフェゴル、ですって!?』


 ジェネが驚愕する。


『恭介さま! お気をつけください! ベルフェゴルと言えば、かつて……』


「ああ、知ってる知ってる」


『……え?』


 ジェネの忠告を軽く流す。


「そうだ。ジェネに言っときたい事があったんだ」


『は、はい。なんですか?』


「いつもありがとう。僕のそばにずっと居てくれて。キミがいたから僕はここに来れたよ」


『え? そ、そんな滅相もございません! 恭介さまに尽くすのは私の勝手なのですから……!』


「ふふ」


 恭介は優しく笑って、今度はルシフェルを見る。


「なあ、ルシフェル」


 つい先程までとは妙に態度の変わった恭介を見て、ルシフェルは警戒を強める。


「……なんだ?」


「僕と手を組もう」


「!?」


『!?』


 恭介の発言に、ルシフェルと体内のアンデッドたちは驚きを隠さずにいる。


「とは言っても素直に言う事を聞くキミじゃないはずだ。だからキミは、キミの持つ最強の武器、デュランダルとルーンワンドを最初から全力で使って、僕と戦おう。それで僕が勝ったら僕と手を組もう」


「な……ッ!?」


 まるで全てを見透かすような恭介の発言に、ルシフェルは目を見開く。


「き、貴様……何故妾の持つ魔武具を……!?」


「まあそれはいいから。とにかく最初からそれを使って僕と戦っていいよ。あ、それとバーストストームも使うつもりだろうから、先に場外に出よう。その方がデーモンパレスを無駄に壊したりしなくてすむだろ?」


「……貴様、一体何者だ? 何故、妾の得意な魔法まで知っておる?」


 今度は恭介が不敵に笑い、


「それはキミが素直に僕の言う事を聞く姿勢が整ったら、教えてやるよ」


 と、強気の態度で言い放った。




        ●○●○●




 恭介はルシフェルを外へと誘い出し、デーモンパレスの屋上の上空にて、対峙する。


『恭介さま……こう言うのもなんですが、一体何があったのですか……? 先程から恭介様の雰囲気が大きく変わられていて、私はなんだか不安で……』


 ジェネが心配そうに体内から声をかけてくる。


「大丈夫さ、ジェネ。僕は僕のままだ。そこは安心してくれ。それよりこの戦いを一分でも早く終わらせないとなんだ」


『確かに恭介さまがことを()いていらっしゃるのは感じ取れます。一体何が……』


「あとで全部話す。僕の全ての行動を信用して欲しい。とりあえず、まずは目の前のプライドの高そうな悪魔を屈服させないとだからね」


『……はい! ご無理はなされないでください……』


 上空で漂うルシフェルは、恭介に言われた通り最初から両手に魔武具を装備して、臨戦態勢を整えていた。


(さて、今度はマインドブースト無しでルシフェルを完封しないとな)


 恭介はダスクリーパーの言葉を思い返していた。


 マインドブーストに関する注意事項。脳の酷使。


 ――刻の牢獄に囚われる可能性すらある。


 おそらくそれがあの70年もの眠りだったのだろうと推測していた。


(一日に一回まで、しかも使用時間はごく僅かな時間だけに限定し、微かな頭痛を感じたらすぐに状態を戻す。マインドブーストについては今後、このルールを徹底しなくては)


 そう決めたのである。


 次に同じ状態になり、また何十年も眠り続けたらもう恭介に帰ってこれる術はない。


 たった一度だけの奇跡のやり直しなのだ。


 肉体は死なずとも、時間という制限は容赦なく進む。


 だからこそ恭介は決めた。


 全てを守り、限りなく理想的な未来を掴み取る為に。


(もう、二度と、僕は間違えないッ――)




        ●○●○●




「っは! 馬鹿な子供だ! 自らルシフェルさまの最強状態を許すなどとはな! ルシフェルさまにデュランダルとルーンワンドを持たせれば、もはやその戦闘能力は如何なるものなのか、想像すら追いつかない! あの子供が死んだのち、貴様らもすぐにルシフェルさまが痛みすら無く死を与えてくれようぞ!」


 デーモンパレスの最上階、魔王の間にて。


 レヴィアタンに拘束されているアスタロトが魔水晶を見て、嘲笑うかのように声をあげる。


「……なぁ、テナー。アイツ、なんかおかしくねぇか?」


 そんなアスタロトの言葉を無視するように、イニエスタはストレイテナーへと問いかける。


「そう、ですか? 私にはよくわかりませんけど……」


「なんつーか……急に顔つきが変わってから、妙に落ち着いてるっつーかよぉ」


「うーん……でも恭介って、前からそういう大胆不敵なところ、あったと思います」


「大胆不敵、ねえ。なんかそういう感じじゃねえんだよな」


「……? どういう事ですか?」


「わっかんねえ。わっかんねえけど、なんかちげぇんだ」


「何か違う……?」


 ストレイテナーはイニエスタの言葉を聞き、魔水晶に映る恭介をまじまじと見つめる。


「ど、どっちにしても早く恭介さまにはケリをつけてもらいたいわ。ウチのスペルバインドもそう長くは持たないから」


 レヴィアタンが顔中に汗をかいて、必死にアスタロトを抑え込む。


「大丈夫だ、レヴィアタン。恭介のやつには俺様の声が聞こえてる。だから間違いなく10分以内に片付けてくれるぜ。アイツの今の顔は、そういう顔だ」


 イニエスタはまるで、恭介の勝利が当然のように断言する。


「馬鹿どもめ! ルシフェル様に勝てるはずがないッ!! 貴様らの主人が無様に死に、ここで後悔しながら貴様らも死ねッ!」


 アスタロトは怒りを全面に表情に現す。





 イニエスタたちはそのアスタロトの言葉を聞き流して、恭介たちの様子を固唾を飲んで見守るのであった。

いつもご愛読賜りまして、まことにありがとうございます。


2021年3月よりここまで1日たりとも空ける事なく連載を続けていましたが、いよいよ執筆速度が追いつかなくなり始めてきたので、この先は一話を1〜3日ほどの間を空けての投稿とさせていただきます。


今後ともよろしくお願い致します。

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